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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
生徒会編
165/253

思い…出した!

「このオムライス、とっても美味しいです!」

「よかった! 私の自信作なんだ」

 食卓を囲むテーブルで律花と天宮が楽しそうに会話している。俺の退院祝いのはずが、俺そっちのけで盛り上がっていた。俺も黙々と唐揚げを食べる。うん、美味しい。

「芽衣も学校に復帰して、前と変わらず元気だよ」

「そうか、ならよかったよ。精神的な後遺症が残ってないか心配だったんだが」

「見る限りは大丈夫そうだよ」

「しばらくは登下校とか外出時は気をつけろよ。あれだけ大きな犯罪組織の解体に関わったからな。本当は俺たちだけでも、登下校に付き添った方がいいんだろうけど」

 この組織に関してのニュースは全国で大きく取り上げられた。組織の解体は無事に進んだらしい。

 全国的にも活動していた組織で、俺を刺したあの男は中核の人物だったらしい。部屋にいた男たちに御園先輩たちが手こずったのは、組織の要人を守るための手練だったからだろう。なぜそんな人物があんな場所にいたのか。田中さん曰く、青のとこは自分好みの女性が捕まった時だけ、現場に顔を出して行為にあたったらしい。この気分の悪い話は、俺と田中さんだけに留めている。

「結局、芽衣ちゃんは進学どうするんでしょうか」

「まだ家族で話し合っているみたい。今のところは奨学金使って進学する予定みたい」

「へえ」

 そうしたお金の問題を気にすることなく勉学に励むことができている自分はやはり恵まれているのだろう。だからといって両親の全てを許すとか不和が解消する訳ではないが。

「しかし、次はどうしましょうか」

「どうするって何を?」

「部活ですよ、部活。次はどんなASMRを作ろうかなって。あっ! そういえば恵先輩と千春さんのダブル耳舐め嘘喘ぎ弱オスいじめASMR作ってませんよね。早く作りましょうよ!」

 さっきまで暖かかった食卓が一瞬で凍りつく。こいつの場を凍らせる力、何かの能力者ではないかと疑いたくなるほどだ。

「あははー、“氷河時代(アイスエイジ)”、なんちゃて……」

 天宮が冷や汗ダラダラで俺の方を見ている。引き攣ったウインクとぺろっと舌を出している姿がなんとも憎たらしい。

「ええっと、清乃ちゃん。今、なんて……?」

「大丈夫だ、律花。何も気にしなくていいぞ。天宮は底抜けに馬鹿でな。こういう訳のわからないことをよく言うんだ。動物の鳴き声と思ってくれていいぞ。な? 天宮」

「は、はい! そうです! 私、馬鹿なので。わんっわんっ、馬鹿ですわん♡」

「ほらな。まったく、食事中ぐらい人間らしくしろっていつも言ってるだろ」

「すみません、律さん! いやあ困っちゃいますよね。畜生の部分が思わず出てしまいました」

 二人で誤魔化笑いをしつつ、律花の方を見る。律花は俯いて何も言わない。これはアウトくさいな。幸い俺は何も言っていないから天宮に全ての責任をなすりつけよう。ASMR部は健全な部活で天宮だけがド変態なのだと言えば大丈夫だ。どうせなら、遅かれ早かれ尻尾を出しそうな綾乃先輩も加えておこう。うん、うちの部活にはド変態が二人だけいてそれ以外は皆まとも。あながち嘘ではない。

「律花、実は天宮と綾乃先輩っていう人だけが俺の部活ではちょっと────

「ぷっ、ふふっ、あははっ、あはははは」

 大きな声で律花が笑い出す。目をぱちくりさせて俺と天宮は互いを見る。こいつの影響で律花までおかしくなったのかもしれない。やはり近づけるべきではなかったか。

 俺の心中を察したように天宮は首を横に振る。私のせいじゃないと主張せんばかりだ。俺はそれを無視して唐揚げを食べる。これ、凄く美味しいぞ。

「律花、ごめんな。兄ちゃんがバイ菌を家に連れ込んだせいで」

「誰がバイ菌ですか!?」

 依然、律花は笑い続け、しばらくして乱れていた息を整えた。

「いやあ、ごめん。前の学校見学の時も思ったけど、兄ちゃんなんか楽しそうだな」

「そうか?」

 前より騒がしいことは間違いないが、楽しいかどうかはわからないな。結構、面倒なこともある、というか面倒なことばっかりだが。

「そっちの方が性に合ってるよ。あー、なんか安心したらすごく笑っちゃった」

「まあ、最初に会った頃よりもマシな顔してますよね。俺一人で全部解決しなくちゃ、みたいな切羽詰まった顔してましたもん、ずっと」

「そんな顔してたか? それいうならお前も……いやお前はずっと変態だったな」

「律さんの私への印象、雑すぎませんか!?」

 初対面の人にいきなりおほ声かましてくるやつと、落ち込んでいる中学生にノーブラ乳首当てゲーム振るやつの間にどんな変化があるというのだろうか。

「あ〜、家族以外の人と家でご飯食べるのなんていつぶりだろ。下手したら幼稚園以来じゃない?」

「幼稚園? なんかあったっけ?」

「ほらっ、兄ちゃんと凄く仲のいい女の子がいた、ええっと名前はなんだっけ?」

「ああ、そういえばいたかも。でもあれって俺の友達だっけ? 律花の友達と一緒に遊んでた記憶ならなんとなくあるけど」

 幼稚園で律花ともう一人、律花の友達を相手していた記憶がある。かなり記憶が薄れて、顔も名前も浮かばないが。

「そうそう! 思い出した! 十叶ちゃん! 苗字はなんか難しくて……ししみや?だっけ」

「……ししみや十叶?」

 最近聞いた名前だ。ししみや十叶? ししみや十叶 獅子宮十叶!

 天宮も俺の方を目を見開いて見ている。

「律さん、それって……」

「いやおかしい。律花の友達なら俺らの一個下だ。高校2年どころか、まだ中学生だぞ」

「いやだから私の友達じゃないって。なんか、いつの間にかいたじゃん。私、てっきり兄ちゃんの友達かと。やたら兄ちゃんにベタベタしてたし、私より年上だったし」

 少しずつ思い出してきた。そう言えば、俺が律花と遊んでいたらある時からそこに混じってて、てっきり律花の友達だと思っていた。それにやたら甘えん坊だったから、年上なんて露とも思わなかった。

「ええっと、じゃあこの前の件って……」

 生徒会室で起きた、事件。俺が会長と昔会っていたらしく、俺がそれを覚えていないから会長を泣かせてしまった。

「俺と会長は幼稚園で会っていた……。会長はストーカーじゃなかったってことか?」

「これは…………律さんが悪いですね」

「……」

 色々と反論したいところだが、忘れていたのは事実だ。明日、先の件で会長とちゃんと話そうと思っていたが、これは話し合いじゃなくて謝罪になりそうだな。

 俺は大きく肩をすくめ、最後の唐揚げを箸で取った。天宮が隣で抗議していた気もするが、無視した。


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