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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
学校見学会編
163/253

お見舞い(ASMR部)

 田中さんたちが部屋を出て、もう一眠りした俺は再び起きるとお昼になっていた。田中さんに最低限の身だしなみの手伝いをしてもらい、それから病室のドアがノックされた。

「はい。どうぞ」

「失礼しま◯こ」

 雑な下ネタと共に天宮が部屋に入る。そこには潮水さん含めたASMR部全員が揃っていた。それぞれが近くから椅子を引っ張り出して座る。

 いつも能天気な天宮を除き、少しだけ空気が重い。

「ええっと、皆さんから話は聞きました。連絡に気づかずすみません」

 最初に潮水さんが謝る。

「気持ちだけで十分ですよ。あんな危険なこと、新入部員さんにはさせられませんから」

 天宮の言葉に皆が頷く。それから恵先輩が口を開く。

「今回はごめんね。僕の判断ミスのせいでこんなことに」

 恵先輩が深々と頭を下げる。

「勘弁してください。恵先輩が謝ることありませんよ。あの時はあれが最善だったと思います」

「ええ、本当に。謝るべきはこの私です。高梨さんが信頼して私に任せてくださったのに応えられず、このような結果になり申し訳ありません。桜木さんからも謝罪の言葉を預かっています」

 御園先輩がいつになく落ち込んでいる。

「いやいや、あれだけの男たちを倒してくれただけでありがたいです。先輩たちがいなかったらどうなっていたか」

「いえ、しかし……」

「それに怪我も大したことなさそうですし、あれだけのことがあって被害がここまで抑えられたのは奇跡ですよ。これ以上は欲張りってものです」

「組織の人も1人も死にませんでしたし」

 そう言う天宮の隣で、綾乃先輩が呆れたように肩を落とす。

「本当に大変だったのは君が気絶した後だ。御園君を止めるのにどれだけ苦労したことか」

「その件に関しては本当に申し訳ありません」

 御園先輩は恥ずかしそうに火照った顔を手で仰いでいる。犯罪組織の人間を半殺しにしたとはとても思えない愛らしさだ。

「そういえば、どうして先輩たちはこっちに来れなかったんでしたか?」

「あー、それは」

 恵先輩が横目で天宮の方を見る。

「いや〜、私のライブがちょっと盛り上がりすぎてですね。ほら、これ」

 天宮が俺にスマホの映像を見せる。そこには信じられない人だかりとそれを規制しようとする風紀委員会や部の面々が映っている。

「この映像、バズってるんですよ。謎の歌うま女子高生って。凄くないですか? まぁ、撤収時に警察やらなんやらに追いかけ回されましたけど」

「あまりに騒ぎが大きくなりすぎて、本当に大変だった。芽衣ちゃんが見つかった時点で、君が辞めないからだ」

「いやいや、もしかしたらまた見失う可能性もありましたし。それに一曲目の時点でだいぶ身動き取れませんでしたから!」

 天宮は必死に弁明している。映像を見るに、ずいぶんと早い段階で人が集まっていたのは事実みたいだし、それに見失う可能性があったのも事実だ。興が乗ってきたからという理由も少なからずあるのだろうが、責める気にはなれない。

「でも、今回の怪我ってそこまで深くないんですよね?」

「そうなのか? 俺はまだ何も聞いてないが」

「私が見た限り、傷は浅い。受けた場所も左肩だから臓器への直接的なダメージもない。君が倒れたのはあんな状態で敵を追って動き回ったからだろう」

「それは、でも仕方ないというか。あそこで逃げられたら、きっと厄介なことになってましたし。俺しか追える人がいなかったから」

 そのタイミングで皆が顔を見合わせる。

「いや、あの時すでにビルの出入り口は抑えられていた。インカムで伝えたと思うが」

「えっ!? まったく気づかなかった……」

「私は警察から逃げてたので行けませんでしたけど、律さんが逃げた人を追うように指示して綾乃先輩が答えていたのは覚えています」

「あの時、誰からも応答がないと思って、てっきり皆取り込んでいるのかと」

「まぁ刺された後みたいですし、混乱してたからじゃないですか?」

 そういうものだろうか。そういえばあの時は耳の調子も悪かったし、戦って刺された後の興奮状態で気づかなかったのか……

「面会終了時間です」

 向こうから看護師さんの声がして、皆がゆっくり立ち上がる。

「律、ゆっくり休んでね。皆、部室で待っとるけん」

「ありがとう千春。すぐに復帰できるよう頑張るよ」

「今は頑張らんでよかよ」

 千春が笑って言う。

 そして、皆が部屋を出た。

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