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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
夜の大運動会編
136/253

come back

「いたぞっ! ASMR部だ!」

「やれっ!」

 テントから出てグラウンドに躍り出た俺と天宮は再び、敵の標的になっていた。

「律さんっ!」

「わかってる!」

 パシャ

 目の前でインクの飛び散る音がする。しかし、俺も天宮も体は汚れていない。俺が持つ傘で防いでいた。

「なんだ、あれは!?」

「ずるいーぐはっ」

 すかさず、天宮が改造された大型の鉄砲で敵のゴーグルを赤く染める。

「綾乃先輩からもらった傘、便利ですね!」

「そうだな」

 俺が持っている傘は綾乃先輩がテントを出る前にくれたものだ。テントの布と鉄筋で急拵えしたもので、かざして相手のインクを防げる。欠点は普通の傘のように閉じられないことと、鉄筋で作っているため普通に重い。そして空気抵抗を受けるため早くも走れない。

「綾乃先輩には悪いが、これなら潮水さんの方が格段にいいな」

「律さんが御園先輩から逃げる時に落とすからでしょう」

 不満げに天宮が言う。意外にも彼女のことを気に入っていたのかもしれない。それはともかくとして、俺は別に御園先輩から逃げたわけじゃないぞ。

「……羨ましいですか?」

 鉄砲を見て天宮が言う。

「いや別に」

 本当は俺があの大型鉄砲を持つ予定だったのだが、天宮がこれを持って動くのは難しいという理由でこの配分になった。子供じゃないからいじけたりはしないが、あの鉄砲を触ってみたかった……

「律さん、いじけてますよね」

「うるさいっ!」

 パシャ

「何っ! 完全に死角から打ったのにぃっ!」

「くそっポイントを持ってかれた!」

 すぐに天宮がインクを飛ばしてきた相手を捕捉し反撃を入れる。この通り、俺なら死角から打たれても音で反応出来る、というのも俺の傘持ちの理由だ。

「おいっ天宮、ポイントは取るなよ」

「すみません、重みで標準がずれてしまって」

 そう言って、さっきの敵のゴーグルに向けて天宮が撃ちなおした。


 数分前

「いいかい、ギリギリまでポイントは取ってはいけない」

 テントの中、環先輩が準備を始める皆に向かって言う。

「ポイントを取ってはいけない? どういうことだい?」

 最初に反応したのは帰零先輩だ。他の皆も気になって忙しなく手を動かしながら、聞き耳を立てる。

「このゲームは失った点は相手から奪うことでしか取り返せない。つまり、すでにインクに塗れた人間は考えなしに突っ込んでくる。そんなことされたらたまらないから、点を取るのは残り3分になってからだ」

「なるほど、でも最後の3分でポイントを取りかえせるのかい? 私たちも多少はインクを受けると思うけど」

「それは問題ない。こっちでそのための準備をしている。だから君たちには理乃君がそれを作る時間を稼ぐために、BOXのある拠点の防御と敵を分散するための陽動を行なってほしい」

「それと敵からできるだけ多く、鉄砲を奪ってちょうだい。材料が足りないから。あと、服部さんに少し譲って欲しいものがあるわ」

「承知した」

 そして二人でこそこそと話し合いを始めた。


「少し人が集まってきましたね」

「まあ、それが狙いだからな。俺たちはともかく、恵先輩と知音先輩の方が心配だ」

「恵先輩はともかく、知音先輩は大丈夫でしょうか? そんなに動ける感じではなかったですけど」

「と言っても、これ以上テントに残るメンバーが多いと、綾乃先輩が守りきれないからな。まあ、5人なら守れると言うのも異常ではあるが」

「まあ、それも私たちが陽動を頑張ればの話ですねっ!」

 パシャッ

 再びヒット、この調子なら何の問題もーーーー

「っ! 天宮。気をつけろ。来るぞっ」

 左後方、過去に戦場を共にした足音が、今度は敵として向かってくるのが聞こえる。

「久しぶりだな! 一ノ瀬律!」

「美咲ちゃんこそ元気そうでなにより!」

 同時に傘を大きく振る。しかし、これはあっさりとかわされる。

「律さんっ避けてください!」

「ちっ!」

 美咲ちゃんが大量に引き連れてきていた後方の部隊の集中砲火を浴びる。まだ距離がある弾は上空を弓形に飛んでくる。まだかわすのは難しくないがっ

「っ!」

 頬を美咲ちゃんの撃ったインクが掠める。四方からは他のチームもやってきている。

「椿先輩はどうしたんです? 愛想尽かされましたか?」

「挑発のつもりか? 受験勉強だよ。あの人がいればもっと楽だったんだけどなっ!」

 美咲ちゃん相手の近距離戦、大量の風雨機委員会による遠くからの援護射撃。状況は苦しい。天宮も狙われ始めている。

「おい、相方気にしてる場合か?」

「律さんっ!!」


「クソっ!」

 美咲ちゃんの銃口が俺の腹に狙いを定めている。流石というべきか、俺が避けると天宮に当たる。上からは大量のインクが降り注ごうとしている。これは詰んだか!?


「見つけましたよ〜〜〜!」

「「は?」」


 俺と美咲ちゃんが驚くのも束の間、俺の上に覆い被さるように突撃してくる影。

「邪魔だ!」

「ピャっ!」

 そして、俺はその飛び込んでくる影、もとい帰ってきた潮水さんに押し倒された。

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