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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
夜の大運動会編
137/254

突破と死地

「助けてくれたのか! 潮水さん!」

「そんなわけないでしょう!? 私を盾にしたお返しをしにきたんです!」

 そう言って潮水さんが鉄砲を俺の顔の前に突きつける。傘はさっきの衝撃で遠くに飛ばされた。防ぐ手段はない。

「何だ、お前。邪魔だ!」

 さらにその後ろ、美咲ちゃんが鉄砲を構える。

「危ない! 潮水さん!」

「えっ」

 馬乗りになる潮水さんを潮水さんの肩を持って横に回って庇う。その時に美咲ちゃんのインクを服の端に受けたが仕方ない。

「一ノ瀬律、お前、何やってるんだ」

「そうです、何やってるんですか、私はあなたの敵ですよ!」

 今度は立場が逆になり、覆い被さっている俺に潮水さんが言う。

「潮水さんが無事なら良かった。せっかくの綺麗な顔にインクが付いたら台無しだからな」

「あ、あなた、何を言って! 私とあなたは敵同士なんですよっ、こんなのダメです」

「あし、怪我してるだろ、おぶるよ」

「えっそんな、悪いですよ。急にどうしちゃったんですか」

「いつまでやってるつもりだ、いい加減にしろ!」

「行くぞっ!」

「はいっ」

 潮水さんを背中に負って立ち上がる。

「天宮っ! 抜けるぞ!」

「はいっあれですね! 先に行きますよ!」

 天宮が先陣を切って風紀委員会の後方部隊に走る。と、同時に例の手榴弾を投げる。

「いつまで上空に向けて撃ってる! 早く切り替えろ!」

「はいっ!」

 そう言って後方部隊が俺たちに標準を合わせるが、もう遅い。天宮の投げた手榴弾が当たり一面を赤いインクで染め、ほとんどの隊員が行動不能になっている。

「恵先輩がいないとやっぱり大変そうですね」

「お前に心配される筋合いはない」

 恵先輩が実質的に脱退状態になった風紀委員会の統制に苦労しているのだろう。さらに今日のイベントは俺たちが参加決定するまでは、恵先輩は風紀委員会として参加する予定だったからな。指揮系統とか士気とか大変そうだ。

 部隊への指示で一歩出遅れた美咲ちゃんが後ろから追ってくるが、背中の潮水さんが縦になってくれるおかげで被弾は格段に少ない。

「ありがとう、潮水さん」

「わっ、私こそおぶってもらってすみません」

 少し恥ずかしそうにしている潮水さんは背中に美咲ちゃんのインクを大量に被弾していることに気づいてない。潮水さんがちょろくて本当に助かった。

「律さん、サイテー」

 全王を走る天宮があからさまの軽蔑の表情を送ってくる。我ながら思うところがあるため、甘んじて受けることにした。


 後方部隊の間を俺と天宮が走り抜けた後も、後ろから追ってきている美咲ちゃん。しかし、その距離は遠ざかりつつある。俺らを追ってくる他のチームに、手榴弾で混乱した後方部隊のメンバーがカモにされるのを防ぐべく怒声で指示を飛ばしている。そのせいで俺を追う足が遅い。

 どう動くべきか最適解がわかりすぎている分、団体を動かすのに向いていないのだろう。団体が咄嗟に実行できるのは次善策が限界だったりするのだ。

「一ノ瀬律! お前、本当に勝つ気かっ!?」

 はるか後方、美咲ちゃんの声がする。どうやら美咲ちゃんもこの大運動会の意味を理科しているらしい。もしかしたらリレーの時点で気づいていて、俺を桜木先輩に吹き飛ばさせたのはそういう意図があったのかもしれない。

 俺は美咲ちゃんの方を振り返って黙って頷く。

 どんな反応を知ったのかはもう遠くて見えなかったが、美咲ちゃんの呆れる顔が目に浮かんだ。


「とりあえず切り抜けましたけど、この後はどうしますか?体力的に目的もなく走り続けるのはそろそろ」

 天宮がレオの方を覗き込むように言う。確かにそろそろきついかもしれない。潮水さんもかなり軽い方だが、それでも人を背負っていることには変わりない。

「環先輩が言っていた残り3分間の攻勢タイムまでは、あと1分弱。少し早めに攻勢に移っても問題ない気はしますが」

「いや、先に行きたい場所がある」

「行きたい場所ですか?」

 走りながら段々と当たりが騒がしくなる。俺はその中心に向かって走っていた。

「御園先輩が心配だ。前は桜木先輩が綾乃先輩と戦った後だから消耗してたが、今日は違う。まだ地響きがしてるから無事だとは思うが。

「律さん、あれ! なんか人がすごいことになってますよ!」

「本当だ」

 さっきまではテントなどの大型機材が四方に飛んで。とてもじゃないが人が近づけない様子だった。しかし、今は人が集まっている。


「どうしますか!?」

「……突破する」

 天宮は黙って頷き、大型鉄砲にマガジンを込める。

「あの、私、邪魔だったらおりますけど。あしも別に痛くはないので」

「何言ってるんだ、潮水さんが(物理的に)背中を守ってくれているから俺は安心して叩けるんだ。いなくなったら困る」

「そ、そうですか。まあ、私がいないと寂しいって言うなら別にいいですけど」

「「ありがとう、潮水さん」

 パシャ

 天宮が俺の腕にインクを飛ばす。大した量ではないが……

「おい、お前」

「何か、文句がありますか?」

 あまりに目が怖いので言い返さないことにした。このゲームに勝っても負けても、これからの生活があるからな。無用なリスクは負うべきではないだろう。


「潮水さん、俺のポケットから手榴弾を」

「いいですけど、何ですかこれ。こんな物騒なもの、最初はなかったですよね」

「気にしないでくれ」

 そう言ってポケットから潮水さんに取り出してもらい、同時に投げてもらった。

「うわあ!」

「何か来たぞ! 動け!」


 混乱した集団を天宮が次々と打ち取っていく。改造した鉄砲の強みはその威力ではなく、連射性だ。マガジンによる補給と相まってこういう的が多い状態では無双できる。

「抜けますよ!」


 集団を走り抜けた先、そこには空白地帯があり、いまだに桜木先輩と御園先輩が戦っていた。しかし

「はあ、はあ」

「……もはや限界のようだな。長い戦いをしてこなかったか……」

 おそらく、戦いの規模が縮まり、近づけるようになった外野が狙ったのだろう、御園先輩は全身をインクまみれにしていた。しかし、それは問題ではなく、ところどころ傷があり、かなり消耗している。これ以上、桜木先輩と争わせるのは危険だろう。

 対して桜木先輩は傷こそ御園先輩より多いが、息切れすらしていない。このまま戦闘を続けられるだろう。

「天宮、御園先輩を助けるぞ」

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