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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
夜の大運動会編
115/253

チーム結成

 体育祭当日

「……暇だ」

 午前中の体育祭、俺は見学のため観客席ですることもなくダラダラと時間を潰していた。本当はチームになるもう二つの部活を探しに行くべきなんだろうけど……

 周りでは様々な委員会や選手が慌ただしく動き回っている。この中をあてもなく動いて邪魔するわけにはいかない。

「どうしたもんかな」

 隣に座っていた千春も競技に行ってしまった。クラスに他に話す人もいない。もうすぐで午前中の競技が終わって千春が戻ってくるはずだ。それまで大人しく待とう。

「律さん、暇そうですね」

「ああ、天宮。競技はいいのか?」

 観覧席で千春を待とうと決めた瞬間、向こうから天宮がやってきた。

「私が出る午前の競技は終わったのでお昼まで何もありません。なのでこれを」

 そう言う天宮の手にはお弁当がある。昼食はASMR部の皆でとることになっていた。天宮はひと足先に来たらしい。

「午前の競技ももう終わるな」

「ですね、意外とあっという間です。律さんの方はどうですか、もう二つの部活を集める話は」

「いや全然。これ残り二つ集めれませんでしたって言ったら帰零先輩に怒られるかな」

「それは普通に怒られますよ。何言ってるんですか」

 天宮にマジレスされてしまった。


「どうやらお困りのようだね」

「ほらっ言っただろう! やっぱり一ノ瀬ちゃんはフリーだった!」


 背後から聞き覚えのある声がする。振り向くとそこには俺が家出する前にお世話になった3人がいた。

「律さん、この方々は?」

「ああ、こっちが文芸部部長兼図書委員会委員長の環先輩。そしてこのピンクのツインテールの方が知音先輩、セックス教団部のーもがっ」

 知音先輩に突然、口を塞がれる。どうして急に、俺は何も変なこと言っていないのに。

「もがっもがっフェンはい!」

「ちょっと口を塞いでいるのに喋らないでくれ!」

 先輩が手を引いてくれた。知音先輩は体操服で汚れた手を拭きながら話す。

「いや私たちの部活って本当の名前はセックス研究部なんだけど、それってなんかダサいだろう? だからセックス教団部って名乗っていたんだけど、芽吹先生にそれがバレてしまってね。人生で一番怒られた」

「そうです。部長なんて廊下でおしっこを漏らしてましたから。西校舎一階の玄関前は近づかない方がいいですよ」

 話に割って入ってきたのは黒井さんのはずだが、なんというか物腰が前と違う気がする。それに知音先輩のことを部長って。黒井さんは文芸部の副部長だから部長というのなら環先輩のはずだけど。

「あのお、黒井さん、なんか雰囲気変わりましたか? 前よりクールな感じというか」

 前と同じように綺麗な黒い髪と高い身長、品のある佇まいは変わらないが、なんだか少し違和感がある。

「ああ、あなたがあったのは妹の文乃のほうね。私は双子の姉、黒井理乃。セックス研究部の副部長をしているわ。よろしく」

 黒井理乃さんが手を差し出す。俺はその差し出された手を握り返す。

「……あなたの手」

「俺の手?」

「手マンしやすそうな手をしているわね」

「失礼な!」

「そんなことないわ。褒め言葉よ」

 そうなのか? いや仮に褒め言葉だとしても初対面の人に対してかます言葉ではないだろう。やっぱりセックス研究部に入っている人なんだな、この人も。

「ところでどうしたんですか環先輩。ここは一年生のテントですけど」

「ああ、そうだね。時間もないし本題に入ろうか。今日の夜の大運動会のことで君に話があってね」

「話?」

 環先輩が黙って頷く。

「そう。実は僕たち文芸部とセックス研究部とチームを組んで欲しいんだ」

「それはもちろん! こちらからお願いしたいくらいです!」

「そうかい。それは良かった」

 まさかの棚ぼただ、あれだけ探していた残り二つの部活が一気に見つかるなんて。しかも信頼できる環先輩と組めるなんて願ってもない。セックス研究部の面々に対しては不安はあるが悪い人たちではない。知音先輩もあれでいて賢い人だからきっと役に立つだろう。

「でも先輩たちも参加するんですね、意外です。こういう催しは避けそうなイメージでしたから」

「一ノ瀬ちゃん、研究というのはね、収入はないくせに支出だけは立派にするものなんだ。お金はいくらあっても足りない」

「僕もそんなところだよ。新しい本が欲しくてね」

「へえ、なるほど」

 まあでもこの人たちの協力も得られるのはかなり大きい。夜の大運動会は意外と余裕かもしれない。

「じゃああと一チームだね。心当たりとかあったりするかい?」

「ああ、それなら大丈夫です。奇術部の帰零先輩とすでに約束しているので」

「帰零と?」

「ええ、そうです。何か問題がありましたか?」

 環先輩の顔が少し曇っている。よく見るといつも能天気な知音先輩の表情も少しだけ暗い。

「あのお、帰零先輩って何かあるんですか?」

「いや、別にそんなことはないよ。気にしなくていい」

「そうですか」

 とは言っても今の反応は気になる。しかし、この文脈でわざわざ話さないということは聞かない方がいいのだろう。

「まあ、そこは大丈夫だろう。ただ、一つだけ伝えとかないといけなくてね」

「どうしたんですか?」

「いや僕の部も姫川のぶも決して動けるタイプではなくてね、運動が苦手な子には参加しなくてもいいと言っている。だから参加するのは僕と黒井文乃君」

「そして私と黒井理乃ちゃんだけということになる。もちろん、これを聞いてやっぱり断るというのなら無理強いはしない。どうする?一ノ瀬ちゃん」

「どうするって……」

 困って天宮の方を見る。俺としてはこのまま組む相手も見つからない状態で彷徨うよりもこの二人の部活と組みたい。しかし、ここまで人数的な不利が出るとなると俺の一存では決められない。

「私はいいと思いますよ。大会に出れさえすればなんとかなります。なんだってうちには対○忍がいますからね」

「それもそうか」

 綾乃先輩が対○忍かどうかはさておき、あの人がいる時点でほぼ勝ちはかたい。それに今は恵先輩と御園先輩もいる。このぐらいの不利はどうということはないだろう。

「その話で問題ないです。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ」

 俺と環先輩が強く手を握り合う。そうして、夜の大運動会のチームが決まった。

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