§05. 第二皇女メルフィリア
「ねーコンセントどこぉー?」
今日は人も少なく静かなはずの王宮内が妙に騒がしかったので、チラッと扉を開けて外の様子を伺っていた女性。奥から走ってきたミアと目が合ってしまったのが運の尽きというか、ズカズカと部屋に入り込まれてしまった。そのあまりに無遠慮な態度に驚き、話しかけられてもしばらく反応が無く固まっていたがハッと我に返って、
「あ、あの…どちら様でしょうか…!?」
とりあえず当然の質問を投げかける。
「あーしはミアだよ。神之門美愛!よろ〜」
よろしくと言われても突然押し入ってきた不審な人間とよろしくする理由はない。見たことのない格好をしているし、少し後退りしながら再び質問を投げかけた。
「どこから来られたんですか…?今日はここ王宮には選ばれた方しか入れないはずですが…」
「どこって、東京だよ?」
「トーキョー…?いえ、どうやってこの王宮に入ってこられたのでしょうか…?」
何やら聞いたことのない地名で返されてさらに困惑したが、少し聞き方を変えてどうやってここに入りこめたのかを問いかけた。
「えー?どうやってって…なんかぁ、変な白い光に包まれたらここにいたんだけど?」
「……!!え!?それって召喚の…!?まさか英雄の方なんですか!!?」
女性も英雄召喚のことは聞いてはいたが、まさか今こんなところにいるとは思わない。しかも何やら追いかけられている模様。全く意味がわからない状況である。
「えーゆー?…あー、なんかそんなこと言ってたっけ?よくわかんないけどー。王様っぽい人の話聞いてたんだけど、つまんないから抜けてきて今散歩中〜」
「ええ!?ダメです、お戻りになってください!」
「やだ、めんどいし。そんなことよりさ、ライン交換しよ〜。あと友達になった記念に一緒に撮ろ♪」
なぜか既に友人認定されているのも謎だが、どうやら随分素行に問題のある人物らしい。世界を救う使命があるはずの英雄がこれでいいのだろうか?と呆気に取られていた。
「てゆーかその服さー、なんかめっちゃヒラヒラでフワフワだよねー。お姫様っぽいー。コスプレってやつー?」
「こすぷれ…??いや、私は…」
と言いかけたところで、ミアから畳み掛けるように質問が飛んできた。
「そーいやさぁ、名前なんてゆーの?教えてよー」
言われてみればまだ名乗っていなかったことに気づいた女性は、服をさっと正して非常に丁寧な所作で答えた。
「申し訳ありません。まだ名乗っておりませんでしたね。私はこの国の皇帝レイヴン=オディアルクが嫡女、第二皇女メルフィリア=オディアルクでございます。どうぞお見知り置き願います、英雄ミア様」
皇族然とした振る舞いに一瞬思わず見惚れてしまっていたミアだったが、何か考えるような素振りを見せたのちすぐにトンチキな返しをした。
「あー、なるほど。そーゆー設定ね。あの王様っぽい人もさー、チョー演技上手くて今思うとめっちゃウケる〜」
あの騎士の鎧とかも凝りすぎーなどと言って笑い飛ばしているミア。あまりに現実離れしていたからなのか、彼女はここを何かの撮影のセットくらいに思っていたのである。急にここに飛ばされたこととか、魔力測定とかどう考えてもそれでは説明のつかないことが起きているのだが。
「それよりメルっち、撮るっしょ?角度は…こんくらいかなー?」
「メ、メルっち…?えっと、それは一体…?」
メルっち呼びとスマホ撮影に困惑するメルフィリア。ミアはお構いなしに横に立ってスマホのカメラを自分達に向けた。
「んじゃ撮るよー。メルっち、笑って笑って〜」
そう言いながらカシャッと1枚収めると、撮れた写真を確認して可愛く撮れてる〜と満足げにしていた。
「それはなんなのですか?」
当然スマホを見るのは初めてなメルフィリアは少し興味深そうにミアのスマホを覗き込んだ。
「写真撮っただけだけど?ほら、いい感じに撮れてるっしょ?」
「わぁ、面白いですね。この世界にも魔法念写の技術はありますが、これはまたそれとは違った趣きがありますね…!」
スマホに映し出された写真を見て嬉しそうにするメルフィリア。先ほどはいかにも皇女といった雰囲気を出していたが、こうしていると年頃の女の子といった様子である。
「あ!ヤバ!あと5パーじゃん!そうだった、メルっち!コンセントどこ?」
スマホを見て慌て始めるミア。先ほどの発言と合わせてどうやら彼女はまだここが自分のいた世界と異なるということに気づいていないと思ったメルフィリアは、ちゃんと説明しておく必要があると考えて話し始めた。
「ミア様、申し訳ありませんがコンセントというものはこの世界にはおそらくありません。ここは本当に貴方様がいらした世界とは異なるのです。」
そしてメルフィリアはミアが置かれている状況をもう一度丁寧に伝えた。
「ええぇぇ〜〜!!?じゃ、もうスマホ充電できないってこと〜!!??」
「え、そこですか!?」
ミアにとってはスマホの充電ができない>>>異世界に飛ばされてしまったこと、らしい。なんでやねん。
「あの、ミア様は別の世界に飛ばされたことはお気になさらないのですか?」
「ちょっとーその様ってつけるのいやー。ダチなんだからミアでいいってー」
「え、でも私たちまだ会ったばかりですし、友人と言われましても…」
「そんなのカンケーないし。あーしらもうダチっしょ!」
正直メルフィリアには親族や王宮付きの者たちとの交流がほとんどで、友人と呼べる存在がいなかったためどう接していいかわからないところもあり少し動揺しつつ答えた。
「そ、そうですか、では…えっとミア、さん」
「さんもいらないけどー。ま、いっか」
「さっきの質問ですが、ここに来たことをどう思っているのですか?」
「えー?まぁここって映えスポットたくさんありそうな気がするしー、色々見て周って見たいかなーって。んでーユウカに自慢すんの。あ、でも1回充電しに戻りたいかなー」
「バエ…?よく分かりませんが、旅行したいということですか?」
「まーそんな感じ?」
「え、でもミアさんには英雄ですから、先ほどこの世界の現状をお話ししましたが私としても皇女としてミアさんには世界を救う使命を果たしてほしいと思っています」
「だからそんなこと言われてもぉ、なんか分かんないしキョーミないから。てかさっき外も見たんだけどさぁ、この辺りめっちゃ映える街並みなの!街の方行きた〜い。ねーもしかして他にもすごいとこあったりすんの?」
英雄の話は暖簾に腕押しである。どれだけ世界の現状を説いてもおそらくこの少女はなんの興味も示さないだろう。メルフィリアも英雄召喚について詳しいことまでは知らないが、ミアが選ばれてここにいるのは事実である。それならばこういう人物なのも何か意味があるのかもしれないと考え、話を合わせることにした。
「そうですね…このミガルド皇国内にも魔力成分が多く含まれた水が地から天へ逆流する滝が見える国定公園や西には貴重な植物がいくつも花を咲かせるオーク族が経営する美しい大菜園、別の国では雲を貫くほど高く聳える大樹に住まう翼人族の国とか…」
「ヤッッバ!何それ!行ってみたい〜!ねーねー他には?他には?」
メルフィリアの話すこの世界の名所話はミアにはとても刺激的だった。メルフィリアもミアの反応を見て話すのが楽しくなってきてしまい、二人は時間も忘れて話に花を咲かせていた。
作品は基本毎週火曜日・金曜日に投稿予定。
次回の投稿は4/25(火)です。忌憚のないご感想をお待ちしています。