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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
生徒会編
168/253

律だって私と生徒会したがるもん!! 私ちゃんと幼馴染いるもん!!

「なに、返事はすぐじゃなくていい。色々と混乱もあるだろうし、部活のこともあるだろう」

俺に生徒会への強制加入を命じた会長は、機嫌が良くなって、鼻歌まじりにデスク作業を始めた。

「ちょっと待ってください! こんな横暴許されるはずありません! 会長だってASMR部の創設にはたくさん協力してくれたじゃないですか!」

以前泣かせた手前強く言えない俺に代わり、天宮が声を荒げる。

「ASMR部の創設に協力したのは律に居場所が必要だと思ったからだ。だが、生徒会に入ればそれも解決する」

「なら風紀委員会への加入に生徒会が介入したのは!?」

「それは生徒会として生徒同士の諍いを仲裁したまでのこと。私としてはどちらが勝っても問題なかった。まぁ風紀委員会に律を取られるのが癪に障るがな」

会長が動じる様子は全くない。

「なら、どうして最初から生徒会へ誘わなかったんですか? 居場所が必要という理由なら私を使うなんてまわりくどいことしなくていいですよね?」

会長の手がぴたりと止まる。

「それは……」

さっきまでの余裕そうな表情とはまるで違う。眉間に皺を寄せ、心なしか頬も赤い。

「それは……その、君には関係ないっ! 律が生徒会へ入るのは決定事項だ。これ以上、話すことはない!」

会長の怒声に対して、今度は天宮が顔を嗜虐的な笑みを浮かべる。

「勇気がなかったんでしょう?」

瞬間、会長の声が爆発的に紅潮した。目を見開いて、完全に動揺している。図星みたいだ。

「うるさいっ! なんのことだ!?」

「会長と律さんの関係には不自然な点が多すぎます。あれだけ会長は律さんを慕っておきながら、まるで会ったことがない」

「それは……そういう機会がなかっただけだ」

「逆に律さんも最近まで会長の姿を見たことさえ無かった。もしかして、律さんが集会をサボってたのわざと見逃してたんじゃないですか? 律さんに見られると緊張でパフォーマンス出来ないとか?」

「きっ、貴様! 律の仮の居場所、一時的な避難所の分際でぺらぺらと!」

「天宮、でもこの前の大運動会では上手にスピーチしてたぞ。」

俺が初めて会長の姿を見たのは大運動会での開幕宣言だ。それでも、別に大しておかしなところは無かった。

「ま、まあな。律が入学して以来ずっとれんしゅ──あっ」

「練習って言いましたね?」

「…………」

ぎりりと音がしそうなほど、会長が歯を食い締めている。

「だから……だからなんだ! さっきからなんなんだお前は! そうか、わかったぞ! 律の前で私を辱めるつもりだなっ。そうはいかないぞ、私と律の絆はその程度では揺るがない! そうだろう? 律!」

「えっ、いやまあはい。そうですね」

もうなんて答えたらいいかさっぱりわからない。会長なんか泣き目だし。大泣きする前の子供ってこんな感じだよな。

「いえ別に律さんの前で辱めようとかではないですよ」

「じゃあなんだ。どういうつもりだ」

「私が言いたいのは一つだけ……」

それから天宮が息を吸う。俺の脳みそが激しく警鐘を鳴らしている。天宮がよからぬことを言う気がする。

反射的に手が天宮の口を押さえようと動くが間に合わない。

「自分で声をかける度胸もない”へたれ”が後から腐すなって言ってるんですよ!!」

雷に打たれたような会長。部屋は静まり返る。

「どうせ、忘れられていたらどうしようとか、上手く喋れないかもとか、断られたらどうしようとか考えてたんでしょう? それだけならまだしも変に周りをけしかけて、中途半端に関わって。挙げ句の果てに、今更生徒会へ入れ、なんて言って。通じるわけないでしょう? 子供じゃないんだから。この前の件だって、幼稚園でちょっと遊んだだけの関係を引っ張って怒鳴りつけて。これだから幼馴染キャラってのは厄介なんですよ。碌にアクションを起こさないくせに、幼馴染って主張だけで、相手をあたかも自身の所有物のように扱って」

「天宮っ、もうやめてあげよう。な? 流石に可哀想だ」

「へたれ?……へたれ……私が……へたれ?」

会長は凛々しい顔に全く似合わない間抜けな顔で壊れた人形のようになっている。しかし、一瞬の硬直の後、急に表情が険しくなる。

「どうしましたか? やっと諦めました?」

「……さない」

「?」

「お前だけは許さない! 天宮清乃!」

長い黒髪とその整った顔は大和撫子を彷彿させ、その殺意は刃を思わせる。

これは本気で怒らせてしまったかもしれない。

「天宮、ここはひとまず撤退するぞ! これ以上、ここにいてもどうにもならない!」

「……ですね。まだまだ言いたいことはありますが、とりあえず行きましょう」

天宮が言うことを聞いてくれて助かった。このまま2人で殴り合いでも始まったらどうしようかと思った。

「おい、天宮清乃。言っておくが、私と律は幼稚園だけじゃないぞ」

慌てて部屋を出ようとした俺たちに背後から語りかける。

「律は知らないと思うが、私と律は小学校でも中学校でもずっとそばにいた。もちろん、四六時中というわけにはいかなかったが、そういう時は律熊くんがいる」

振り返ると、会長は心底安らいだ顔で小さなぼろぼろの熊のぬいぐるみに顔を擦り付けている。

「律さん、なんかよくわかりませんが、この人やばいですよ。私よりやばいです。早く逃げましょう」

天宮に自分がやばいという自覚があっことに衝撃を覚えながら、俺は生徒会室を出た。

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