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私のおほ声を聞け!  作者: 冷泉秋花
ASMR制作編
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逃避行(2)

 ラブホテル室内 25時過ぎ

 ラブホテルには意外とすんなり入ることができた。俺が思っているよりも高校生でラブホテルを使うというのは無い話ではないのかもしれない。

「見てください! ベッドがすごく大きいですよ!」

 天宮が部屋にある大きなベッドにダイブする。室内は普通のホテルとあまり変わらない。てっきり怪しい雰囲気の内装かと思っていたが、天宮曰く最近のラブホは女子会などにも使われるためこういう普通の部屋も多いのだとか。

「おい、風呂に入ってないのにベッド使うなよ」

「潔癖ですね。私、今日は疲れちゃってもうお風呂入るの面倒です」

 たしかに今日は激動だった。午前中の学校が昨日のことのように感じる。天宮も学校が終わり、部活に行って律花の家庭教師を経てから今日の一連の騒動だ。もうくたくたに違いない。

「もうそのまま寝るか?」

「ん~」

 天宮がベッドに顔を突っ伏したまま唸る。それから顔をベッドに擦りながら俺のほうへ重い頭を向けて

「じゃあお風呂、一緒に入ります?」

 天宮は少しいたずらっぽく笑う。疲れているせいか、いつもより表情が穏やかで妙な色気があり、不本意ながらドキッとしてしまった。

「バカ言うな。お前が入らないなら俺が先に入るぞ」

 荷物を置いた俺はリュックから下着や使い捨てのシャンプー・リンスを取り出す。

「あっそのシャンプーとリンス、いいですよね。私も使ってます」

 天宮がベッドからこちらをのぞいて言う。

 家のシャンプーは家族共用で、律花の要望に合わせたジャンプーとリンスが買われている。最近、種類が変わってこれになったが、もしかしたら天宮の影響かもしれない。

 律花は天宮を姉のように慕っている節があるから、憧れてシャンプーを揃えたのだろう。

「天宮も使うか?」

 一応、多めに買っていたので天宮の分も余裕であった。

「では遠慮なく。そのあたりに置いていてください」

 天宮の言う通りにシャンプーとリンスの小さな袋を近くのテーブルに置いてから、俺は風呂に入った。


 シャワーを浴びながら考えを整理する。今日は本当に大変だった。やるべきこと、考えるべきことはたくさんあるがとりあえず明日の学校を考えないといけない。

 制服は今日のを着ていくか、教科書はどうする、そもそも行って問題ないのか……疲れで答えが出ない。ちらりと空の浴槽を見る。お湯を溜めて浸かればよかったな。

 浴槽は2人入れるように設計されているのか、家で見るのよりずっと大きい。天宮と一緒にお風呂に入る様子が頭に浮かび、すぐに振り払う。

「天宮が寝てしまう前に風呂上がるか」

 さっさと体を洗う。浴室の端にあるマットに目がいく。体を洗う……よくないな。さっきから変な妄想ばかりしてしまう。ラブホなんて場所に来て浮かれているのかもしれない。

 俺は泡を流して浴室を出た。

 体をタオルで拭いていると、大部屋の方から女性の声が聞こえる。というか喘ぎ声が聞こえた。

「おい、何やってるんだ」

 バスローブを着て大部屋の方へ行くと、天宮がベッドに座って大きなテレビでAVを見ていた。

「ああ、律さん。これ見てくださいよ、おかしいんです」

「おかしいのはお前だ。AVなんか見て、状況わかってるのか」

 俺と天宮の仲とはいえ、年頃の男女2人がラブホテルにいる。間違いがあってもおかしくない。

「私のこと、襲うんですか?」

 天宮がサラッととんでもないことを聞いてきた。

「襲うわけないだろ」

「それはそれで失礼ですけどね」

 天宮はあっさりそう返すと、何事もなかったかのようにテレビに向き直った。

「これ見てくださいね」

 天宮が一時停止ボタンを止めて女優の太ももについている精液を指差す。そして、もう一度再生ボタンを押した。

「ほらっ消えてるんです。どうしてこのタイミングでカットを入れたんでしょうか?」

「お前は早く風呂に入れ」

 くだらない考察を始めた天宮の首根っこを掴んでお風呂に連行した。


 天宮を連行した後、俺はベッドの上で横になった。明日のことは天宮が上がってから考えよう。そう思って目を閉じる。

 シュル

「……」

 浴室から衣服の擦れる音がする。こういう時、異常な聴覚というのが仇になる。イヤホンはバッグの中か。流石にそれを取る気力はないな。

 しばらくしてからシャワーの音も聞こえ始めたのでいよいよ心が乱れてきた。仕方ない、奥の手を使うか。俺はさっきまで天宮が操作していたテレビのリモコンを取った。

「何してるんですか」

「ああ、ごめんごめん」

 風呂から上がってきた天宮が俺をジト目で見ている。天宮のシャワーの音から気を逸らすためにAVを見ていたせいで天宮が風呂から上がって来ていたことに気づかなかった。まあ、当初の目論見は成功しているわけだからいいだろう。俺はテレビの電源を黙って切った。

「いや、なんで同級生の女子にAV見てるところ見つかってそんな冷静なんですか」

「お前に言われたくない」

 天宮の方を見ると俺と同じバスローブをしている。サイズが合っていないのか少し着衣が緩い。時々見える青い繊維が、ガンキで買っていた下着を思い出させる。

 本当にまずいな、とにかく変な空気になる前に、というより俺が変な気を起こす前に寝てしまおう。明日のことは明日考えればいいの。

「天宮、ベッド使うだろ。俺はソファで寝るから使っていいぞ」

 俺がそう言うと、荷物をあさっていた天宮が黙って俺の方をじっと見る。

「まさかもう寝るつもりじゃないですよね」

「いや、もう眠いし起きてても仕方なーって天宮、どうした、なんで近づいてくるんだ?」

 天宮がリュックから離れ、ベッドに座っている俺の方へ黙って歩いてくる。片手にはさっき買っていたコンドームの箱が握られている。

「おい、天宮! 何のつもりだ」

 天宮は俺の目の前で止まる。顔が近い。顔の近くまでコンドームの箱を持ってくる。

「夜はこれからじゃないですか」

 俺は大きく唾を飲み込んだ。

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