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第一章 高校生序章

私って何のために生きているんだろう。

親って何だろう。友達って何だろう。対人関係って…。

そう考えるようになったのは高校生の頃だった。



---------------------------------------------------------------------------



「おはよう。」

朝から僕は元気に友達の拓海に声を掛けた。

「おはよう、達也。」


いつからだろう。友人の黒沼達也が素っ気ない態度を取るようになったのは…。

いや、態度は変わってない。

変わったのは僕だった。人の心に色が付いて見えるようになった。

今は、言葉に表せないけど、そこにあったのは水の中に墨汁を1滴垂らしたような色だった。

最近はそんな感じだ。

話している男子たちは青く見えたり、オレンジに見えたり、赤に見えたり、

自分とあまり合わないであろう人の色も見分けがつくようになってしまった。


「昨日のジャンプ読んだ?」

「読んだ!読んだ!主人公の技スゴかったよな。」


いつの間にか拓海は別の人と話していた。急に黄色やオレンジ、赤と言った花火のような色になっていた。

楽しそうだな。自分もジャンプ、読んでみたいな。そんな事を思っていた。

でも、本音が言えない。誰にも。

本音を言えたのはいつだろう。多分小学生から言えてないかもしれない。

言うと、家族が壊れてしまう気がして。


「何の話してるの?」

「○○の話、バトルシーン激アツだったよな!」

「…。」


黙って聞いていた。

何も考えないようにしたいのに、急に塾、今日だったな。って考えてしまう。

自分のこの性格が嫌いだった。


「こんにちは。」

元気に塾の受付の人に挨拶。僕はどこでも明るい性格を演じなければならなかった。

ツライ。

「今日は小テスト返すぞ!」

いい点とれてますように、祈るように私は目を瞑った。

「古田。」

「はい!」

「もう少し頑張れ。」


結果は10点中6点。

平均は7.5点。

また、ダメだった。頑張ってやってもダメなんだな。

隠さないと怒られる。

帰るの嫌だな。


「ただいま。」

家では僕に感情はない。本気で笑えたことはもう一度もないんだろうな。

「おかえり。」

母・古田優子は犬のバニラの世話をしていた。

「ごはん、何?」

「お味噌汁とサバの味噌煮だよ、帰ってきたら手洗いなさいって言ってたよね?」

今帰ってきたばっかりなのに…

「分かってるよ。」

リュックを置いて手を洗う。

「リュックは部屋において来なさいって言ってるよね?」

「うん。」

自分の部屋は3階にあった。

自室の途中にキッチン兼ダイニングがあるので、僕はいつもそこで手を洗っていた。

だからまだ、自室にも行っていない。

さっき手を洗えって言ったのに…。

僕はしかめっ面をした。いや実際はしたように思っただけで全く動いていなかった。僕の表情筋は仕事をしないみたいだ。


そんなこんなでパソコンを開いた。

自分一人の時間だ。

YouTubeを開いた。

最近知った2次元音楽サークル団体の曲を聞いていた。

唯一ホッとできる時間だった。


「何、音楽聞いてるの?勉強しなさい!」

「…」

僕は何も聞いていないふりをした。

「学校の課題出されてるでしょ?塾の宿題は?」

「後でやる。」

「今、音楽聴いてるじゃない!」

「…分かった。」

僕は音楽を聴きながら、課題を始めた。

「なんで音楽聴きながらやってるの?」

何を言ってもダメだってわかってるからもう、何も言わなかった。

というか、自分がどうしたいのか夢も無くなっていた。親が何考えて言ってるのかも全然理解できない。

いや、多分理解したくないだけだ。

そう思っていると急にパソコンが閉じた。

音楽が消え、そして空虚が私を包み込んだ。


まるで、この世の中は

僕を嫌っているのではないか。

僕は、不良品なのではないか。

そんな僕はこの、世界では必要ないのではないかと感じていた。


「ただいま。」

父・古田健太郎が帰ってきた。

僕はホッとした。

父が帰ってくるとテレビを付けるからだ。

やっと自分の時間が作れる。


いつからか対人関係に疲れていた。

自分が何者なのか。

自分が何を考えているのか。

全く理解できなかったからだ。

ただ一つ言えたのが、両親の望みだけは認識出来たことだ。

お願いされたことはない。命令されたこともない。


でも・・・


会話で分かってしまうのだ。いや、会話だけではない、その人の周辺に色が見えてしまうのだ。


これは僕だけの特殊能力なのだろうか。


全く分からない。


でも、心苦しくなるのは分かってるので、何も考えないように楽しい音楽をただただ聴いていた。


両親の笑い声が聞こえてきた。

その笑い声が嫌いだった。

なんで笑えるのか?面白いって何だろう?

もうずっと前から本気で笑えたことはあるだろうか?

