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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
夜の大運動会編
139/253

生徒会会議

 生徒会本部 モニター室

「生徒会長、これは……」

「……」

 先の競技の集計が終わり、生徒会本部は重い沈黙に包まれていた。九重鍵天(ここのえかぎあ)を含めた11人の生徒会幹部が揃う。その中心にいるのは生徒会長、獅子宮十叶(ししみやとおか)である。その長く美しい髪をなびかせ、スラリと長い足を優雅に組んで目の前のモニターを見るともなく眺めている。その双眸は鋭く細められている。

「どうされますか、会長。この点数差ではこれからの競技を行ったとしても、ASMR部の勝ちは揺るぎません」

 その補佐である九重鍵天はいつもの無表情を貫いているが、その声は重い。

「予定を変えて、これからの競技の点数を大きくすればいいだけの話だろう」

 獅子宮十叶が言う。しかし、内容とは裏腹にその口調は決して楽観的ではない。むしろ、それは反論を待っているようにさえ思えた。

「……それをやったとしても、今のASMR部が敗北するほどの点差を敵につけられるとは考えられません。もはやこれ以上の競技の続行はイタズラに怪我人を増やすだけかと……」

「この第3競技を持って終了すべきだと?」

「はい……」

「歯切れが悪いじゃないか鍵天。いつもの君らしくない」

「下の名前で呼ばないでください」

「いやすまない。元気がなさそうだったからね」

 獅子宮十叶が小さく笑う。その笑いには開会式での威風堂々とした態度はなく、一人の学生としての彼女が伺える。

「ふざけている場合ではありません。このイベントの意味をわかっていらっしゃるはずです。そもそも私はASMR部を出場させるべきではないと事前にお伝えしたはずです。こうなるからと。それを多数決で決めてしまって。そもそも、彼やその仲間が無闇に傷つくのはあなたののぞー

「九重君。喋りすぎだ」

 モニターを眺めながら鋭く咎める彼女の表情にはさっきの学生らしさはなく、一人の統治者としての相貌へと変わっている。

「すみません。しかし、この状況は手を打たなければなりません」

 再び、場に沈黙が流れる。

「あのお、私はその会議の時はASMR部のことよくわかんなくて参加させていいんじゃないかって言っちゃたんですけど。怒られちゃいますか? でもこんなふうになるなんてちっとも思わなくて。というか何ですか、あの集団は。あんな不利な条件で集中攻撃されて、どうして勝っちゃうんですか!」

 早口に泣きながら話すのはこの中で群を抜いて小柄な少女、三上槌(みかみつち)。彼女含めて風紀委員会戦のモニターに参加しなかった幹部は彼女ほどではないが、同様に困惑している。

「落ち着けよ、槌ちゃん。あいつらのことを知ってた俺たちも困惑してるんだ。まさか、ここまでとは。特に最後の大砲、いつの間にあんな技術を」

十一路(といちろ)さん、あれはSEX研究会の技術です。ASMR部のものではありません」

 九重鍵天のツッコミに十一路雷太(といちろらいた)は顔をしかめる。大柄に金髪、他人から見ればとても生徒会の人間には見えない。

「……九重補佐。そもそもあんたの風紀委員会戦の報告書が甘かったのが原因じゃねぇのかよ。あの中じゃ風紀員会戦の勝利は、参謀の菊門寺副会長がサボったこと、そして風紀委員会の強力な遊軍である杜若書記と綾小路補佐が裏切ったのが理由って書いてたろ!」

「あれは、風紀委員会戦の直後で暫定的な評価であるとも書いたはずです。正式なものを後日に出したはずですが読まれてないのですか?」

「ちっ、読むわけねぇだろ。暫定の段階でASMR部が風紀委員会に勝てたのは奇跡だって書いてるんだ。そんな奴らの情報を後から出されても興味わかねぇよ」

「あなたの興味は関係ありません。いつも書類には漏れなく目を通すようにとあれほど」

「ああ? あんたの書類は文字が多くて眠くー

「もういい。静かにしてくれ。九重君、それで再評価した結果をもう一度、みんなに伝えてくれ。それから十一路はちゃんと書類には目通せ。わかったな?」

 痺れを切らした獅子宮十叶が両者を制する。

「……わかってる」

 十一路雷太が静かに一歩下がる。三上槌を含めて書類の見過ごしに自覚のあるメンバーもそれぞれ目を逸らしている。それに対し、九重鍵天が一歩前に出た。

「先の風紀委員会戦での評価は正直言って、暫定版とほとんど変わりはありません。しかしその中で評価を変えるべき人物が一人」

 そして九重鍵天は淡々と説明を続けた。


「したがって私の見通しでもこうなる可能性は確かに低かった。少なくともASMR部を出場させないという強行手段に出る必要性はなかった。それでも私は念の為に止めるべきと忠告したのですが……そして結果として、予想外の出来事が次々と起き、かの地雷を踏んでしまったのではないかと思います」

「ありがとう、九重君。それを踏まえて、皆の意見を聞きたい。このイベントを続行すべきかどうか」

「あのお、すみません。もしもこの大会をここで終わりにした場合は、運動部のヘイトはASMR部が一身に追うということでしょうか? それは寝覚めが悪い気がするのですが」

 大会で実況を務めた四宮のこは実況中とは大きく変わって、弱々しく意見を述べる。

「それは当然、そうなりますわね。まあ、わたくしたち、生徒会には関係のないことですわ。ASMR部がこれからの学園生活でどんな陰惨ないじめに遭おうと。ねえ、会長?」

「二条副会長、そもそもはあなたが担当する第二種目のせいでこうなったのでは? 私は少人数のチームが不利になるようにと」

「……それは生徒会補佐としての正式な発言ですの? ならば、私は要請を無視した無法者、と言うことになりますわね。しかし、生徒会が非公式とはいえ、そんなあからさまなルール設定をしてもいいのかしら?」

「あなたは……!」

「もういい、九重君。二条もこの件はこれで終わりだ。いいな?」

「「はい」」

 二人の顔を見て、呆れるとも納得するとも言えない微妙な表情をした獅子宮十叶は眉間にシワを寄せたまま話し始める。

「もちろん、この大会をここで終わらせるなら、それ相応の形を取る。そうだな、全てのチームに平等にチャンスを与える。もちろん、ASMR部にも。それでいて怪我人を抑える、コントロール出来る方法がいいだろう。九重君、何か作れそうかい?」

「……いくつか案があります。しかし、どれをとっても生徒会がヘイトを負う形になリますが、よろしいのですか?」

「構わない。頼んだ」

「承知しました。では三上さん、十一路さん、それから六星(ろくぜい)さんもこちらに来てください」

 それから4人が部屋を後にした。

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