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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
ASMR制作編
110/253

地獄と奉仕

「うぐうう♡あなたのなんてちっとも気持ちよくなんかっ、んほぉ♡」

 天宮は収録を始めている。警備員に見つかるとまずいので全員が部室に残った。つまり、ここに天宮のASMRを全員で聞くという地獄が完成したのである。

「やばっ♡ そこ奥だめぇ♡」

 そして、全員が台本の作成者が俺と天宮であることを知っている。よって過激なシーンになると皆がちらちらと俺の方を見てくるのだ。

 音を立てるわけにはいかないので全員何も言わない。そんな時間がしばらく続いた。


 最初に沈黙を破ったのは綾乃先輩だった。本当に沈黙を破るわけにはいかないので先輩はスマホに入力した文字を見せてくる。

「一ノ瀬君、知り合いの女性に読ませる内容ではないと思うのだが」

「知り合いの男女をモデルにエロ漫画を描いてる人に言われたくないです」

 すぐに俺もスマホに文字を打ち込んで返す。

「しかも内容がNTRって、君はそういう性癖なのか」

「いやこれは天宮のチョイスです」

 実際は2人でちゃんと話し合って決めたし、なんなら俺もかなり乗り気だったが、ここは天宮のせいにしておこう。

「んほぉぉぉ♡ そこ、らめぇ♡ イグっイグっ」

 恵先輩が心配と憐れみの合わさった表情で俺を見てくる。かえってこういう反応の方が傷つくな。

「恵先輩、俺は別に好きじゃないですからね。今回は仕方なく作ったからで」

 スマホに打ち込んだ文字を見せると、恵先輩は黙って優しく頷いてくれた。きっと伝わっていない。

 このように俺の胃へのダメージを着実に重ねながら収録は進んだ。

「なりますうぅ♡ ご主人様のペットになりますからオチ◯ポ、この雌犬奴隷に恵んでくらひゃい〜♡」

 皆が聞いていても全く動揺せず、なんなら6月に聞いていた時よりずっと上達している天宮に畏敬の念を覚える。ちなみに尊敬と畏れの割合は2対8で畏れの圧勝だ。


「ありがとうございました」

 収録が終わり天宮が皆に礼を言う。同時に部室には拍手が起きた。

「よかったよ、天宮ちゃん」

「ありがとうございます恵先輩!」

 恵先輩の声につづいて綾乃先輩や御園先輩も賛美の声を送る。御園先輩が暴れるのではないかとひやひやしていたが空気を読んでくれたようでありがたい。

「どうでしたか? 律さん。勃ってはいないみたいですけど……」

「この状況で勃つか!」

「それは残念です。まぁ完成したらデータも送りますから自室でゆっくりどうぞ」

「お前な、男っていうのはそんなに単純じゃないんだよ」

「そういうものなんですか?」

「まぁあれだ。友達から教えられたAVで抜けないのと似たような感じだな」

「へぇ、私は人にAVを勧められたことが無いからわかりませんね」

「じゃあ、今度勧めるからやってみろ」

 瞬間、綾乃先輩と御園先輩に腕を掴まれる。

「高梨君、罪状を」

「うん。まず、さっきの発言はセクハラに当たるね。さらに今回のASMRの内容も天宮ちゃんの同意があったとはいえ、内容が過激すぎる。強制わいせつだね」

「ちょっと待ってください! セクハラっていうならさっき天宮も!」

「一ノ瀬さん。残念ながら世の中は男女平等ではないのです」

「そんなあ!?」

 2人の手によって拘束された俺に恵先輩が黒い衣装を持ってくる。

「なんですかそれ」

「うん。これから罰として律くんにはこれを着ながら1人で編集作業を行う千春ちゃんに奉仕してもらいます」

 千春の方を見ると編集作業に集中している。計画がうまく行くかどうかは別として、このASMRが完成しないと家に帰れないし学校にも通えない。1日でも早く俺が復帰できるように頑張ってくれているのかもしれない。

「そういうことなら普通に言ってくださいよ。千春のためなら何でもしますよ」

「いやまあ、それもあるが君は天宮君のせいで感覚が麻痺してるところあるからな。一応、注意しておこうと思って」

 くっこの人に言われるなんて。だが実に耳の痛い話だ。気をつけよう……

 恵先輩から貰った服を取り更衣室へ向かう。更衣室で貰った服を広げてみるとバニースーツが入っていた。俺はそれを放り捨てようとしてふと止まる。

「恵先輩、ちょっと」

「どうしたの?」

 呼ばれて恵先輩が更衣室へと入ってきた。そして先輩の目の前にバニースーツを差し出す。

「これはいったい何ですか?」

「それは律くんが着たら千春ちゃんが喜ぶと思って」

「……ひどいです。先輩だからって後輩にこんな格好させるなんて。ううっ」

「えっちょっと律くん!? そんなつもりはなくて嫌なら着なくていいよ! ごめんね」

「でもこれを着たら千春が喜んぶんですよね。なら俺、頑張ります。俺なんかに出来ることなんてこれぐらいしか。それにせっかく用意してもらったのに後輩の俺が断るわけにはっ」

 渾身の泣きまねを続けると恵先輩がかなり狼狽え始めた。

「いやこっちが許可も取らずに勝手に用意しただけだから!」

「いやもったいないですので着ます! 着たくないですけど!」

「ちょっとどうしたの!? 着なくていいから止まって!」

「いえ、先輩たちの好意を無下にするわけには」

 そう言いながらバニースーツを着ようとする。それを恵先輩が必死に止める。

「わかったから! 僕が着るから! それでいいでしょ!?」

「じゃあお願いします」

 恵先輩にバニースーツを渡す。先輩は一瞬きょとんとしたが俺の狙いがすぐに分かったらしく悔しそうに頬を膨らませる。

「いやー、残念。着ようと思ったんだけど先輩の心意気を無下にするわけにはいかないからなあ」

「律くん!」

 俺は一足先に更衣室を出た。

「千春? 何かして欲しいことはあるか?」

「うーん、じゃあ肩揉んで」

「了解」

 すぐに千春の肩を揉む。勉強に疲れた律花の肩をよく揉んでいたからこれぐらいお手のものだ。

「んっ気持ちいい」

 千春が少し色っぽい声を出したのでドキッとする。綾乃先輩や御園先輩の鋭い視線が飛んできたが、何も言われない。セーフらしい。

「千春ちゃん、僕も何か出来ることある?」

 更衣室からバニースーツ姿で出てきた恵先輩が尋ねる。

「じゃあそこで犬の真似しててください」

「ええっとそれは流石に」

「あーつらか。ずっと1人で地味な編集作業。もうやめようやか」

「わかったワンっ!」

 恵先輩が半泣きで犬の真似をしている。バニースーツで四つん這いになっている姿は正直かなり興奮するが、恵先輩を見ている時に時々飛んでくる千春の殺気が怖いのでほどほどにした。

 そんな感じで俺と恵先輩はもちろん綾乃先輩も千春の無茶振りに応えたり奉仕を行った。この時、全員が編集作業の勉強をしようと心に決めたのは言うまでもない。

 そして作業は朝まで続いた。

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