最後の一手
スキルを奪われた囚われの魔王。
奴は元の体を捨て、オレの体を乗っ取ろうと精神世界で攻撃を仕掛けてきた。
だが、逆に追いつめられてるのは魔王の方だとスキル【危機管理】で悟ったオレは、【事前準備】と【狡猾】で魔王を完全に仕留める算段を立てる。
「何をボーっとしておる? 怖気づいたか?」
「ああ、いや、今考えてたんだよ。お前を潰す方法を」
「なに……?」
──高速飛行。
オレは空に飛び上がると、大声で魔王に話しかける。
「例えばオレはスキルで空を飛べるけど、お前が空を飛ぼうと思ったら精神力をたくさん消費するよなー?」
「……」
「で、オレがこうやって上から魔力消費の少ないコスパのいい攻撃をするじゃん?」
──投げ触手、毒触手、剛力、軌道予測。
毒液を撒き散らしながらすごい勢いで落下してく触手が魔王の体を正確に捉える。
「……!」
「うん、ダメージは少ないよね? でも全くダメージがないわけじゃないでしょ? しかも、イヤだよね? こんな攻撃を浴び続けたら。精神力も削られていっちゃうよねぇ?」
オレの指摘に何も言い返せない様子の魔王。
これはオレの言ってることが図星をついてることの証だろう。
オレは更に煽る。
「精神力が削られきったら一体どうなっちゃうんだろうね~、魔王さん、肉体を離れてるからね~。精神力がなくなっちゃったら消えちゃう? ねぇねぇ、消えちゃうのかな?」
「くっ……貴様……!」
初めて感情を顕にする魔王。
いいぞいいぞ、もっと怒って精神力を浪費しろ。
オレは心の中でほくそ笑む。
お互いに精神体だからか、オレの【鑑定眼】で残りの体力や魔力を確認することも出来ないし、そもそも精神力なんてバロメーターは元からなかった。
ここからは勘で勝負だ。
タナトアの肉体にいた時に見た魔王の体力99999、魔力99999。
対するオレの体力15000くらい、魔力50000くらい?
デンドロとか倒してレベル上がってるはずだけど、確認してなかったから多分これくらいなはず。
これで削り合いして最後まで残ってた方の勝ちだな。
そして。
自慢じゃないが、こういう姑息な戦いなら負ける気がしない。
怒りに燃えた魔王が精神力を消費して空に浮かび上がる。
「お、来たか。それなら──」
──透明。
オレはその場から姿を消すと、気づかれないようにそっと地上に舞い降りる。
「──! 貴様っ! どこへ行った! 卑怯だぞっ!」
宙でキョロキョロしながら戸惑う魔王を見つめながら、オレは次の仕掛けに入る。
──斧旋風、火炎、剛力。
オレは精神力で具現化させた斧を手に取ると、業火に包まれる巨大旋風を作り出して上空の魔王を渦に巻き込んだ。
「ぐああああああああああああああ!」
予測の外からの強烈な攻撃に、たまらず声を上げる魔王。
──処刑百般。
焼き爛れる魔王の肉体を無数の針が貫く。
「くぁ────ッ!」
声にもならないうめき声を上げる魔王。
うん、着実に魔王の精神力は削れていってるみたい。
よしよし。
このまま“削り”の勝負、地道に続けていきますかね……。
◆◇
「ハァ……ハァ……ッ」
度重なるオレの死角からの攻撃を喰らい続け、もはや虫の息になっている魔王。
「どう? これでもまだオレの体を乗っ取るつもりなの?」
余裕綽々を装って話しかけるオレだが、内実オレもかなり消耗していた。
「私を……この私を本当に滅ぼせると思ってるのか……?」
「ああ、思ってるよ。いや、思ってるというか、する。オレが生き延びる方法がそれしかないんだったら、何も考えずただ実行するだけだ。これまでもそうやって生き延びてきた」
「ククク……それは私も同じことだな……。お前の肉体を乗っ取れなければ私はこのまま死ぬ。だからお前を殺して体を乗っ取る。ただそれだけのことだ」
「もう十分生きただろ? デンドロたちに裏切られた時点で終わったんだよ、お前の人生は」
「いや、私は……! 未来永劫生き続けるのだ! そのためにも! 今! ここでお前を殺す!!!!!」
魔王は最後の精神力を振り絞ると、巨剣を具現化してオレに斬りかかる。
ガッキィーン──!
