To be or not to be
「俺は……」
皆が黙ってしまった状態、話を進めるきっかけにと口を開いたが特に考えがあるわけでもなく再び閉口する。なんとなく、天宮の方を見るが、俺と同様に何を言えばいいかわからないでいるようだった。
内心では千春の意図を汲んで優勝してやりたい。現金な話、これからの部のことを考えるとお金が欲しいのは事実だ。しかし、これが運動部の憂さ晴らしや迷惑料と化しているイベントなら俺たち文化部が優勝するのはまずいのも確かだ。
「でもさ、これで私たちが優勝して困るのは運動部の爆発寸前の不満というリスクを抱えることになる生徒会なんじゃないかな。私たちは関係ないと思うけど」
帰零先輩の発言に皆が考え込む。
「そもそもの原因は生徒会の部活動強制参加というルールだ。にも関わらず、ちゃんと規定に則って戦っている私たちが割を食うのはおかしな話じゃない?」
帰零先輩の発言は正しい。元々、部活動への強制参加は生徒会の方針で、それによって発生する不利益を俺たちが考慮するのも妙な話だ。
「私は……この学校に籍を置くものとして、それは少しばかり無責任な気もするな」
綾乃先輩が言う。
「運動部の窮状を知らないふりして、自分たちだけお金を貰うのも罪悪感がありますね…
…私たちはただでさえ、設部の時に生徒会から多めにお金をもらっていますし」
「……」
どちらの意見もわかる。正直言って、俺にはどちらが正しいのかわからない。
「でも環君の言うとおりなら、私たち文化部は運動部のサンドバックとしてここに呼ばれたことになる。文化部だけ賞金をあげることでね。千春ちゃんなんて格好の的だったね。さぞ運動の連中は気分がよかったことだろうさ」
知音先輩が言ってた悪意とはおそらくこのことだろう。俺たちも他の文化部も賞金で誘い出されたようなものだ。他の文化部が脱落したのにほっとしていたのも、俺たちが脱落しなかったことを運動部の連中が喜んでいたのもそうだ。俺たちが勝負に夢中だったのと、なまじ戦えていたせいで気づくのが遅れた。
「帰零……」
環先輩は何か言いたげにしている。が言葉には出さなかった。
「それに聞いているよ。この前の風紀委員会の件、元を辿れば、部活動強制参加が原因らしいじゃないか。増えすぎた人数の統制に失敗した側面が大きいんだろう?」
恵先輩が気まずそうに目を逸らす。
「君たち、ASMR部は生徒会の固執する部活動強制参加のルールの被害者だ。ここで賞金をもらうことを後ろめたく思う必要はないと思うけどね。もし、それで運動部の暴動が起こるなら、やはり生徒会のやり方は間違っていたと言うことさ」
帰零先輩の言う通り、誰も言葉を返さない。
「千春ちゃんはどう思う?」
そして、帰零先輩が千春に話をふる。突然、話を振られた千春は少し慌てた後に
「私は……私はせっかくここまで皆で頑張ってきたけん、勝ちたいと思うけど……」
「だよね。環君はどうかな?」
「……僕はASMR部の決定に従う。そもそもチームの主戦力は彼らだからね。それに君の言う通り、生徒会に最も因縁があるのは彼らだろうから」
「……そうだね、肝心のASMR部はどうかな?」
? 今、一瞬だけ帰零先輩の表情が妙だった気が……それこそ何か異論がありそうな。
「私たちは……」
天宮が確認するように皆の顔を見る。大丈夫、異論はない。
「私たちも優勝したいと思います」
「うん、なら決まりだね。環君、作戦があるんだろう? どうなんだい?」
帰零先輩が促すように環先輩の方をみる。
「ああ、作戦ならある。姫川、そっちの調子はどうだ?」
「ああ、できたよ。やっぱり理乃ちゃんは天才だね。連れてきてよかった」
「このぐらい当然ね。それにただ解体される運命だったこの子も報われるわ」
理乃ちゃんの手元には俺たちが持っているものよりも少し大きい鉄砲が二つ、それと手榴弾のようなものがいくつかに、あれは拳銃のマガジン?
「お昼の全裸ガンと私たちの鉄砲を解体して理乃ちゃんに作ってもらったんだ」
「ちょっと、先輩。私が説明するわ」
知音先輩の話を横から小声で遮り、理乃ちゃんが腕を組んで説明を始めた。
「ということよ。わかったかしら」
それからしばらくして理乃ちゃんの説明が終わった。
要約すると、新しく作った鉄砲2つは威力が桁違いでかつ、マガジンを使ってすぐにリチャージができる代物らしい。手榴弾の方はそのままインクが広範囲に散らばるものだ。
「私はまだ作るものがあるからみんなは行ってちょうだい。もちろん、護衛は残してね」
「ありがとう、理乃ちゃん。ただのポンコツじゃなかったんだな」
「……まあ、褒め言葉として受け取っておきましょう」
そう受けっとってもらえたなら何よりだ。俺は満足して、武器を理乃ちゃんから貰う。
武器の配分を考えなくちゃな。
外の騒ぎが近くなっている。俺たちの捜査網が狭まっているのだ。それに、こんな蒸し暑いテントの中にいつまでもいるわけにもいかない。不要かもしれないが、御園先輩の助太刀にもいかなければ。
「よしっ、始めるか」
皆と目を合わせる。そして準備に取り掛かった。




