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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
夜の大運動会編
146/253

中学3年生

 学校見学会当日 午前 体育館


「なんだか緊張してきましたね」

「大丈夫やろ、皆でちゃんと計画練ったし」

「そうですよ! あとは天宮さんと一ノ瀬さんがおかしなことをしなければ問題ありません」

「潮水さんは俺たちのことをなんだと思ってるんだ」

「普通に頭のおかしい変態ですけど? 入部してから皆さんに色々聞きましたよ。母親に自作のASMR聞かせたんですよね。しかもエロいやつ」

 そこだけ切り取られると完全に狂人の所業だ。

「いやそれは複雑な事情があってだな」

「母親に18禁自作ASMRを聞かせる事情ってなんですか」

「まあ、それは今度ゆっくり教えるから」

「律さん、なんだか言い方がいやらしいですね」

「お前は今日出来るだけ喋るな、いいな?」

「もうあんまり喋らんで、もうすぐ中学生来るとよ!」

 千春に言われて口をつぐみ、姿勢を正す。俺たちは体育館の壁面に整列している。周りには生徒会役員を中心とした人たちが同じように整列していた。

「私たちもこの中にいてよかったんですかね?」

 天宮が隣から小声で尋ねてくる。

「ああ、基本的には生徒会が案内するみたいだが、中学生の方から申請とかがあれば変更可能らしい」

 そして、緩やかな音楽と共に中学生が体育館へ入場してきた。

「あっ! 律さん! あれ、律花さんですよ!」

「本当だ! 先頭歩いてるぞ!」

「ちょっと二人とも! 恥ずかしかけん! 落ち着いて!」

 千春に言われて我に帰ると、周りから注目を浴びている。千春は少し照れるような、それでいて非難するような視線を俺たちに向けている。

 そして、入場が終わり、説明会が始まった。


 複数の教員と九重さんによる説明会は筒がなく進行し、案内役はそれぞれの持ち場についた。ここからは各班の自由行動だ。俺たちも律花の班のもとに合流する。

「律花、待たせたな。今日はこの4人で案内するからよろしく」

「ああ、これがASMR部の。それに清乃ちゃんもいるんだな。いつも兄ちゃんが世話になってます。今日はよろしくお願いします」

 そう言って深々とお辞儀する。

「これ、本当に一ノ瀬さんの妹ですか? 腹違いとか?」

「普通に失礼なだな。ちゃんと血は繋がってる。よく出来た妹だろ?」

 俺と潮水さんが話している間に千春が律花に接近している。

「律花ちゃん、よろしくね。私は村上千春、村上千春やけん。よろしくね」

「えっ、ああ、はい。よろしくお願いします」

 政治家顔負けの勢いで律花の手を握り、信仰を深めている。こんなにコミュニケーションに積極的だっただろうか。

「兄ちゃんに友達、紹介するよ。3人いるんだけど」

「おお、何人でもいいぞ。今日はしっかり準備してきたからな」

「そうか、ならよかった。まずは彼女、双葉」

「よろしくお願いします。ザコのお兄さん♡」

 ん? 聞き間違いだろうか。最近は確かにメスガキASMRをよく聞いていたからな。空耳したのかもしれない。少し控えた方がいいか。

「何? お兄さん、耳もザコなの? 全然聞いてないじゃん」

「俺は負けない!」

 反射的に声が出る。なんだ、この娘は。大人を馬鹿にしやがって。よく見たら長めのツインテールに扇情的に細い瞳とメスガキ要素たっぷりだ。許せない。

「ちょっと律さん! 中学生相手にガチギレすることないじゃないですか。まったく、私が大人の対応を見せてあげますよ」

 俺の様子を見て馬鹿にするようにくすくす笑っている双葉さんの元へ天宮が駆け寄る。

「私は天宮清乃って言います。双葉さんはどこか行きたい場所とかあります?」

「ちょっと待って笑、ザコ乳首が何か言ってるんですけど」

「ゴルァ、ぶっ○してやる!」

「落ち着け! 天宮!」

 殴りかかろうとする天宮を必死に抑える。悔しい気持ちはわかるが、暴力じゃ何も解決しない。ここは堪えるんだ。

「あなた達は何をやってるんですか……。双葉ちゃん、今日はよろしくお願いします。私は潮水吹子です。どこか行きたい場所とかはあるかな?」

「う〜ん、私は生徒会長目指してるんで生徒会室に行きたいかな。今の内に人脈を作る的な? だから本当は生徒会の人に案内をお願いしたかったんだけど、律花に頼まれたから仕方ないよね」

