切り開く力
左右に広げたオレの両手。
その片方にヒナギクが女勇者タナトアの剣を握らせる。
そしてもう片方には。
もう片方には……。
「え、剣とか急に言われても持ってないんだけど! 三節棍しかないわよ!」
「私も《大司教の聖杖》ならありますけど……」
「私は斧なら持ってますわぁ!」
「我が主! 私も武器など持っておりませぬ!」
「自分は金棒しか……」
「オレもこの拳しか持っておりません!」
オレの急な要求に、アタフタと剣を探すみんな。
「…………」
あ、ほら、魔王の姿になった黒い霧も呆れてこっち見てるじゃん……。
う~ん、この最後まで締まらないパーティー。
「あ、そういえばヒナギクって短刀みたいなの持ってなかったっけ……」
「持ってるっスよ!」
そう言うと、ヒナギクは【同化】してた女勇者タナトアの体から分離する。
「はいっス」
パシッ。
オレの空いてる手にヒナギクが短刀を持たせる。
「……ん? 貴様……っ! 一体、私に何をしたァ──!?」
我に返った女勇者タナトアが敵意を剥き出しにする。
「あ、ちょっと今忙しいから。ヒナギク、もう一回【同化】しといて」
「はいっス」
そう軽く返事をすると、ヒナギクの姿は再びタナトアと【同化】していった。
「貴様……! きさ……ぐが……ぁ……っと。はい、オッケーっスよ!」
オレに向かって親指を立てるヒナギク(タナトア)。
「お前たちは……勇者までをも操るのか……」
淡々とした様子で魔王が喋る。
「操る? 操ってるといえば操ってるけど、正確には【同化】なんだけどな」
「フッ……【同化】だ? それは自覚がないだけで、私のしていた肉体の乗っ取りと何が違うというのだ」
「いや、ぜんぜん違うでしょ。だってあんた肉体捨てちゃってるじゃん。ヒナギクはちゃんと肉体あるし」
「なにっ……!? 肉体を捨てずに他者に乗り移ることが出来るというのか……」
「いや、だから乗り移ってるわけじゃないし、いちいちそれをお前に説明するつもりもない。ただ一つ言えるのは──」
オレは周りを見る。
ルゥがいる。
リサがいる。
モモがいる。
セレアナがいる。
ヒナギクがいる。
ダイアがいる。
ズィダオがいる。
カイザーがいる。
そして。
城の外にはたくさんの仲間が。
ゴブリン国のみんなが。
フィード皇国のみんなが。
エルフ国のみんなが。
いるんだ。
「魔王。お前が封印されてた間に、人間も魔物もすこぶる進化したってことだな!」
オレは2本の剣を掲げて魔王目掛けて、跳ぶ。
「ク、クク……勇者すら自在に乗っ取ることの出来る人間と魔物たち……。こんなの……ハハ……これじゃまるで、お前たちのほうが……悪魔……だ……」
オレの剣撃を両腕で受け止める魔王。
「だがっ! 腐ってもこの世の覇者であった私が簡単に終わるわけにはいかんのだ!!! なんとしてもその肉体をもらい受けるぞ、小僧!!!」
その強い言葉とは裏腹に、魔王の力は徐々に弱まっていく。
オレは終わりの時が近いことを悟っていた。
「魔王。お前は仲間に裏切られて地下牢に閉じ込められてた。オレも同じだったんだよ。信じてた仲間に裏切られて檻に入れられてたんだ」
「ハッ! なにが同じなことか! 貴様にはこの数千年の苦痛など決して受け止められぬであろう!」
「受け止める? いいや、違うね。受け止める必要なんかないんだ。お前に必要だったのは一人で受け止める力じゃなくて──」
ぐっと体重をかけてタナトアの剣を魔王へと押し込んでいく。
「──みんなで切り開く力だっ!!」
「ぐぐぐっ……」
消耗しきった魔王はオレの圧力に耐えきれず次第に両の腕が下がっていく。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
魔王の体にじわじわと剣が食い込んでいく。
オレは最後の力を振り絞り剣を押し込んでいく。
「フィード! いけー!」
「フィードさん!」
「アベルくん!」
「ふぅん、あのフィードがまさか魔王を、ねぇ……」
「フィードさん、やっちゃってくださいっス!」
「我が主!」
みんなの声がオレに活力を与えてくれる。
剣はすでに魔王の肩口まで切り込んでいる。
「うおおおおおお、滅びろ魔王!!」
「ぐああああ……しかし我は滅びぬぞ……新たな勇者が現れるように……また新しい魔王が生まれるだけだ……」
「いいんだよ、それで! オレとオレの大切な人が無事ならとりあえずそれでいいの!」
「なっ──! そんなものの為に私は──」
「そう……だな。お前からしたら『そんなもの』だろう。でもな、そんなものがオレには一番大事なんだ! それが嫌なら! 次の人生では自分で道を切り開くことだな、誰かを信じることの出来なかった孤独な魔王よっ!!!」
──因果剣!
勇者タナトアの剣が魔王の因果を断ち切ると、返す第二の刃でさらに魔王を断つ。
──運命剣!
忍者ヒナギクの短刀が、全ての因果から解き放たれた魔王を討つ。
運命剣。
斬られた者の運命を改変する剣。
それに斬られた魔王は──。
スポンっ。
そんな間の抜けた音とともに、ピンク髪の幼児へと変化した。
「魔王が幼児に? 一体どうなっちゃうの?」と思っていただけた方は↓の【★★★★★】をスワイプorクリックしていただけると作者の励みになります。
さらに、よければ【いいね】【ブクマ登録】などもいただけると、とても嬉しいです。




