檻の中の女魔王
どうなってるんだ?
一階から足が生えていたと思っていた城ゴーレム。
それなのに。
一階から下へと続く階段を降りていくと、そのまま地下に着いてしまった。
「もしかして……これは地下がまるごと異空間とかそういうことなのか……」
この地下には、以前にヒナギクを救出に来た時に訪れたことがあった。
その時には見張りの兵士たちが何人かいたが、おそらくはもう逃げ出したのだろう、すでに人の気配は残されてなかった。
地下をまっすぐに進んでいく。
扉の開いた宝物庫が目に入る。
遠目から見ても中が荒らされていることがわかる。
「逃げる前に兵士たちが宝を持ち逃げしたってわけか。とんだ忠臣たちだな……」
さてと。
この先が魔王のいるらしい牢獄だ。
そう意識した瞬間、強烈なプレッシャーが襲いかかってきた。
「ヒッ……!」
おそらくこのプレッシャーは魔力的なものなのだろう。
魔力値の低いモモとヒナギクの顔が青ざめている。
「大丈夫か?」
「う、うん……なんとか……が、我慢すれば……」
「ヒィ~……ムリになったら勝手に逃げるんで、お気になさらずっス」
そう言って強がる2人を暖かい光が包みこむ。
「これは……?」
「なんだか、気分が落ち着いてきたっス……」
ルゥの持つ杖。
そこから、この光は放たれていた。
「どうでしょうか、私の魔力で皆さんを包みたんですけど……これで少しは楽になりましたか?」
「ああ、少しどころじゃないな」
さすが聖女の力だ。
思い返せば今までオレが気弱になった時。
そんな時も幾度となくルゥに支えられてきたっけ。
そう思うと体の底から勇気が湧いてくる気がした。
「そういえばルゥ。その杖は?」
「あ、はい。大司教のものなんですけど、落ちてたので……もったいないから持ってきました」
「お、おう、そうなんだ……」
ルゥ……あの時は姉との再会で大変だったはずなのにちゃっかりしてるな……。
どれどれ……ちょっと【鑑定眼】で“視て”みるか……。
《大司教の聖杖》
人類の頂点の位、その一角たる大司教のみが持つことを許された杖。
持ち主が「仲間」と認識する者に対して、バフ効果を著しく高める。
なるほど。
この杖のおかげでデーモンロードの精神汚染が勇者や天使にまで及んでたってわけか。
ま、なんにしろオレ達パーティーとしては強力な装備が加わって戦力アップってわけだな。
と、そこでふと一つのキーワードに胸に引っかかった。
『オレ達パーティー』
そう。
全てはパーティーから追放されて始まったオレの復讐劇。
でも。
今はここにいるみんながオレの今のパーティーなんだな。
改めてそんな実感が押し寄せてくる。
「我が主」
「フィード」
ダイアとリサがオレに声をかける。
「ああ」
ダイア、リサ、モモ、ヒナギク、そしてルゥ。
オレはみんなの顔を見つめる。
「行こう、オレたちの最後の冒険。魔王退治に」
そう言うと、オレたちは牢獄へと足を踏み入れる。
忌まわしき王城の地下、魔王の待つ異空間の最奥部へと。
「うがああああああああ!」
奥から叫び声が聞こえてきた。
「!」
リサとダイアが真っ先に反応して駆けていく。
遅れてたどり着いたオレは、そこで繰り広げられていた情景に思わず目を背ける。
「ぐあああああああああああああ!」
叫んでいるのはキオニのカイザー。
全身が鋭利な針で貫かれており、血の赤で塗れたその体は、もう地の黄色い肌が見えなくなっているほどだ。
その傍らでは全身が焼け爛れたズィダオが転がっている。
「ルゥ!」
「はい!」
すかさず2人の回復に回るルゥ。
モモとヒナギクはそれを護るように立つ。
こんなことをする魔王は一体どんな奴だ。
オレは最奥の牢のさらに奥、鎖に繋がれているその人物に視線を向ける。
「……!? 女……っ!?」
そこにいたのは、全ての諸悪の根源とはおよそ結びつかない、一人の女性だった。
一瞬呆気にとられるも、すぐに気を取り直して魔王に向かう。
気にするな。
いつも通りオレが鑑定して、スキルを奪って型にハメるだけだ。
視ろ、視るんだ魔王をっ。
──鑑定眼っ!
名前:タナトア
種族:悪魔
職業:魔王
レベル:999
体力:99999
魔力:99999
運命値:99
スキル:処刑百般
職業特性:魔素生成
おいおいおいおい!
なんだこれっ!?
カンストしてんじゃねーか!?
驚きで一瞬固まるオレの横を、魔王に吹き飛ばされたダイアとリサが転がっていく。
いや、いかんいかん。
考えるより、まず奪え。
奪うんだ、魔王のスキルを。
考えるのはそれからでいい。
──吸収っ!!!!
オレの左目が青い炎に包まれる。
「ぐ、ぐがああああ、ぐああああああああ!」
熱い。
熱い。
熱い。
左目を通って物凄い熱と痛みが体の中に広がっていく。
「フィード!?」
「フィードくん!」
リサとモモが駆け寄ってくる。
鎖に繋がれた女魔王がニヤリと嘲笑う。
「クク……ククク……ようやくだ……ようやくこれで私は自由の身になれるぞっ!」
「檻の中で始まった物語が檻の中で終わろうとしてる……一体どうなるの……」と思っていただけた方は↓の【★★★★★】をスワイプorクリックしていただけると作者の励みになります。
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