ラストソング
久々にセイレーンの姿になったセレアナが歌っている。
あの魔界の森でボロボロになりながらオレを追いかけてきた時のような濁声ではない。
スキル【美声】で彩られた美しい歌声だ。
そう、オレは魔王を倒したことによってレベルアップし、スキル【付与】を習得していた。
それによってセレアナには【美声】、リサには【吸血】を返すという約束を無事に果たすことが出来ていた。
セレアナはずっと「スキルを取り返したらオレを殺す」って言っていたんだけど、なんか見逃された感じになってる。
多分、魔王を倒したオレに取り入ったほうがメリットが大きいとか思ってるんだろう。
で、もう一人。
スキルを取り戻してバンパイアへと戻ったリサの方はというと……。
「あー、ダメでしょ! ちゃんと食べないと! ほら、こぼさない!」
「うー、だってこれ、おいちくないもん」
「好き嫌いしてたら大きくなれないわよ! フィードみたいにいつまでもちっちゃいままでもいいの!?」
「いい。フィード、すき。ちっちゃいままでいい」
「なっ……! ったく、この子ったら~」
魔王が変化した幼女。
その相手にずっと追われていた。
「あの……リサ、大丈夫か? ちょっとルゥとかモモに任せても……」
「ダメよ! あの2人はすぐ甘やかすんだから! ろくな子に育たないわ!」
「あ、はは……そ、そう……」
と、めっきり教育ママっぷりを発揮して魔王幼女の世話を焼いている。
そう。
オレが運命剣で斬った魔王。
てっきりこの世から消滅するかと思ってたんだけど、なんか幼女になっちゃった。
オレの【鑑定眼】で“視て”も、きっちり「職業:魔王」になってる。
もしかすると、魔王なりに自分の進みたい姿を切り拓いた……? のかもしれない。
しかし、この魔王女児。
一体どうしたもんかなと思って執政集団テンペストに相談してみたんだけど、結局魔王であることを世間に公表することにした。
そしてオレ達が魔王の正式な後見人であることを知らしめ、フィード皇国の魔界での版図を広げていく材料として使わせてもらってる。
ああ、テンペストといえば。
九尾狐のクナシは魔界の東国の姫らしくて、彼女を探しに魔界の端まで来てた稲荷のムキに見つかってひと悶着あった。
まぁ、ヤリヤをはじめ、ザリエルくんやユリスの働きもあって、王都制圧後の国家運営も非常に上手くいってる。
生真面目なザリエルくんは、大天使に昇格しても相変わらず雑務に追われてヒーヒー言ってるけど。
「おおっ! これが魔王の成れの果てか! 魔王のくせになかなか可愛らしいじゃないか!」
この天上天下唯我独尊感強めで現れたのはエルフ国の第4皇子のベリタだ。
「久しぶりだな、ベリタ」
「ああ、上手くいったようだな、我が友よ」
オレたちは熱い握手を交わす。
「王都の復興支援感謝してるよ。まさかこんなに早く立て直せるとは思ってもなかった」
「人間界での諍いには手を出さない約束だったけど、支援に手を貸さない約束なんてしてなかったからな! 前々から用意してたさ!」
「そうか……助かる。これからは戦いじゃなくて外交がオレたちの仕事になるんだが……お前が相手だと苦労しそうだ」
「なぁに、私は大したことしていないさ。全て我が兄が手を回してくれたんだ。なぁ、デイル兄さん?」
ベリタがそう言ってにっこりと微笑むと、後ろに控えていたデイル第1皇子が、かつての面影もなくオドオドとした様子で「あ、ああ……そ、そうだ……」と小声で呟いた。
「これからは私と兄でエルフ国を切り盛りしていくからな」
「そうか。お互い大変だな」
「そうか? 楽しいことだらけじゃないか。その証拠に、ほら、みんな待ってるぞ」
視線の先には、ルゥがいる。
リサがいる。
モモがいる。
セレアナがいる。
ヒナギクがいる。
ミアがいる。
ダイアがいる。
ゴブリン王と姫のグローバがいる。
執政集団テンペストのヤリヤ、ソラノ、ザリエル、クナシ、蜂、岩、ゴリラ、ゴースト、ビッグフット、ユリスがいる。
フィード皇国のムキ、スピーク、イギア、カイザー、タイラーがいる。
エルフ国のベリタ、デイルがいる。
ズィダオ、ソウサー、セイメイ、グララもいる。
異界からの転生者ドミー・ボウガンとラベル=ヤマギシもいる。
元権天使のカミルもいる。
古代の勇者タナトア、そして。
生まれ変わった魔王のパーニャもいる。
オレはみんなの間を通って、新しく立て直した王城のテラスに進み出る。
空から差し込む眩い光に目を細める。
眼下に見えるのはたくさんの人、そして魔物。
あれから人間とゴブリンが手を取り、力を合わせて復興を果たしてきた。
その甲斐あって今この瞬間、人魔混合で織りなす新しい王都の歴史が始まろうとしている。
魔界から逃げ出す時に、血で染まった真紅の礼服を着ていたオレ。
それが今では真紅のマントを身に纏い、民の前に立っている。
仲間が、民が、かつての敵が、息を呑んでオレを見つめている。
右手を差し出してオレは告げる。
「皆の者、よくぞここまであの惨状からの復興を果たしてくれた。これは人と魔物、互いの力あっての歴史的な偉業だ。そしてその関係は今日で終わりではない。始まりなのだ。今日をフィード元年のはじめの日とし、フィード皇国の建国記念日とする。まぁ細かいことは明日以降に話すとして……まずは──」
ミアが差し出した酒を受け取る。
「飲もうじゃないか!」
民衆の歓喜の叫びで王都が包まれる。
そう、こんな時は決まって宴。
そうだろ?
王都の高い空に、セレアナの美しい歌声がいつまでも響き渡っていた。
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