大声で笑って自分の心を埋めようとしていただけなのかもしれない。

本当に面白かったかもしれない。

でも、今はわかんない。

ただただ、辛さがこみ上げるだけだった。


僕は毎日、心に何かを埋めたくて、すっぽりと開いてしまったこのなんとも言えない空間に。

音楽、ゲーム、テレビ。

楽しんでも、心はブラックホールのように楽しさを全て飲み込んでしまう。

そして、残ったのは事実だけ。

楽しかった!って思うけど。

次もやりたい!って思えなかった。

ただ、思うのは。心の隙間を埋めてくれる何かがほしかった。

だけなのかもしれない。


そして、1日は終わっていく。


しかし、私の生活がガラッと変わった。

朝4時に起きるようになったのだ。

いつもは7時までぐっすり寝れたのに。


朝の至福。

自分でお弁当を作り、朝6時家を出た。

人の少ない電車。

太陽は起きたばかりで、薄暗かった。

スマホでYouTubeを開き音楽を聴きながら、読みかけの本を開いた。


いつもだったら有り得ない光景だ。

誰もいないから出来るこの時間。


6時50分高校に着いた。

正門は鍵がかかっていた。


どうしようかな?と思っていると。


ガチャ


と開いた。

警備員の人が開けてくれた。


門の左にある小さな門扉から僕は入った。

誰とも会わない学校。

この空間が好きだった。


ただ早く行くことが増えたせいで僕はあることに気づいてしまった。

これが僕をさらに苦しめることになることを僕は知らなかった。


僕の高校は中高一貫校であった。

中学受験に失敗してしまい、通うことになった中学。

そこで出会ったのは、背の高い一人の男の子だった。

名前は瀬川(せがわ)貴大(たかひろ)


サッカー部に所属していて、僕の誰とも仲良くなれない性格とは違って、誰とでも話しかけてくれて、僕にも声を掛けてくれることはあった。

それでも、嫌だった。

クラスでは勉強もできず、運動もできず、落ちこぼれの僕。


そんな僕は高校の時に彼に恋をしていた。

瀬川くんに会うだけで、その日救われるような気がしていた。

でも、

自分の高校時代はLGBTに対して否定的な時代だった。

そのせいで、さらに苦しくなった。


なんで、僕は男性に恋するようになったんだろう。

なんで、女性じゃなくて、瀬川くんに恋心を抱くようになったんだろう。

全く分からなかった。


そして、親に相談したかったが、母から

「これからは子供を育てるのにも苦労するんだからしっかり勉強しなさい!」

と、言われていたので、何も言えなかった。


あー、親は結婚して、子供を産んでほしいのかな?


そんなこと思うと何も感じないようにしないといけなかった。心苦しい。


ある日、高校の保健の授業で、性教育があった。

先生が性について指導する。

一人の男子生徒が女性の話になった途端

「先生はやったの??」

と聞いた。先生は苦笑いしながら

「そんなこと聞くな!」

って言っていた。


あー、この世の中は皆男性は女性を、女性は男性に恋するんだろうな。

そんな風に感じた。

学校にも相談できない。

そうだ、この恋心は自分の中に隠しておこう。

それだけで、楽になるだろう。

と授業を聞きながら思っていた。


キーンコーンカーンコーン

チャイムが鳴る。


「起立!気を付け!礼!ありがとうございました。」


男子同士が集まっている。

「お前誰が好きなんだ?」

「俺は女優の○○だな!」

「可愛いもんなぁ…。」

「達也は?」


急に聞かれて鼓動が爆発しそうになった。


「えっ?」

「いるだろう?お前も!」

「いないよ。結婚願望もないし。」

「そういうやつが、早く結婚するんだよ!」

「うわー、達也羨ましい!!」

「や、やめてよ。」


本当は瀬川くんが好きなんだ!って言えたらな。

僕って性別なんだろう。

男?女?

わかんない。でも、今は瀬川くんが好き。それだけなんだ。


「えー、お前、あのデブ女が好きなのか?」

「まじかー」

「デブ専なんだよ~」


体格でも揶揄われてるのに無理だ…。

僕は泣きそうになってトイレへ逃げ込んだ。

そう、そこに瀬川くんの姿があったからだ。


ごめんね。

僕はトイレでしてしまった。

申し訳なさで一杯になった。


この日初めて、死にたいと思った。

階段を見て、ここから死ねば楽になるのかな?って

でも、怖くて死ねなかった。

それが本という存在だった。


本は語りかけてもくれない。

自分が感じるように読ませてくれる。

それが救いだった。

そして、その時思ったのが、死んだら本を読めなくなっちゃうだった。

苦しいのに何かに打ち込むのは難しい。だからこそ、一人になる時間が僕には重要だった。


いや、一人にならないといけなかったのではないかと思う出来事が出てきてしまった。

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