部室にて
「これで体育祭を終了します」
日が傾き、体育祭終了のアナウンスが流れる。終会式が終わり、テントや座席などの片付けが行われていた。
「さて、ここからどう動けばいいんだ」
近くに座っていた千春と目が合う。
「律、ここからどうすると?」
「どうだろう。このままここに残っていいのか」
こういう時は恵先輩が頼りになるが、今は風紀委員会の仕事で忙しそうだ。どこかに受付とかあるんだろうか。
「お二人とも、ここにいましたか」
「天宮」
昼と変わらず体操着姿の天宮だ。
「自分のクラスの方はいいのか?」
「はい、私のやることは終わりましたから。それよりお二人と合流するのが先かと」
「となるとお前もこの後の動き、わからないのか?」
「それならお昼に知音先輩に聞きました。クラスの仕事が終わり次第、それぞれの部室で待機だそうですよ。お二人はクラスの仕事は」
「ああ、俺は問題ない。千春は?」
「私も大丈夫。3人で行こっか」
恵先輩は大丈夫として、綾乃先輩や御園先輩は大丈夫かな。一応、メッセを送っておこう。
ASMR部部室
「放送があるまで待機だったよな。だいたい、いつぐらいから始まるんだ?」
「19時からだそうです。あと、2時間はありますね」
「えっ、そんなに時間あると? 私、シャワー浴びてもよか? 匂いも汗も気になるとやけど」
「いいですよ、律さんは私が見張っておきますから」
「お前、俺のことを何だと……」
まぁ、男であることに変わりはないし当然か。こいつに言われるのは不服だが仕方ない。
さて、俺は2時間もどうするか。天宮が座っているソファの隣に座る。
「律さん、お腹空いてませんか?」
「まぁ、言われてみれば少し」
そう言うと天宮が鞄を漁り、中からお弁当箱を取り出す。
「少し余ったんです。ウィンナーとバナナ、ちんげんさい、アワビ、フルーツチンポ、どれがいいですか?」
「そのレパートリーはわざとだろ。それにフルーツポンチだ。フルーツチンポはもう普通にちんこだから」
「冗談です。なんだか研究部の方といちゃついていたので私もやっておこうかと」
「別にいちゃついてはない。理乃さんがツッコんでもらえて活き活きしてたから。研究部はいなさそうだからな」
「たしかに、あの二人だけ見ても癖が強いですからね。ツッコミの人、いなさそうです」
まぁ、あの二人もこいつには言われたくはないだろう。
そしてしばらく沈黙が流れる。静かになると、千春がシャワーを浴びる音がするので気まずい。天宮、なんか喋ってくれないかな。
「ところで理乃さんは名前で呼ぶんですね」
「それはお前、黒井文乃さんの方と区別をつけないとだろ?」
まぁそれはそうですが……いったい私はいつまで"天宮"なんでしょうか?」
唇を尖らせて天宮が俺をじっと見る。反射的に俺は目を逸らした。
言われてみれば、部で名前呼びじゃないのは御園先輩と天宮だけか。正確に言えば御園先輩ほASMR部ではないから天宮だけだ。
「なんというか、天宮は天宮だからな」
天宮はしばらく不満そうにしていたが、すぐに切り替えて真面目な表情になる。
「今回こそ無茶しないでくださいね」
「別に今回は無茶する理由もないからな。昼のあいつらは腹立つが、別に大怪我してまでどうにかしようとも思わないよ」
「私が言いたいのはそういうことではないのですが、まぁ無茶をしないと約束してくれるなら今回はそれでいいです。律花さんにもきつめに言われてますから」
「そうなのか? 別に天宮は悪くないんだけどな」
「私も悪いですよ」
そう言って天宮は水筒に淹れた温かいお茶を飲む。言い返そうと思ったが、天宮の表情をみてなんとなくやめた。
「今回は無茶しないし怪我もしない。約束するよ」
俺は代わりに約束をした。
「清乃ちゃんも入ると?」
しばらくしたらシャワー室から千春が出てきた。さっぱりした様子で体操服には汚れもない。どうやら替えを持ってきていたらしい。
「すみません、じゃあ私も」
そうして天宮はシャワー室へと向かった。
俺と千春だけになる。千春は手際良く、部屋にある紅茶を淹れていた。そして
「さっき、天宮ちゃんが言ってたこと。私も同じやけん」
「聞いてたのか」
「少しだけやけど。今回、律に無茶はさせんし、私たちみんなの力で勝つ。昼は何も出来んくてごめん」
千春が優しく申し訳なさそうに笑う。
「いいんだよ。俺も実際に何も出来てないし」
なんなら綾乃先輩が止めてくれていなかったらどうなっていたかわからない。
「頑張ろうな、千春。あんな奴らに負けないように」
「うん、そうやね」
千春は紅茶を飲みながら優しく頷く。
それから俺たちは適当な話を続け、シャワー室から出てきた天宮もそこに加わった。
「みんな、いるか?」
それから綾乃先輩と御園先輩、恵先輩が部室にやって来た。
「ああ、先輩」
気がつけば、もう19時が近い。先輩たちは上級生だから、ギリギリまで会場の設営を手伝っていたのだろう。
「そろそろ始まるぞ。準備いいか?」
みんなが無言で頷く。
そして、始まりのアナウンスが流れた。




