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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
ASMR制作編
104/253

逃避行(3)

ラブホテル 朝

生活音で目が覚めた。カーテンの隙間からは日が差している。

天宮はすでに隣にいない。

「起きました?」

洗面台の方からすでにパーカーとスカートに着替えている天宮が顔を出した。

「おはよう。もう支度できてるのか、早いな」

「早いなって律さん、もう10時ですよ。私もさっき起きたので人のこと言えませんが」

「10時?」

部屋の時計を見る。天宮の言う通り時刻は10時を回っていた。

「学校は!?」

これまで朝はアラームが無くても起きれていたのに、寝坊するなんて。よほどぐっすり眠っていたらしい。

「別に行ってもいいですけど、私たち2人揃って遅刻してきたら誤解されますよ」

たしかに仲の良い男女が揃って遅刻、しかも綾乃先輩の漫画のことも考えると、変な噂になる可能性はある。実際、一緒にラブホに泊まっているのもタチが悪い。

「それに律さんのお母様が学校に電話している可能性もありますから。千春さんたちに連絡して状況を見るのもありかと」

「そうだな……とりあえず支度だけでもするか」

今日、どう動くかは置いておいてまずはラブホテルを出るのが先だ。俺は布団から出て、歯磨きや着替えを終わらせた。


「ヘアアイロンとかいらなかったか?」

天宮が洗面台で髪を整えている。綺麗な長い黒髪を整えるのに備え付けのドライヤーだけで不十分に思われる。

「うーん、欲しくないと言ったら嘘ですけど、別に無いなら無いでって感じですね」

そう言いながら昨日買っていたらしいヘアゴムで髪の毛を束ねる。天宮がポニーテールにしているのは珍しい、というか初めて見た。

「今日、どう動きたいとかありますか?」

「いや特にはないが、食事は取りたいな。昨日もなんだかんだで満足にとれなかったから」

「ですね。ならこの前行った喫茶店はどうですか?」

「ああ、別にいいけど。ただ、お店で食べると怪しまれないか? 俺たち、制服を着ていないとはいえ見た目は完全に学生だからな」

「それならあそこのお店は心配ありませんよ」

「そうなのか?」

まぁ、天宮がそう言うなら大丈夫なんだろう。なんだか慣れている様子だったし、お店の人と顔馴染みなのかもしれない。

「まぁ、このままラブホに篭って一日中ドスケベS◯Xしてもいいですけどね」

天宮が準備をしながら淡々と言う。

「エロ漫画じゃないんだから、そんなことするわけないだろ」

「ですね」

リュックを持って俺の方を見ながら天宮が笑う。

まったく冗談を言うならいつもぐらいちゃんとふざけて言って欲しい。調子が狂う。

そんなことを思って天宮の方を見ると平然としているのだった。


喫茶店

店に入る時に店員さんにちらっと顔を見られたが、特段何を言われることもなく席に案内された。

俺たちはコーヒーと昼食、デザートをそれぞれ頼んだ。

「みんなになんて連絡します?」

食事を待つ間、今回の件をみんなに共有するためのメッセージを考える。

「あー、それなんだが部のグループには送らないで欲しい。できれば御園先輩の個人チャットがいいな」

「それはどうして?」

「今回の件が問題になった時に部に被害が行かないようにしたい。帰る場所があるのとないのとじゃ違うからな」

「それで正式に部に加入していない御園先輩をということですね」

「まぁ、この理屈だと御園先輩を巻き込んでしまうが仕方ない」

以前、聖水といって尿をかけられたのだから迷惑をかけるぐらい許してくれるだろう。

「あとは先生ですね。今日の無断欠席も問題になっているかもしれません」

「その辺は芽吹先生が上手くやってくれるのを祈るしかない」

「芽吹先生……私、よく知らないんですよね。顧問の先生になってからもほとんど会ったことないですし。社会の先生で、律さんや千春さんの担任の先生っていうのは知っているんですけど」

「そうだったか。ええっと芽吹先生は……」

あの人のことをいざ説明するとなると難しいな。

「まぁとにかくいい人で、多分かなり頭がいい。噂によると博士号をとってるとか」

「へぇー、そんな人がよくこんな変な部活の顧問に」

「それはそうだが、自分で言うなよ」

前は宗教部の顧問やってたし、言われてみればあの人もかなり変だ。部活強制加入のルールによって部活を掛け持ちしてる先生が多いが、芽吹先生も掛け持ちしているのだろうか。内容は知るのが怖いな。

「そういえば、天宮、この後はどうするつもりだ?」

「ああ、行きたい所があるからそこに行きましょう。行き先はまだ内緒です」

「そうか」

そんな風に会話をしていると料理が届く。互いにお腹も空いていたから、黙々と料理を食べた。味は相変わらずとても美味しい。

「一応、御園先輩に今までのこと送ってます。放課後にみんなに昼休みにみんなに共有してくれるみたいです」

「ありがとう。申し訳ないけど会話は御園先輩のトークルームを通して欲しいと伝えてくれ」

「了解です」

天宮が代わりにメッセージを送る。自分でスマホが触らないのが歯痒い。父さんも母さんも仕事の時間だからスマホを起動しても問題ないかもしれないが念のためだ。


互いに食後のコーヒーを飲み終わる。

「行きましょうか」

天宮が静かに席を立った。俺も後に続いて喫茶店を出た。

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