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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
夜の大運動会編
133/253

戦場

 避ける、避ける、潮水さんを盾にする。

「ひいっ! 私を盾にしないでください!」

「潮水さんの犠牲は忘れない」

「私はこの恨み忘れませんから!」

 可哀想に、潮水さんの体はすでに愉快な配色になっている。某ゲームのステージでもここまでカラフルにはならないだろう。


「うわああ!」

「きゃあ!」


「恵先輩、流石ですね。敵の時は恐怖でしかありませんでしたけど」

 天宮の言うとおり、俺や天宮がヘイトを集めている間に懐に入り、次々に敵を撃破している。しかし、そろそろ

「恵先輩! 一旦戻りましょう! インクが切れます!」

「了解!」

 インク切れもあるが、敵が集まりすぎてこのままだと本当に出られなくなる。現段階で俺も天宮も少しずつインクを浴びている。もう脱出したい。

 恵先輩は体を翻し、こちらに走る。そのついでに2、3人のゴーグルを弾き飛ばして来るまで徹底している。

「千春は動けそうか?」

「うん。でもそんなに早くは動けんかも」

「わかった。恵先輩、先陣をお願いしてもいいですか? 俺は殿をやります!」

「僕はいいけど、律くんは大丈夫なの?」

「はい、俺は一人じゃないので」

「そういうのは味方を指して言うんですよ!」

 潮水さんの猛烈な抗議を無視して抱え込む。小柄で体重が驚くぐらい軽いから非常に持ち運びやすい。

「律さん、私はどうすれば? 命じられればあいつらのケツ穴を増やしてあげますけど」

 チャカっと音を立てて天宮は鉄砲を二丁に構えている。

「どこのマフィアですか! というかそれ、私の鉄砲ですよね!」

 そして、この通り、自動ボケ処理機能付きである。これはいい拾い物をした。

「よしっ、天宮は俺の前を走りながら、隙を見て後方の敵に射撃を!」

「任せてください! こんなものは撃てて当たればいいんですから」

 全く、達者なやつだ。そんな知識をどこから拾ってくるのやら。しかし、気分が上がって来たのか射撃の精度は上がっている。こいつの扱い方がわかってきた気がする。


「っと危なっ!」

 グルンっ

「ぴひゃっ!」

 身代わりになった潮水さんが間抜けな声をあげている。そろそろ、塗れる場所がないぐらいに潮水さんも被弾している。しかし、このゲームのいいところは、盾が使い物にならなくことがないという点だ。被弾した時の反応も面白いし、ゲームの最後まで使おう。

「今、碌でもないことを考えましたね、あなた!」

「……」

 敢えてノーとは言わない。これまで俺の身代わりになってくれた潮水さんへのせめてもの敬意だ。

「律さん、大丈夫ですか?」

 前を走る天宮が尋ねてくる。

「ああ、まだ大丈夫だ。お前は?」

「私も一応。ただ、正直にいうと待機所に行ったら少し休みたいですね。律さんもそうした方がいいかと」

「確かにな」

 俺と天宮はさっきのダンスの種目でかなり消耗している。いつもであれば、俺も天宮も互いにこういう状況で弱音を吐くタイプではない。しかし、互いにそんな虚勢をはる意味もないぐらいに疲れが表に出ている。


「律くん! もうテントに着くけど、これは……」

「どうしましたっ!?」

 確かに嫌な予感はする。待機所の方が騒がしい。綾乃先輩と御園先輩がいればなんとかなると思ったが、厳しかったか。


「逃げろおおお!! 巻き込まれるぞ!!」

「あれは避けていけ!」


 悲鳴や怒号が途切れずに聞こえる。一体、何が起こってーーー!!

「みんなっ! かがめっっ!!」


 ヒュッ


 死の風切り音が頭上を掠める。

「今の……テントですか?」

 脇に抱えた潮水さんが青ざめている。それも無理はない。目の前からテントが飛んできたのだ。あのさまざまなイベントで活躍する1クラス分の生徒を悠々と収めることのできる鉄筋で組み立てられた白くて大きなテント。

 そして、こんなことができるのは


「ふふふっまたあなたですか? この前、あんなに負けていたのに」

「……っ!」


 状況を瞬時に理解する。御園先輩と桜木先輩が戦っている。インクバトルとか銃撃戦とか関係なく肉弾戦で。

 そしてその余波で戦場は荒れに荒れている。特に御園先輩がテントを投げたり、武器にしたりするのでそこら中にテントが転がっていた。死者がいないか非常に心配である。


「律さん、私たちの待機所の場所わかりますか? テントのせいでどこがどこだが」

 天宮の言う通り、巨大なテントが視界を塞いでいるせいで、自分たちの補給BOXの位置がわからない。

 しかし、それは問題ない。

「綾乃先輩!」

 大声で叫ぶ。


「こっちだ」


 向こうの方から小さく綾乃先輩の声が聞こえる。どうやら身を潜めているらしい。

「場所がわかった! 俺について来い!」

「はい!」

 先陣の恵先輩を追い抜き、薙ぎ倒された数々のテントの間を縫って先頭を走る。


 そして声の下テントに着く。周りに敵は……いないみたいだ。折り畳まれたテントを少し持ち上げる。

「無事だったか、とにかく中に入るんだ」

 そこには補給BOXを囲むようにしてチームのみんなが座っていた。ここで御園先輩を除いたチーム全員が揃った。

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