VSろくぜい
俺と天宮が生徒会メンバーめがけて走っていく途中
「律さん、これは……」
「酷いな」
すでに奥の方で戦っている人々の声や音で何となくわかっていたが、この戦いに残った人々が無惨に薙ぎ払われている。
「生徒会の人って、そんなに武闘派なんですか?」
「いや、俺に聞かれても。まぁ状況から察するに強いんだろ」
戦場に近づくにつれ、死体が増えていく。
「一ノ瀬君、ストップだ」
「綾乃先輩!」
先に向かっていた綾乃先輩に出くわす。隣には御園先輩と恵先輩もいた。
「どうしたんですか? 敵はすぐそこですよ」
数m先から人垣が出来ており、その奥から激しい声と打撃音がする。
「生徒会の人間が思ったよりも強い」
綾乃先輩の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。
「強いって言ってもこっちには御園先輩、恵先輩、それに対○忍がいるじゃないですか。倒せないんですか?」
「わからない、人が多くて私も詳しい分析ができていない。だが私たちも消耗している中、個で挑むのは危険だろう。あと、私たちのチームに対○忍はいないぞ」
綾乃先輩の言うことに俺も頷く。さっきから聞こえてくる音が尋常ではないからだ。花を散らせばいいだけのこのゲームで人が飛ぶ音、倒れる音、その他に阿鼻叫喚が聞こえる。それでいて生徒会の人間が討たれた様子は一切無い。
「まあ、相手が消耗してくれるのを待ちたいのもあるが……」
綾乃先輩がチラリと後方を見る。俺たちと同じように様子をしているチームがいる。風紀委員会だ。
「美咲ちゃん、行かなくていいのか? 早いもの勝ちだぞ」
少し遠くにいる美咲ちゃんに呼びかける。
「バカか。あんな一人倒すごとに100万なんて罠に決まってるだろ。それにすでに数100人が返り討ちにあってるんだ。お前らを当てて弱ったところを狙って遅くない」
俺の聴力を知っているため、美咲ちゃんは遠くから普段の声量に話している。まあ、天宮や御園先輩が聞いて喧嘩になるのも嫌だし、それでいいのだが。ただ、周りから見ると俺が声をかけて無視されたように見えるから、手ぐらい振ってくれてもいいのに。
「律さん、他人に急に絡むのやめましょうよ。うざい陽キャみたいですよ」
心配そうな顔で天宮が見てくる。ほら、こいつみたいなのが出るから。
「というか、お前はいつまでいるつもりだ。さっきの綾乃先輩の話、聞いただろ? ここにいたら危ないぞ」
「律さん、そうやってすぐに仲間はずれにするんですから。いいんですか? 律さん。私がいなくなったらこの場で戦闘力が一番低いの律さんになっちゃいますよ?」
「別にそんなプライドはないから平気だ。それに自分の身ぐらい自分で守れるからな」
「あっ、それって私は自分の身を守れないってことですか? 律さん、いけないんだ、すぐに女性は弱いものって決めつけて」
「いや、別にそんなつもりはないが」
「それに弱点の数で言ったら律さんの方が多いじゃないですか。ち○こに乳首に耳で6個もあります」
「誰の性感帯がマゾオスだ!? というか、今、俺のち○こが2本なかったか?」
「実際、メスガキにいつも負けてるじゃないですか」
「はあ? 負けてないが。あれは戦略的にだな……というか、お前もそれは変わらないだろ」
「いえ、私は律さんと違ってあと少しで勝てそうですから」
「君たちは何の話をしているんだ。そもそも、メスガキに勝つって勝利条件はなんだ」
綾乃先輩が間に入って止めてくれた。綾乃先輩が俺を抑えてくれなかったら、この馬鹿を生徒会より先に屠るところだった。
「そろそろ来るよ、ふざけてないで構えて!」
そして恵先輩からのガチ注意を受けて俺と天宮が武器を構える。隣できらりと光って見えたのは、棍棒の先に丸いトゲトゲがついた武器で
「お前、なんでモーニングスターなんだ!? もっといい武器があっただろ!」
「いや、だって武器庫にこれがあったら触りたいじゃないですか。リアルでモーニングスタ―を握れる機会なんてそうないですよ」
確かに。天宮もたまにはまともなこと言うじゃないか。
「なあ、それ俺にも触らせてくれよ」
「ええ? さっきまで私に酷いこと言ってたのにですか?」
