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雨の音色

作者: ナンデス

窓から雨の降る景色を眺めていた。静かに流れる時間の中で、僕は雨の音に耳を傾けていた。普通の人は雨が嫌いだという。確かに、雨は憂鬱なものだとされているし、濡れるのは誰だって嫌だろう。しかし、僕は違った。雨の日には、特有の静かな落ち着きがあり、雨音はまるで心を和ませる音楽のようだった。


幼い頃から、僕は雨が好きだった。雨が降るたびに、母は心配そうに窓の外を見つめ、「今日は外で遊べないね」と呟いていた。しかし、僕はその度に心の中で小さくガッツポーズをしていた。雨の日は、家の中で過ごす特別な時間だった。お気に入りの絵本を読み、母と一緒にクッキーを焼き、雨音をBGMに昼寝をする。そんな一日が、僕にとっての贅沢だった。


大人になっても、その感覚は変わらなかった。仕事に追われる毎日でも、雨の日はどこか特別な時間だった。外出を控え、家で静かに過ごす。窓の外を眺めながら、雨音に包まれて思索にふける。そんなひとときが、僕の心をリセットしてくれるのだ。


今日は、久しぶりの雨だった。仕事の疲れが溜まっていた僕にとって、この雨はまるで救いのように感じられた。窓際に立ち、ゆっくりと息を吸い込む。湿った空気が肺に入り、心地よい冷たさが体を包む。雨の匂いが、幼い頃の記憶を呼び覚ます。


雨の日は天気が悪い日と言われるが、僕はその考えに疑問を感じていた。雨が降らなければ、農作物も育たないし、水不足にも悩まされる。なのに、なぜ雨の日を「天気が悪い」と表現するのか。そんな思いが頭をよぎる。もし、雨が降らない日が続けば、誰もが雨を求めて祈るだろう。古代の人々が雨乞いをしていたように。


雨の日の静けさは、僕にとって特別なものだ。外の喧騒が和らぎ、自然と一体になる感覚が心地よい。雨音は、まるで自然が奏でる交響曲のようだ。リズミカルな音が、僕の心をリラックスさせる。そんな静かな時間の中で、僕は自分自身と向き合うことができる。


窓の外を見つめていると、雨がだんだんと小降りになってきた。おそらく、もうすぐ雨はやんでしまうだろう。いつもなら、雨がやんだ後の晴れ間が訪れると、人々は外に出てきて喜ぶ。「雨が止んでよかったね」と、笑顔で言うのだ。でも、僕はその言葉に違和感を覚える。雨がやんで、本当に良かったのだろうか。


別に良くない。雨の音が消えると、静かな時間も終わりを迎える。再び現実の喧騒に引き戻され、忙しい日常が始まるのだ。僕にとっての特別な時間が、また遠ざかっていく。そんな思いを抱きながら、僕は窓の外を見続けた。


雨は、やがて完全にやんだ。雲の切れ間から日差しが差し込み、空には虹がかかっていた。その美しい光景に、人々は歓声を上げる。子供たちは外に飛び出し、虹を指差して喜ぶ。大人たちも、晴れやかな表情を浮かべていた。


しかし、僕はまだ窓辺に立ったままだった。心の中で、もう少し雨が降り続けばいいのに、と思っていた。雨の日の静けさを、もう少しだけ感じていたかった。再び訪れるであろう忙しい日常に備えて、心を整えるために。


人々が「天気が良い」と喜ぶ晴れの日も、僕にとっては特別なものではなかった。晴れの日の喧騒は、心を疲れさせるだけだ。だからこそ、雨の日が好きなのだ。雨音に包まれながら、静かに過ごす時間。それが、僕にとっての至福のひとときだった。


雨が止んでしまった今、僕は再び現実に戻らなければならない。けれども、心の中にはまだ雨の音が響いている。その音を頼りに、僕はもう少しだけこの静けさを楽しむことにした。


外の世界が動き出す中で、僕は窓辺に立ったまま、心の中の雨音に耳を傾け続けた。そして、次の雨の日を待ち望む気持ちを抱えながら、静かに時間を過ごしたのだった。



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