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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
学校見学会編
154/253

行方不明

「ええっと、はい。律花はいますけど……この声もしかして田中さんですか?」

あっちが田中だと名乗っているのだから、この聞き方はおかしいかも知れないが、聞き覚えのある声に思わず反応してしまう。

「……あなたは……なるほど。一ノ瀬律、ですね?」

「はい」

「なら話が早くて助かります。実は、妹の芽衣が帰っていないんです」

俺は時計を見る。8時過ぎ、決して早い時間ではないが、このぐらいの時間なら友達と遊んでいる可能性もありうると思うが。

「兄ちゃん、電話だれ?」

リビングから心配そうな声で律花がやってくる。

「律花、ちょうど良かった。田中さんの家から電話だ。芽衣ちゃんがまだ帰っていないそうなんだが、何か心当たりないか?」

「!」

ギョッとした表情をした次の瞬間、律花が俺の手から受話器を奪っていた。

「あのっ! 芽衣は今日バイトって言ってて、でもその親御さんは何も聞いていないんですか!?」

「ええっと、はい。すみません、何も」

受話器の向こう側から、律花の勢いに戸惑う田中さんの声が聞こえる。

バイト? それも家族に黙って。

「律花、田中さんは実は親じゃなくてお姉さんなんだ。だからそういうの知らないだけかも……って泣いてるのか?」

受話器にしがみつく律花はボロボロと大粒の涙を流していた。

「どうしよう! どうしよう兄ちゃん! 芽衣が、芽衣が!」

「いいから落ち着け! 電話もとりあえず兄ちゃんに預けろ」

受話器を渡した後、止まらない涙を袖で拭きながら律花はこくこくと黙って頷いている。

「田中さん、とりあえず状況を整理してもいいですか?」


それから律花と田中さんに話を聞いて、ようやく状況が掴めてきた。

まず、普段は遅くとも18時には家に帰ってくる芽衣ちゃんが一向に帰ってくる気配がない。それを心配した両親が位置情報アプリを使うもスマホの電源が切れていて居場所がわからなかった。取り乱した両親が慌てて田中さんに連絡し、狼狽して動けない両親の代わりに芽衣ちゃんの友人宅に田中さんが連絡を取っていたらしい。

最近は高校の進学先について家庭内で喧嘩が絶えなかったらしい。主に学費をどうするかが問題で、これは俺が入院していた時に田中さんから聞いた話と同じだ。つまり、両親はそうした家庭内不和に責任を感じて家出したのではないかと考えているらしい。

一方で律花の方は、芽衣ちゃんが学費のためにバイトをすると言っていたのを学校で聞いたらしい。その時の様子がなんとなくおかしかったのと、バイトについて聞いても詳しく教えてくれなかったのがずっと心に引っかかっていたそうだ。


「あの時、私がちゃんと聞いてたら!」

「落ち着け、まだ危ない目に遭ったわけじゃない。普通のバイトで、今は業務中だから連絡がつかないだけかも知れないだろ」

そう言って律花をなだめるが、我ながら苦しい説得だ。まず、中学生ができるバイトなんて碌なものじゃない。その時点で違法だ。しかも連絡までつかない、友達や家族に言えない仕事ときた。事態は一刻を争う。

「田中さん、警察に連絡をお願いします。俺は友達にも声をかけて街を探してみます!」

「わかりました。くれぐれも無理はしないでください。私も警察とのやりとりが終わったらすぐに合流します」

「わかりました! お願いします!」

互いの連絡先を交換し電話を切る。その後すぐにASMR部のグループに電話をかけた。

頼む、誰か出てくれ。


「律さん? 全体で電話なんてどうしたんですか?」

数コール後、天宮が電話に出た。それからすぐに通話への参加者が増える。綾乃先輩と潮水さん以外の全員と連絡がついた。

「時間がないから端的に! 芽衣ちゃんが行方不明、音信不通になった。怪しいバイトに参加していたらしい。とりあえず、動ける人は学校前に集合してくれ!」

「「「「了解!」」」」

この情報だけで動いてくれる皆に心から感謝しつつ、俺はすぐに出発の身支度をする。

「兄ちゃん、私も!」

「ばかっ、これから創作するのは繁華街中心だ。お前を連れていったら危ないだろ。お前は田中さんから連絡がないか家で待っててくれ。それから母さんと父さんにもこのことを伝えといてくれ。教員のネットワークとかもあるかもしれない!」

「でも……ううん、ごめん、兄ちゃん。私もできることやるよ」

涙を力強く拭ってから、律花はすぐに自身のスマホを操作し始める。本当は自分も探しに行きたいのだろうが、それがかえって捜索を遅らせることを理解したらしい。

俺はそんな妹の成長を感じながら、家を飛び出した。


「皆、ありがとう!」

ここにくる途中、田中さんと再び連絡を取った。前立高校の生徒で何人か協力する旨を警察に伝えてもらっている。そのため、全員が制服で集合している。これで俺たちの方が補導されるなんて間抜けなことにはならない。

「いえ、お構いなく。それよりも早く動きましょう。何か目星はありますか?」

「……」

俺の表情を見て察した皆の顔に深刻さが増す。

「一応、風紀委員会の幹部メンバーには連絡してる。美咲ちゃんと桜木くん、唯花ちゃん、梅野ちゃんは動けるみたい」

「ありがとうございます、恵先輩。俺も綾乃先輩には個人でメッセージを送ってます。ただ締め切りがどうとか言っていたのでもしかしたらスマホを見ていないかもしません」

それを考えて、メッセージは剣凪さんもいるグループへと送った。あとは願うしかない。あの人の力は絶対に欲しい。

「じゃあ、皆で手分けして街を探しましょう」

「夜の繁華街は危険ですから千春さんは私と」

「なら天宮は俺と動こう。恵先輩は」

「ありがとう、律くん。でも心配は無用、僕は一人で大丈夫。風紀委員会の子とも合流するから」

「ありがとうございます。じゃあそれぞれよろしく願いします!」

そう言って解散した。


「律さん、最初に行きたい場所ありますか?」

街に向かって走る途中、天宮が聞く。

「いや、正直言ってあてはない。ひたすら街で聞き込みをと思っていたが」

スマホには律花からもらった芽衣ちゃんの写真がある。これを使ってひたすら見かけていないかを尋ねて回るつもりだった。

「結局それしか方法はないと思いますが、それを行う場所には一つあてがあります。そこで目撃情報が()()()()いいのですが」

「なければ?」

それから黙って走る天宮の後ろを追いかけた。

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