§03. 異世界ユーラシル
「大事はなかったか?英雄ソフィアよ」
「え?は、はい…」
レイヴン皇帝が声をかけるとソフィアは少しビクッと反応し答えた。
「測定器の限度を超える魔力量など知りうる限りでは今まで報告されたことはない。このようなことになるとは想定できなかったのだ。怖がらせてしまったことを詫びよう」
「い、いえ…」
皇帝はソフィアに先ほどの事態の謝罪をすると、改めて4人に向き直り話を続けた。
「文献に記された英雄の物語も何百年も昔の話ゆえ半信半疑なところはあった。しかしこの魔力測定が示した結果は…まさに我々の期待通りの素質というわけだ。では改めてお前達に今のこの世界の状況を伝えよう。この世界ーーユーラシルには大きく分けて2つに分断されている。1つは我々人間族や獣人族などが住まうアスラッドだ。我がミガルド皇国を含む複数の国が存在する。そしてもう一つはヘルヤームという魔族が住まう地域だ。アスラッドとヘルヤームは永く互いに過干渉を避け、うまく共存してきていたのだが数ヶ月前より魔族の軍勢がこちらに侵攻してくるようになった。元々魔族は特定の統率者を持たず、自由気ままに生きる者達なのだがこうした侵攻はその統率者の存在…つまり魔帝の出現を意味している。古い文献によれば魔帝は数百年前にも現れ、魔族達を率いてアスラッドに甚大な被害をもたらしたが異世界より召喚された英雄により討伐されたと記されている。そして今また脅威にさらされたアスラッドにはその異世界の者の力が必要とされているのだ。先ほどの魔力測定によりお前達の素質が文献の記述を確からしめるものだということが示された。この力をもってこの世界を救う英雄、いや英雄の卵と言った方が正しいか。魔帝討伐を成し遂げてもらいたい」
レイヴン皇帝の少し長めの説明を聞いてレオはうんうんと頷きながらまさに異世界っぽい、とこぼしていた。ミアはスマホをいじって何かしている。
「一つよろしいでしょうか、私たちに力があることは分かりました。しかし私には戦いの知識も経験もほとんどありません。おそらく他の3人も。魔法という私の世界には無いものを扱うなら尚更です。このまま魔帝とやらに立ち向かうのには不安を感じております」
英雄としての活躍を期待されていることに対してロバートが率直な意見を述べた。ここにいる4人は元の世界でただ普通に暮らしていた者達であり、戦争や実践的な戦闘の経験など無いに等しいのだから当然である。
「そのことについては心配は無用だ。魔法戦闘技術に優れた魔導士をお前達につける。その者の元でまずは基本的な魔法の扱い方を学んでもらう。他にも必要な支援があれば出来うる限りのことはしよう」
「分かりました。お心遣いに感謝いたします」
ロバートは丁寧に言葉を返し頭を下げた。一方でレオは、
「くぅぅ〜!早く魔法を使ってみたい!陛下!魔法を覚えたらすぐにでもこの4人で魔帝の討伐に向かいたいと思います!ご期待に添えられるよう頑張ります!」
なんだか気が早いというか興奮冷めやらない様子でやる気満々のその言葉を聞いて、ロバートはギョッとした表情で返した。
「ちょ、ちょっと待て!あー、レオ、だったか?まさか俺たち4人だけで戦うつもりなのか!?」
「え?そりゃそうでしょ。ファンタジーな異世界で冒険って言ったら、パーティで魔王討伐!これが基本じゃないか」
当たり前でしょ、みたいなスタンスで話すレオにロバートは頭を抱えるような仕草を見せて、
「いやいや、漫画やアニメの話じゃ無いんだ。危険も伴う。いくら俺たちに素質があるからと言ってもたったの4人でなんて無理だ。ここは各国の軍と連携をしたりだな…」
「でもその軍では歯が立たないからボクらが呼び出されたんでしょ?古い記述においても英雄によって討伐されたって言ってたじゃないか。ボクらならきっと勝てるよ!」
「いや、しかしその文献に書かれていることが真実とも限らないし、俺たちが同じようにやれるとは限らない。きっと勝てるなどという希望的観測が過ぎる。しっかりと戦力を整えて計画的にやるべきだ。君はどう思う?スフィア」
「え?えっと…」
スフィアは突然話を振られて動揺しながら返した。
「わ、私は、その…話し合いで解決した方が…良いと思い…ます…」
「いやまぁ、それができればいいんだろうが、話では既に魔族による侵略は始まっていてもうそういう段階ではないんだ。戦況が変われば可能性はあるのだろうがな」
「あ、す、すみません…」
スフィアは自分が見当違いなことを言ったしまったと感じ、少し萎縮した様子で謝った。
「ああ、いや攻めてるわけでじゃない。すまないな」
ロバートも彼女の様子を見て棘のある言い方だったかもしれないと思ったようだ。ここでやり取りを聞いていたレイヴン皇帝が口を挟んだ。
「英雄レオの言うように現状アスラッドの各国の戦力では魔族達に押されているのが現実だ。情けない話だがな。だからこそお前達の力を必要とし、共に協力して事にあたってもらいたいと考えているのだが…」
皇帝は少し考えるような間をおいて、
「英雄ミアよ。お前の考えも聞いておこう」
ここでミアに話の矛先が向けられる。しかし、
「………」
返事がない。スマホをいじって何かしているようだ。
「英雄ミア!聞いているのか?」
少し声のトーンを上げて皇帝が再度呼びかけた。ようやく気づいたミア。ミアは皇帝が世界についての説明を始めたあたりから全く話を聞いていなかった。そしてミアから放たれた応えとその後の行動はその場の全員を唖然とさせるに十分なものだった。
「あー、あーしそーゆーよく分かんないのはパース。あ、そうだ!この城みたいなとこさぁ、めっちゃ映える感じじゃん?暇だからあーし映えスポット探しに行ってくるし、じゃーねー!」
そう言うや否や、そそくさと部屋を飛び出していった。
周りの者達はミアのあまりの傍若無人な振る舞いに開いた口が塞がらず、部屋から出ていくミアを眺めているしかなかった。
作品は基本毎週火曜日・金曜日に投稿予定。
次回の投稿は4/18(火)です。忌憚のないご感想をお待ちしています。