一年生たち
「というわけでよろしくお願いします!」
部室内に拍手が起こる。
「彼女はたしか盾の」
「言い方酷くないですか? 潮水です! 潮水吹子!」
「ああ、そうです! しおふー
「し・お・み・ずです!」
潮水さんのツッコミが部屋に響く。
「潮水さん、ちょっとよか?」
「なんですか? あなたは比較的まともそうですけど」
潮水さんはASMR部のことを魔窟か何かだと思っているのだろうか。そして、潮水さんは千春に部屋の奥、シャワールームに連れて行かれた。なぜか恵先輩も同行する。
「律さん、帰ってきたと思ったら、また女の子を連れ込んで。こんなハーレム状態を律花さんに見せるつもりですか?」
「言い方が悪い。別に入りたい男がたまたまいないだけだろ」
「はいはい。潮水さんは褐色肌の健康少女ですから、この調子だと次はロリっ娘ですかね。あれ? もしかして私と潮水さんのキャラ被ってます?」
「全く被ってないから安心しろ」
天宮は健康少女ではなく、変態少女だ。
「ごめん、ごめん、お待たせ」
「ああ、恵先輩、千春。なんの話だったんだ?」
「いや全然、気にせんでよかよ。ね? 潮水さん」
「はい、大丈夫ですよ! 私はあなたのこと別に異性としてーむがっ」
千春が潮水さんの口を塞いでいる。仲が良さそうで何よりだ。かくして潮水さんがASMR部に加わった。
「律さん、今度の学校見学会はどういう予定なんですか?」
「ああ、なんか律花が何人か友達を連れて来るとか言ってたな」
「へえ、じゃあちゃんとしなきゃですね。どこを案内するんですか?」
「それはまず、部室だろ。あとは……教室とか? ああ、そうだ! 理乃ちゃんたちSEX研究部もいいかもな。流石に名前は伏せるけど」
「そうですね。その方向でいきましょう。律さんだけだと心配ですから私もついていきますね」
「おお、ありがとうな」
こうして学校見学会の話がまとまって
「いやちょっと待ってください!」
「どうしたんだ? 潮水さん」
俺と天宮の話を片耳に各々自分の好きなことをしていたメンバーが、ここで初めて顔を上げる。
「いや皆さん、なんでそんな不思議そうな顔をしているんですか? これ今度の新入生の案内の話ですよね!?」
「ああ、そうだが。何かおかしなことがあっただろうか?」
「いやたくさんありますよ! というかどうしてあなたは平然と部屋の真ん中でエロ漫画を描いているんですか!?」
「ああ、すまない。ペンの音が気になっただろうか?」
「違いますよ! っていうかこの絵、もしかして私ですか?」
潮水さんが綾乃先輩の紙原稿の隣にあるタブレットを覗き込む。綾乃先輩が気晴らしで落書きしているものだ。そしてもちろん、そこに描かれているのも
「ヒィィ! なんですか、このスクール水着! 胸元だけ穴が空いてるじゃないですか!」
「綾乃先輩、実在の人を勝手にモデルにしちゃダメじゃないですか」
「すまない、つい癖で」
「いやそんな軽い感じで済まさないでくださいよ! 普通は人前でエロ漫画もエロい絵も描かないですよ!」
「……確かに」
潮水さんに言われて思い出す。最近はあまりに綾乃先輩が平然と作業しているから全く気にならなかった。目の前には、天宮が触手に絡め取られている原稿があるがスルーしていた。
「ありがとう潮水さん。やっぱり君を入部させてよかった」
「私は激しく後悔してますよ!」
それだけ言って潮水さんがふぅとため息をつき椅子に座る。
「話を戻しますけど、学校案内会、それでいいんですか?」
「いいのかって、変なところあったか?」
「……まず、あなたと天宮さん二人は不安すぎます」
「そんな! 私と律さんのどこが不安なんですか!?」
「絶対に下ネタ言いませんか?」
「……」
「おい天宮! なんで黙るんだ!?」
「見てください! それがその女の本性です!」
気まずそうに天宮が目を逸らしている。こいつ、言うつもりだったのか。いや言うつもりがなくても、変なやる気が空回りして下ネタをぶっ放す可能性があるな。
「なら一緒に行くのは他のやつがいいか」
「待ってください、私部長なんですよ! 絶対に行きます!」
「と言ってもな……」
「連れて行ってくれないなら、律さんの秘密バラしますから」
「は? そんなの知らないだろ」
そこで天宮が俺に耳打ちする。
「御園先輩と出会った日の夜に、シスターものの18禁ASMR買ってますよね」
どうして天宮がそのことを知っているんだ。俺のD○siteの購入履歴が漏れている!?
「……わかった。天宮も連れて行く」
「どんな秘密を握られているんですか!?」
しかし、潮水さんの言うとおり俺と天宮だけでは不安になってきた。
「誰かもう一人、欲しいけど……」
周りを見る。
「僕は風紀委員会の方で忙しいからごめんね」
「私も原稿の締め切りが」
「その日は子供達との約束が」
こうしてチーム先輩sは全滅した。つまり
「私が行くけん。潮水さんもそれならよかやろ?」
「えっ、ああはい。千春さんがいれば大丈夫? だと思います」
「いいんじゃないか。潮水君も含めて一年生で取り組むといい。いい経験になるんじゃないか?」
綾乃先輩の発言に一年生4人が顔を合わせる。
「いいですね! 頑張りましょう!」
天宮の言葉にみんなで頷く。そして、俺たちは学校案内会の計画を立て始めた。
しかし俺たちはここで先輩達の苦労を知ることになる。
「これからは先輩達にもう少し優しくしような」
「ですね。私も反省します」
これは学校見学会終了後の俺と天宮の会話である。
そうして慌ただしい学校案内会が幕を開けた。