「……わかった。それは取り消すから」
これを逃したら二度とモーニングスターを触れないかもしれない。そう考えると、謝罪なんて大したことはない。
「もう仕方なーー
「天宮っ!」
咄嗟に天宮を庇って身を投げ出した。
「あれ? やったと思ったが、意外としぶとい。流石と言ったところか」
そこには長身の男が西洋風のロングソードを構えていた。
「大丈夫ですか!? 律さん」
「ああ、大丈夫だ。花は散っていないらしい」
絡まって倒れた俺たちは、天宮を下にして地面に倒れている。
「ふふっなんだか今日は抱きついてばかりですね」
「うるさい」
悪戯っぽく微笑む天宮に不意に少しだけドキッとしてしまった。
「おい、俺を無視していちゃつくとは余裕じゃないか」
「別にいちゃついてない。やるならさっさとやるぞ」
側を見ると綾乃先輩が大柄の男と、御園先輩と恵先輩が小柄の巨大な槌を持った女を相手にしている。
「何だ? 援軍を期待したか? 無駄だ、やめておけ。あいつらも俺以上ではないがなかなり強いからな」
「そうか、じゃあお前を倒せたら生徒会のやつは全員倒せるってことになるな」
「威勢はよし。さあ来い! 俺は六星レビ! 生徒会最強の男だ!」
前に向かって、姿勢を低くして突進する。長剣相手に距離を取りたくない。
「ふんっ、普通だな。間合いに入れるとでも思ったか!」
長剣を振ろうとする瞬間、ここで懐のクナイを投げる。
「っ!」
それを払うために長剣を振る。その隙を一気に詰める。
「甘い!」
しかし、相手がすぐに長剣を下から振り上げる。それをギリギリで避け、姿勢を崩した相手の眉間にクナイを叩き込む。
「ハハっ、やはり面白い! だが、それは当たらないぞ!」
「チっ!」
あの体勢からこれを避けるなんて、いかれた体幹をしてる。
「全く、初手から激しいやつだ。俺がイケメンだから嫉妬してるんだろ」
確かにこいつ、妙に顔が整っている。西洋風の彫りの深い顔立ちだ。
「ルッキズムか? いけないんだぞ、そういうの」
「フッ、そんなつもりはない。ただ、そこのかわい子ちゃんが俺に取られるんじゃないかと心配してるんなら心配はないぞ」
「律さん! 寝取られる心配をしている時の男性の精子は濃くなるそうですよ! 今のうちに倒してください!」
後ろから頭の悪い声援が聞こえる。精子の濃さと力の強さは関係ないだろ。あと、別にそんな心配はしていない。
「まったく。人の話を聞かないな、君たちは」
「いや、聞くぞ。話せよ」
「……なんて勝手な奴らなんだ……まあいい、なら話そう。いいか? 俺は自分よりも強い女にしか興味はーーー!?
もう一本のクナイを投げる。それが相手の眉間に綺麗にヒットした。
「……おいおい、いい加減にしろよ、お前ら! いいだろう、もうゲームは関係ない。直々にぶち殺してやる!」
高速移動、恵先輩の動きに近い。
ヒュッ
長剣が空気を切る音。同時にクナイを持つ手に重い衝撃。
「これを受けるか!」
「恵先輩に比べれば、ずっと遅いな。山奥か?」
「誰が低速回線だ!」
長剣を払うタイミングに合わせて後ろに飛ぶ。そこから連撃の嵐。それをいなす。
「のらりくらりとっ!」
「お前、もう少し頭を冷やした方がいいぜ」
長剣。リーチが長い分、重い武器を高速で振り続けている。どこで習ったのか知らないが型もしっかりしていて、こいつは確かに強い。最初の斬り合いで勝てないと踏んだ。
ただ、こいつの技は恵先輩ほどの完成度じゃない。怒りで型がぶれている。あの武器で型がブレれば、体力の消耗は激しくなり、速さも落ちる。
そして、俺はわざと姿勢を崩す。
「くらえっ!」
すると、当然、体力が苦しい相手は勝負を決めにくる。
「天宮!」
相手の渾身の横振りを下に屈んで避ける。瞬間、相手の目の前に現れたのはモーニングスタ―を構えた天宮だ。
「何っ!?」
「ふんっ!」
大きな金属音が鳴る。
見ると咄嗟に長剣で受けたらしい。しかし六星レビは横に大きく吹き飛んでいる。
「勝負あったな」
俺は止めを刺すために六星レビへ駆ける。
「止まりなさい!」
後ろから聞き覚えのある声。
「……そういえばあなたも参加してましたね」
振り返ると、天宮の首元にナイフを当てた九重さんがいた。




