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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
学校見学会編
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懐かしい声

「律さん、それで昨日は何があったんですか?」

 学校見学会の翌日、放課後のASMR部部室。ソファに座って御園先輩の淹れてくれた紅茶を飲んでいた俺に、隣から天宮が話しかける。

 なんとなく話を聞いていたのだろうか、それぞれ違うことをしていた皆が一斉に手を止めて聞き耳を立てる。

「いや、俺もイマイチわかってないんだ。双葉ちゃんを探して行ったら生徒会室に辿り着いて中に入ったら、会長がいて。それで会話するうちにどうやら俺は昔に会長と会っているらしく、それを覚えていないことを物凄く怒られた」

「……」

 聞いてきた天宮を含め、皆が静まり返る。

「一ノ瀬君、その言いづらいんだが……」

「なんでも言ってください、綾乃先輩。何か解決の糸口になるかも知れませんし」

 先の大運動会を通して生徒会との関係は微妙な状態になっている。そんな状況での会長との揉め事は早く解決したい。大事になってからでは遅いのだ。

「一ノ瀬君。それは、君が悪いんじゃないか?」

「……」

 綾乃先輩の言葉を全員の沈黙が肯定していた。

「ですよね。でも、俺も必死に思い出しているんですけど、全く心当たりがないんです。そもそも小学校の高学年からここ最近までほとんど人と話なんてしてませんし」

「では、それ以前。小学校低学年の時ではないのですか?」

「それでも心当たりがないです。というか、そんな昔のことなら覚えてなくても怒ったりしなくないですか?」

 俺の反論に御園先輩は困ったように再び考え込んだ。

「でも覚えてなくて怒ったってことは物凄く仲が良かったとやない?」

「でもそれなら流石に覚えていそうだが……」

「逆はどうかな? 律くんが物凄くひどいことをしてしまってとか? それなら覚えていないのに怒るのもわかる。それこそ律くんに悪気がなかった場合は、怒らせた律くんが覚えていないのも十分にあり得る」

「なるほど……」

 恵先輩の言う通りだ。その場合は、例え無意識に傷つけていたとしても俺に非があるし、怒られて当然だ。加害者はすぐ忘れて、被害者は一生覚えてるなんて言うし。

「しかし会長のあの感じって、被害者のそれだろうか? 風紀委員会の時の手紙なんかはかなり親しみがこもっていたように感じられるが」

「ああ、そうだ。昨日、会長と話した時に思い出したんですが、千春を助けに行った時に皆に連絡を取って、俺に千春の居場所を教えてくれた人、あれは会長でした。でもそのことではないって言われましたが」

「ふむ、千春君の救出時に手を貸してくれたとなると、怨恨の筋は薄いか?」

「よく考えると、私が部を作りたいって相談した時律さんを頼れって言っていましたし、恨みがある感じではなさそうでしたね。律さんのASMR好きも会長からそこで聞きましたが、そもそも何で知っていたんでしょうか?」

「あっそれ僕も言われた。それに会長、よく律くんの教室の方を見ていたよ」

 そういえば、あったな。会長、俺のASMR好きを散々広めてたんだった。あの時、俺も怒って良かったのでは?


「しかし、これらの要素を統合すると会長は……」

 話し合いが進みなんとなく結論がまとまり始めた。そして、皆が言葉に出さなかった答えを天宮が口に出す。

「律さんのストーカー、ですね」

 再び無言の肯定が訪れる。

「えっ、じゃあ俺が怒られたのってストーカーの……」

「逆上ですね。最近そういう話もよく聞きますし」

 他の皆もふんふんと頷いている。そして、それぞれ自分の作業に戻っていく。

「いや、何も解決してないが!? なんで会長がストーカーなのかもわからないし、これからどうしたらいいかもわからないぞ!」

「う〜ん、と言っても個人間の問題ですし。それに、まだ何も起きてない状態ではうちも動けないんですよね」

 いつもより低い声で、天宮が態度の悪い警察モノマネをしている。深刻じゃないと判断したのか、天宮以外の皆も急に興味をなくしている。薄情この上ない。

「まったく、他人事だからって」

 はあ、仕方ない。もう少し情報を整理したら会長に会って話すか。明日の放課後にでも生徒会室に行こうかな。

 今から行ってもいいのだが、会長のあの表情がなんとなく引っかかる。ストーカーの逆上? もしかしたら俺と会長はどこかで本当に知り合っているのかも知れない。最後にもう一度、卒業アルバムなんかを漁ってみよう。

 そして、俺は大運動会の賞金で買った編集ソフトの参考書を読み始めた。


 夜8時 リビング

「律花、どうしたんだ?」

 父さんと母さんはまだ帰ってきていない。リビングにある過去のアルバムを漁っている傍らで律花がソワソワして部屋を歩き回っている。

「えっ、ああごめん」

「何か悩みがあるなら聞くぞ」

「……実は」

 律花がそう言うと同時、家の電話がなる。俺は律花に一言断りを入れて、電話を取るために立ち上がる。その時の律花のこわばった表情が妙に頭に残った。

「はい、もしもし。一ノ瀬です」

「深夜にすみません。私、田中芽衣の保護者の田中衣吹と言います。そちらに律花さんはいらっしゃいますでしょうか?」

 電話口から、懐かしい声が聞こえた。

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