「ふ〜ん、そうなんだ。ま、まあ今日はよろしくね。生徒会室にもあとで行ってみようか」

 平静さを装っているが、潮水さんの額に血管が浮いている。

「兄ちゃん。双葉はこう見えて根はいいやつなんだ」

 “こう見えて根はいいやつ”無敵すぎるだろ。規制しないとこの世の悪人全ての根がいいやつになってしまいそうだ。

「次はちょっと人見知りで、普段は単語ぐらいでしか話さないんだけど。でもまあ、根はいいやつだから! もずくって名前なんだけど」

 律花、双葉ショックのおかげで“根はいいやつ”の価値は暴落しているんだ。警戒しつつもずくちゃんに向き直る。ショートボブで目元も少し隠れている、いかにも大人しそうな子だ。

「ま○こ」

「「「「アウト!」」」」

 我々ASMR部4人の声が揃う。ここまで息が揃ったのは初めてではないだろうか。もずくちゃん、単語くらいしか話さないとか関係ないだろ。なんで今ま○こって言った?

 律花の交友関係が普通に心配になってきた。俺に言えることではないかもしれないが……。

「そのぉ、もずくちゃん? 今日、行ってみたいところとかあるか?」

「ベッド」

 ベッド? これはつまりそういうことだろうか。さっき、ま○こって言ってたし。

「ああ、もずくは眠いんだな。でも今日はもうちょっと頑張ろうな」

 もずくちゃんが眠そうに目を擦る。

「律さん、変なこと考えましたよね?」

 傍からじっと見つめてくる天宮を無視する。

「兄ちゃん、もずくは本が好きだから、図書館に行ってみたいらしいぞ」

「そうか、わかった」

 すでに俺は疲労していた。しかし図書館ならラッキーだ、すでに環先輩にはアポをとっている。

「最後は芽衣だな。田中芽衣って名前で、凄く頭がいいんだ」

「へえ」

 田中と聞くと、どこかのサドナースが頭をよぎるが今は考えないようにする。

 すると、律花が俺に耳打ちする。

「芽衣はまだ前立高校にするかどうか迷ってるから、今日はしっかりよろしくな」

「おう、そうか。任せろ」

 ただ、これまで律花の友達は曲者反りだからな。個人的に田中姓には警戒心もあるし。うまくやれるかどうか。

「ええっと、芽衣ちゃん? 今日はよろしくね」

 前髪をぱっつんと整えた少女が、目をくりくりさせている。なんとなくリスを想起する。

「あなたが律花ちゃんのお兄さんですか……」

「ん? そうだけど、どうかしたか?」

「いえ、いつも律花ちゃんから噂を聞いていたので! 不躾でしたね、挨拶が遅れました。私は田中芽衣です。今日は何卒よろしくお願いします」

 初々しさを感じさせる辿々しい挨拶をしながら、芽衣ちゃんが頭を下げる。と同時に勢い余って床に頭をぶつけた。

「大丈夫か!? 芽衣ちゃん!」

「えっあっはい! 大丈夫です! ごめんなさい、お兄さん。お姉ちゃんにも慌ただしいから気をつけろってよく言われるんですけど。あはは」

 そう言って額を抑えつつ笑う。なんだこの子、天使か?

「ちょっと律さん、なんで私をみてるんですか?」

「いやどこで道を間違えたんだろうって」

「急な罵倒!?」

 芽衣ちゃんはなんか。天宮から下品さを抜いたみたいな感じだな。下品さを抜いた天宮に原型があるかどうかは疑問だが。

「芽衣ちゃん、それでさっきの話なんだけど、どこか特別に行きたい場所はあるかな?」

「ええっと、お兄さん。芽衣ちゃんだと、某映画でおばあちゃんが女の子を探すシーンが思い浮かんじゃうので芽衣でいいですよ」

「そうか、それもそうだな」

 その理論でいくと、その呼び方も他のシーンが浮かぶだろと思ったが、恥ずかしそうに頬をかく芽衣ちゃんを見るとつっこむ気にはなれなかった。

「律、そういう子が好みなん?」

「やっぱりろりこんさんだったんですね」

「お前らな……」

 反論しようかと思ったが、目の前できょとんとしている芽衣ちゃんに気を遣ってしないでおいた。それに挨拶に時間を使いすぎた。いつの間にか体育館に残っているのは俺たちぐらいだ。

「そろそろ行こうか。各学年の教室をぐるっと回りながら色々な施設に夜って形で行こう」

「おう!」

「は〜い♡ぷぷっ」

「ち○こ」

「はいっ!」

 各々、元気のいい挨拶をする。もしかして一番ぶっ飛んでるのはもずくちゃんなのではと思いながら俺たちは学校見学会を始めた。


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