オレは2本の剣を具現化してそれを受け止める。
「グググ……! 人間の分際で無駄な抵抗を……!」
「どうした? お前の見下すその人間はまだまだ余裕だぞ? 魔王って言っても大したことはないな」
そう煽ってみせるオレだが、魔力も尽きかけ、もう限界を迎えつつあった。
ただ、そんな状態でもブラフを吐き続けられるのはスキル【狡猾】の効果。
このまま魔王の攻撃を受け流す。
そしてスキル【因果剣】で魔王の因果を消し去る。
最後に、返す刀で【運命剣】を叩き込んで魔王を消滅させる。
そこまでの段取りが出来上がってるにもかかわらず、最後の最後、魔王のひと押しが跳ね返せない。
(くそ……なにか……なにかもう一手……魔王の気を逸らさせることのできる何かがあれば……)
魔王の全生命エネルギーを込めた一撃がオレの剣を徐々に深く、深く、押し込んでいく。
◇◆◇◆
王城地下牢獄。
倒れているフィードの体は悪魔になりかけたり元に戻ったりと、一進一退の攻防を繰り広げていた。
「フィード! しっかりして、フィード!」
「フィードさん……!」
「アベルくん! 戻ってきて! お願い!」
「おお……我が主……」
心配そうにフィードを取り囲んで声をかけるリサ、ルゥ、モモ、ダイア。
女勇者タナトアに【同化】したヒナギクが言う。
「ムムム……どうっスかね? 自分がフィードさんに【同化】してみましょうか?」
しかし、それを制止するリサ。
「いや、それはやめたほうがいいわね。精神と肉体が不安定すぎてどうなるか予想がつかない。下手したら取り返しのつかないことになるかも……」
「そうっスか……。じゃあ、このまま見守っておくしかないっスね……」
「そうね。歯がゆいけど、今はそれしかないわ」
リサの言葉にルゥが呼応する。
「じゃあ、私たちは何か起きた時のためにしっかり備えておきましょう!」
「うん! そうだね!」
「ワン!」
モモとダイアがルゥの意見に同意する。
そして、その直後。
何かが起こった。
ドッカァーーーーーーン!
その「何か」を起こしたのは。
美声を失った山賊セイレーンのセレアナ。
「なになに!? なにが起こったの!?」
魔王の魔力で作られたはずの地下牢。
その壁をぶち破ってセレアナとダイアウルフ達が突っ込んできた。
「ええええ!? ちょっと、なんでセレアナが!???」
勢い余ってフィードの上に転がり落ちたセレアナは、周りを見渡すときょとんとした様子で言う。
「あらぁ、フィードじゃなぁい? なんでこんなとこで寝てますのぉ? みんな頑張ってるんだから、早く起きなさぁい」
バチンッ!
セレアナはフィードの頬を思いっきりぶっ叩く。
「セセセセセ、セレアナさん!?????」
「ちょ、ちょっと何やってんのよあんた!!!!」
なんで責められてるのか本気でわからないセレアナは「はぁ? なんですの一体?」と全く悪びれずに答える。
次の瞬間、フィードの額から黒い霧が吹き出してきた。
「みんな、戻ったぞ!」
パチリと目を明けたフィード・オファリング、アベルが叫ぶ。
黒い霧は、悪魔の姿へと変わっていく。
フィードは両手を広げて叫ぶ。
「今から魔王にとどめを刺す! 剣を2本渡してくれ!」
本日完結予定です。
次は17:31と18:31に更新。
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