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1  神の息子

「いやぁぁん。クロス様ったらあぁぁん」


「何を今更恥ずかしがるんだい? ほら、もっとこっちにおいでよ、さあ」


「だってぇ~ みんなが見てるもん」


「見せておけばいいさ。ほら、あっちでもこっちでもみんな自分たちのことで夢中だよ」


「うふん……クロス様だぁぁい好きぃ」


「そう? 僕も君の体がだあぁぁぁい好き」


 そう言って抱き寄せた女の胸元に顔を埋めたのは、神界で頂点に立つゼウルスとその妻ヘレラの息子クロスだ。

 兄神3人と姉神5人を持つ末っ子で、大した仕事も与えられず、毎日この聖なる泉で女神たちと淫らな日々を過ごしていた。


 腹が減れば指先を動かすだけで豪華な食事が出現するし、あの子が欲しいと思えば視線ひとつで吸い寄せることができる。

 兄神や姉神達も、若い頃は今のクロスと同じような日々を送っていたが、今ではそれぞれの役割を与えられて父王を助けている。

 しかしクロスだけは一向に改める気配がない。


 そもそもこの神界に『貞淑』とか『節度』とか『慎み』などという言葉は存在しておらず、欲望のままに互いを貪るのは当たり前。

 ムラムラとモヨオセば時も所もお構いなし。


 そんなカップルが集まるのが、この『聖なる泉』なのだ。

 なぜそう呼ばれるのかは不明だが、この泉に体を浸せば絶大な避妊効果があるらしい。

『聖なる』ではなく『性なる』の間違いだという説もある。 


 しかしさすがにそんな暮らしを続けていると、いかに神と言えど悔い改める時は来る。

 クロスの兄や姉もそうだった。

 いつかは落ち着くだろうと父神ゼウルスと母神ヘレラは考えていたのだが……


「もうそろそろと思いながら何年が過ぎただろうか」


「はぁぁぁ。あなたも大概だったけれど、あの子はそれを遥かに凌駕しているわね」


「しかしまあ飽きもせず、毎日毎日とっかえひっかえ……よく体力がもつものだ」


「あら? 羨ましいの? あなたも若い頃は手当たり次第だったでしょうに」


「いや、一応選んではいたぞ? 僕はお前のようなメリハリのある体が好きだから。それにしてもあいつの好みがさっぱりわからん。昨日の娘はエルフ種だっただろ?」


「ええ、そうね。透明感のある細くて幼い感じの娘だったわ」


「それが今日はどうだ。あれって絶対にケルベロスの血が混ざってるだろ」


「あら、ホント。おっぱいが三つあるわ……」


「はぁぁぁぁ」


 二人は深いため息を吐く。

 そんな親の心配などお構いなしで、一戦を終えたクロスが泉から這い出てきた。


「つ……疲れた……全部吸い取られたような気分だ」


 淫靡な唇をテラテラと光らせながら、今日の相手である娘がクロスの足に絡みつく。


「あらぁ、もう終わり? もっと楽しみましょうよぉ」


「ちょっと休憩させてくれ。さすがに腰が痛いし腹も減った」


 そう言うとクロスは指をパチンと弾く。

 ポンッと音をさせて現れたのは、クロスの大好物である天界鶴の唐揚げだ。


「お前も喰う?」


 豊満な肉体を惜しみなく晒しながら泉から出てきた娘を見た母神ヘレラが呟いた。


「あれはダメだわ……あの子を修行に出しましょう」


 父神ゼウルスも頷く。


「ああ、それが良さそうだ。末っ子だからと甘やかしすぎたようだな」


 そう言うと同時に指先を動かしたゼウルス。

 一瞬で吸い寄せられたクロスがポカンとした顔をしている。

 腹も膨れたのでいざ第二戦目に突入という瞬間だったのだろう。

 隠すべきところも隠さず、両手と両足をおっぴろげていた。


「立派に育ったのはソコだけね」


 母の言葉に慌てて股間を隠すクロス。


「何か御用ですか? あまり彼女を待たせると宥めるのが面倒なのですが」


「なあクロス。お前もそろそろ落ち着かねばならん年だ。しかし一向に成長が見えんお前には心底呆れたぞ」


「え? 成長ですか? さすがにいろいろな技は身につけましたが」


「そういう意味じゃないわ」


 蟀谷を指先でもみながらため息まじりでヘレラが言った。


「お前を修行に出します。人間界で苦労をしてきなさい。これも親の愛よ」


「人間界? へ? 下界に降りるのですか? 僕が?」


 ゼウルスが片眉をあげて続ける。


「人間界に降りて苦労というものを知ってこい。それまではここには戻れないと思え」


「苦労……え~! 嫌ですよぉ。 それに明日はペシュケちゃんと約束が……」


 クロスの体は文句を言い終わる前にフワッと消えた。

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