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勝利のレシピ

 ──運命剣。

 全てのえにしを繋ぐ剣。運命を改変する効果を持つ。


 これが古代の勇者タナトアのスキルだった。

 チート級なんてもんじゃない。

 このスキル効果は、もはや神の領域に足を踏み入れている。


 オレは右目の【鑑定眼】でそれを確認すると、すかさず左目の【吸収眼】で奪い取る。

 これで現代の勇者の【因果剣】、古代の勇者の【運命剣】、そして魔王の【処刑百般パニッシュ・オール・カインド】を所持することが出来た。

 あとは魔王の運命を操ってこの世から消滅させるのみだ。


 そう思った瞬間。


 危機を悟った魔王の霧は、自らを矢状に形作るとオレの額目掛けて決死の特攻をしてきた。


「フィードさん!」


 ルゥの声が響く。

 オレの視界は真っ暗な闇にとらわれ、気がつくと全くの知らない空間にただ一人立っていた。


「ここは……?」


 辺りを見渡す。

 何もない、地平線しか見えないだだっ広い空間。

 薄暗く、空は灰色で太陽も月も出てはいない。


「お前の精神世界だ」


 声とともに、オレが過去の記憶で見た魔王の姿が現れる。


「大昔に部下に裏切られた魔王さんのご登場、か」

「ふむ、入り込もうとした時に私の記憶でも覗き見したか? しかし何故乗っ取れない? 勇者でもなんでもないただの人間ごときが」

「あ~、勇者……。いや半分いるらしいんだよね、オレの中に」

「なに?」

「あんたを裏切ったデンドロたちの策略でさ、現代の勇者の邪悪な心がオレの中に入れられてるの」

「現代の勇者……それでか……」

「ああ、オレも今初めてデンドロに感謝してる」

「ふむ……ではどうやら、お前は私に乗っ取られるにふさわしい資格を持っているようだな」

「う~ん……いらないな~、そんな資格」

「ならば、強引に奪うまでよ!」


 音速の勢いで突っ込んでくる魔王を、咄嗟とっさに発動させた【石肌】で受ける。


「──ッゥ!」


 ボロリ、と欠けるオレの腕。

 吹っ飛ぶオレを魔王はさらに追撃する。


 ──咆哮、邪眼、石化、火炎、毒液、洗脳、魅了、死の悲鳴。


 あらるゆる状態変化やデバフ、遠隔攻撃を投げかけるも、魔王はそれを片手で跳ね除けて突進してくる。


「う~ん、やっぱり通用しないかぁ……。でも、それらは目くらまし。本命は──これッ!」


 ──死の予告。


 大司教のデーモンロード、ブラザーデンドロや魔界の上位魔物たちをほふってきたオレの必殺のスキル。


 も。


 魔王が「フン!」と力を込めると、たちまちオレの放った魔力が霧散してしまう。


「あら~、これも効かないのか……」


 さすがに魔王ってだけあって、直接的な魔法的な攻撃はあんまり効きそうにないな~。


 そう考えているオレに魔王の次の拳が迫ってくる。


 それなら、こっちはじかでカウンター入れさせてもらおうじゃん。


 ──素粒子分解、距離ゼロの威力マックス!


 ほら、これで消し飛べっ!


 魔王の拳を両腕で受けながら、最大威力のスキル【素粒子分解】を逆に叩き込む。

 オレの腕に触れた魔王の拳から一気に体が光の粒となって消え去っていくが、全身が消え去る前に魔王の体は元に戻ってしまう。


「ええ~、これもダメなのかぁ。万物を消せる力だぞ……」

「万物? ハッ、ここは精神世界だ。私達はそもそも物質として存在していない」

「あ、そういうこと……結局最後は体力と精神力的な?」

「私はお前にスキルを奪われたようだからな。こちらの方が都合がいい」

「ああ、奪ったって……」


 ──処刑百般パニッシュ・オール・カインド


「これのこと?」


 オレは魔王目掛けて、スキルを放つ。

 火刑、水攻め、断首、針山──様々な処刑法が具現化され、一斉に魔王に襲いかかる。

 が、生憎あいにくダメージは少なさそうだ。


「まるでこそ泥だな。他人から奪ったスキルを小賢こざかしく使ういやしい人間め」

「いや、オレも生き残るためにこうなっただけだからな。好きでやってるわけじゃない」


 魔王の言葉を聞いてオレは思い出していた。

 あの名も無い盗賊ギルドの長の事を。

 そして、彼のスキルを発動させる。


 ──危機管理。


「まぁ、よい。その肉体もどうせ我がものとなるのだ。しばしの間預けておこう」


 スキル【危機管理】のおかげでわかる。

 魔王が追い詰められて焦っていることが。

 長年定着していた肉体を強引に離れた魔王。

 記憶の中ではタナトアを絶望に落としてから乗り移っていた。

 おそらく、抵抗力の高い個体にはそうおいそれと乗り移れないのだろう。


 そしてオレは。


 全く絶望なんかしていない。


 おまけに邪悪サイドとはいえ、勇者の心が半分入ってる。

 そのうえ、モモの【聖闘気】やルゥの【エクストラヒール】で霧状態の魔王は弱っているときてる。


 なので、こうやって精神世界に引きずり込んで直接オレの精神にダメージを与えようとしてるってわけだな。

 

 ──事前準備、狡猾。


 元冒険者ギルド受付嬢で、今はオレの秘書ミアのスキル【事前準備】。

 そして、オレが最初に奪い、今までに最も助けられてきた【狡猾】。

 オレはこの2つのスキルを静かに発動する。


 魔王の意図は完全に把握出来た。

 ここから先は、こっちが魔王をどう料理してやるか。

 さぁ、レシピ作りの時間だ。

本日完結予定です。

次の更新は14:01頃。


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