ダンス
「天宮、その格好……」
「なんか、案内されて。でも律さんもじゃないですか。似合ってませんよ」
「うるさい」
そんな俺と天宮の会話を掻き消すほどの歓声が会場に響き渡っていた。
周りを見ると俺と天宮以外も礼装に着替えて、それぞれスポットライトを浴びている。
「緊張してますか?」
「まぁ、そこそこ。踊るのも初めてなのに、こんなに大勢の前で踊るんだから当たり前だ」
「きっと大丈夫ですよ」
「それでは各選手、スタンバイしてくださいませ!」
天宮が手を伸ばしてくる。俺にはさっぱり訳がわからないが、合わせて俺も手を伸ばした。
「ではミュージックスタートですわ〜!」
そうして音楽が鳴り始めた。
周りを見ると意外と上手いこと踊っている、形になっている。他のチームは人材が豊富なだけあって、ダンス経験者の1人2人はいるらしい。
「どこによそ見している余裕があるですか?」
「つっても、お前……」
そして他のチームが上手いことやっている間、俺と天宮はぎこちないダンスを踊っていた。これを踊りと言っていいのかはわからないが。
「難しい……!」
「頑張ってください、律さん」
しかし本当に難しい。時々、天宮の足を踏んでいるのが申し訳ない。なんとなく恥ずかしさで逃げるように部の皆の方を見る。
場を乱さないように声援は禁止されているため、皆が文字の書かれたタオルを持っている。まったく、いつの間にあんなものを。少し気恥ずかしい。ええっと、何て書いてあるんだ?
"このままだと負けるぞ"
"負けたら君のせい!"
よくアイドルのライブなんかで見る可愛いフォントでなかなかえげつないことが書いてある。圧力で胃が痛い。
「律さん、今から大体流れは掴めましたか?」
「まぁ、大体は。だけど動きはまったくわからないぞ」
「わかってます。私がこれから指示するので言う通りに動いてください」
「わかった」
そして、天宮がリズムと出す足、手を小さな声で指示する。俺はそれに必死に食らいついた。
「お前、普通に踊れてるけど経験あるのか?」
「ないですよ。でも一回見たら何となく」
嫌味な感じはない。天才肌というやつだろう。律花に勉強教える時、そうならないよう気をつけよう。
「ASMR部はもうダメそうだな」
「減点、減点、これはもう採点する必要も」
やっと少しずつ様になってきたが、それでも厳しい。会場の観客や審査員の諦めの声が聞こえる。
やっぱりだめか。
諦めそうになる。再び恥ずかしさと無力さが込み上げてくる。その時、
ドンッ
「痛っ!」
「天宮!」
いつのまにか他のチームが近くまで来ている。俺たちはそんなに動いていない、おそらくあちらからわざわざぶつかりに来たのだろう。
「あいつら本当に懲りないっ!」
「律さん、気にしても仕方ないです。集中してー
「そんなに胸が小さいとドレスがずり落ちません?」
ぶつかって来たチームはそれだけ煽って涼しい顔でまた自分達のパフォーマンスへと戻った。
この煽りは流石にまずいかもしれない。
「律さん……」
「落ち着け、天宮。怒っても仕方ないぞ。こんなところで怒っても何のメリットも」
「やりますよ、律さん。ついてきてくださいね」
だめだ。血管を浮かばせて、笑顔でどちゃくそキレている。
「あいつら、全員、沈めます」
「そんな競技じゃないから!」
そして天宮の動きのギアが一気にあがる。それに合わせて俺もスイッチを切り替えた。そうしなければ天宮に降り飛ばされる。




