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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
夜の大運動会編
132/253

盾と作戦

 走る。まだ疲労が強く残る体を無理やり駆動させる。

「律くん! 先に行くよ!」

「お願いします!」

 俺の反応を確認すると同時に恵先輩が急加速し、今はもう姿が見えない。

「律さん! 言われて反射的に来ましたけど、どうして千春さんのところに!?」

「さっきのルールだと千春も参加させられてる可能性がある!」

「そんな、怪我して眠ってるんですよ! そんなこと本当に?」

「杞憂ならそれでいい、どうせ一塊りになってるわけにはいかないんだから」

 納得した様子の天宮は走りながら手元の鉄砲を確認している。

「機動力で恵先輩を連れてきたのはわかりますけど、私はどうしてですか? 綾乃先輩の方がいいんじゃ?」

「テントのインク補充BOXがあっただろ。あれを奪われたり、占拠されたら俺たちは詰みだ。だから綾乃先輩と御園先輩を残したんっだっ!」

 会話中にもインクが四方から飛んでくる。おそらく水鉄砲を改造しただけのこの銃の威力は緩慢だ。発射音が聞こえれば避けられる。恵先輩の刀やや綾乃先輩のクナイを避けるのと比べればあまりに遅い。

「天宮、大丈夫か!」

「はい、まだ距離がありますから!ただ、動けない千春さんをどうやって守りまっ!しょうかっ!」

「それは無事に着いてから考えるっ!」

 待機所はグラウンド囲むように設置してある。俺たちはグラウンドの中央を突き進むように進んでいるため、まだ他のチームとは距離がある。

 しかし、千春の元につけばすぐに囲まれるだろう。何なら隣接するテントからすでに攻撃されているかもしれない。

 怪我……はしないだろうけど、訳もわからないまま突然インクを大量に浴びせられるのはあまりに可哀想だ。


「そろそろだ」

 耳を澄ます、目で見るよりも早く状況を把握する。……だいぶ激しくやってるけど、一方的にやられている雰囲気でもない。

「律さん! あれを!」

「!」

 やはり、かなりの数に囲まれている。しかし幸いにも俺たちの接近に気づかずに背を向けている。

「天宮、突破する! 肉壁作るぞ!」

「はい!」

 これで伝わるのか。嬉しくはないな。


「きゃああ!」

「ごめんな!」

 テントを囲って攻撃している少女を1人取り押さえて、抱える。

「おいっ! 一ノ瀬律だ! 悪名高い鬼畜だ! 遠慮はいらないぞ撃て!」

 まったく酷い言われよう、デマもいいところだ。

「みんな、ごめんなさい!」

 標的が俺に向いた瞬間にさっき拉致した少女を盾にする。健康的な褐色の肌に水着の跡がちらりと見える。水泳部かな。

「撃つなっ、得点が減るぞっ!」

 わかってるじゃないか、このゲームで自分たちの得点として残るのは塗られていない部分。味方や自分に撃てば得点が消失する。

 だから敵に食らった部分を上から塗る方法もなくはないが、それは最終手段だし、このゲームで呑気に敵から受けた部分だけを塗る暇はないだろう。この銃でそれをやればまだ塗られていない部分も塗って無駄に点を削る。

「律さん……最低です」

「あれっ! お前っ人質とってないのか!?」

 天宮の方を見ると、人質がいない。盾のある右側からはインクは飛んでこないが、天宮のいる左側から俺と天宮を狙って連中が銃を向けている。

「肉壁って言ったろ!」

「律さんが盾になってくれるのかと思いますよ、普通!」

「お前は普通じゃないだろうがっ! かがめっ!」

 一斉にインクが飛んでくる。天宮は身を屈めたおかげで背中が少しカラフルになる程度で済んだ。俺は

「きゃあ! あなた、本当に最低ですね!」

「捕まる方が悪い」

 褐色少女を抱えた腕をくるりと反転させ盾にしてインクを防ぐ。そして、ついでに何発か命中させる。

「そろそろ抜けるぞっ!」

「はいっ!」


 そして敵の中を抜けて、救護テントへ辿り着く。

「律くん!」

「恵先輩っ! 大丈夫そうーって千春っ!? 起き上がっても大丈夫なのか!?」

 千春は体に包帯やガーゼをつけた状態のまま、ゴーグルと鉄砲を装備して起き上がっている。

「うん、少し休んだから大丈夫。というか、律こそ、その子はどうしたと?」

 少し責めるような調子で千春が盾の少女を見ている。

「ああ、彼女は新しい仲間だ」

「違いますよ! この人に無理やり連れてこられたんです!」

「いや、悪いな。だが、もうしばらく付き合ってもらうぞ」

 不満そうな顔をしているが、銃も取られて抱え込まれた状態で反抗する気もないらしい。

「しばらくよろしくお願いしますね、肉壁さん」

「失礼ですね! 私の名前は潮水吹子です!」

「そうですか、よろしくお願いします、潮吹きさん」

「初対面の人にするボケじゃない! ASMR部って頭のおかしい人しかいないんですか!?」

「失礼だな、俺は違うぞ。というか、主にこいつだけだ」

「いや、あなたは筆頭ですから!」

 ちょっと何言ってるかわかんないな。しかし、潮水さんはなかなかツッコミの素質がある。ASMR部に不足している人材だ。

「君、ASMR部に入らないか?」

「嫌ですよ! 頭、おかしいんですか!?」

 捕まったばかりで混乱しているらしい。また今度、落ち着いてから打診しよう。


「しかし恵先輩、この人数相手によく持ち堪えましたね」

「ああ、それならこの通り」

 そしてガラガラと恵先輩の手元から物が落ちる。それは俺たち赤色の鉄砲ではない様々な色の鉄砲とゴーグルだった。

「見た感じ、ゴーグルは新しく自陣待機所に補給されるみたいだけど、取りに行かないといけないからタイムロスになる。鉄砲の方は補給されないみたい」

「なるほど、それはいい作戦ですね」

 まぁあの人数相手に実行できる恵先輩も恵先輩だが。

「でも回収した鉄砲が嵩張って邪魔だね。その辺に置いてたら、取られちゃうし」

「なら御園先輩にスクラップにしてもらいましょう」

「多分できるだろうけど、言い方気をつけなよ、律くんがスクラップにされちゃうよ」

 笑えない冗談だ。頼むときは天宮にお願いしよう。

「いつまで喋ってんだ!」

 体勢を整えた集団が再び銃を構える。全員が臨戦体勢に入った。

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