魔王の居処
「ここは危険です! 王都の外に避難してください!」
そう叫ぶのは勇者ラベル=ヤマギシ。
「勇者様! 一体どうなっているのですか!?」
混乱した住民たちの問いかけにラベルが答える。
「国王が乱心し、魔王と結託した! しかし心配するな、この勇者ラベルが必ず魔王を討ち果たしてみせる!」
「そんな魔王が……! 勇者様! 私達をお救いください!」
「大丈夫だ、必ず助ける。そのためにも今すぐ避難を」
「はいっ!」
勇者ラベルに大天使ザリエル、毅然とした謎の美女スピークのというわかりやすい「善」の呼びかけによって、住民たちの避難は順調に進んでいく。
「うん……なんかめっちゃ正義の味方みたいなことしてるなオレ達……」
そう呟くのは、異界から来た一般兵のドミー・ボウガン。
「あはは、まぁ正義の味方だからね、実際」
「チッ、お前ばっかチヤホヤされやがって」
「し、しょうがないじゃないか、一応勇者なんだから僕は」
「はぁ……なんでオレも一緒に来たのに勇者じゃないんだろうな」
「ゆ、勇者じゃないほうがいいよ、心を半分に切り取られたり洗脳されたりしないで済むんだから!」
「まぁ……たしかに、な」
端から勇者の従者。
その実態は勇者を舎弟にしているドミー。
彼は城ゴーレムを見上げてしみじみと思う。
(いやほんと、こんな楽でオイシイ立場に立たせてくれたフィードさんに感謝だわ……)
◇◆
その城ゴーレムの足元。
「ぐあはははははは! 脆い! 脆いぞ!」
「あらぁ、こんなものですのぉ? 世界の歌姫になる私の前では、こんな石の塊なんかウエハースのようにやわやわですわぁ!」
史上最強級の力を持つ元権天使カミルと、ダイアウルフや突貫系スキルを持ったゴブリンたちを従えた山賊歌姫セイレーンのセレアナ。
彼らによって城ゴーレムの両足はいとも簡単に砕かれていく。
上からは空飛ぶ巨大要塞オメガによって押さえつけられ、下からは「暴力」を体現したかのような2人の鬼神によって砕かれ続け、そしてとうとう城ゴーレムはこらえきれずに膝崩れを起こした。
ドッスゥーーン……。
バランスを崩した城ゴーレムは、片腕をついて体を支えようとする。
「っぶなぁーいっ!」
ドガァ!
魔狼ワーグ、ダイアの背中に乗った武闘家モモが、その腕を一撃で吹き飛ばす。
「あわわ、なんかすごい威力出ちゃったんだけど……」
思いもしなかった己の力に驚愕の声を上げるモモ。
「それはきっと、フィードさんの血を飲んだからですよ」
モモの後ろに乗っているルゥがそう告げる。
「へ? どういうこと?」
「なんかフィードさんの肉体……っていうか勇者の肉体は摂取すると強くなるらしいです」
「え、そうなの? アベルくんにそんな隠された力が?」
「あ、はい。魔物限定なのかと思ってたけど、人間の方が摂取しても効果があるようですね」
「へぇ~、そりゃ魔界に攫われて育てられもするわけだよ!」
そんな世間話かのごとく世界の重要機密を軽々と話す2人にダイアは声をかける。
「お二人ともしっかりと捕まっててください! 駆けます!」
「うん!」
「あ、はい! ……ひゃあ!」
疾風騎乗狼ダイアが職業特性【縮地】を発動すると、2人と1匹の体は風を切り、ぐんぐんと城ゴーレムの体表を登っていく。
◇◆
「やぁ、モモ、ルゥ。無事だったんだね」
柔らかい声。
向かい風で目を細めていたルゥとモモが目を開くと、そこにはいつものような優しい表情でフィード・オファリングが立っていた。
「フィードさん!」
「アベルくん!」
「モモ、体に異常はないか?」
「うん、ばっちりだよ! むしろアベルくんの血を飲んでパワーアップした!」
「お、おう……そうなんだ……」
「うん!」
復讐者であり皇帝のフィード・オファリング。
モモの幼なじみのアベル。
己の本質をどちらか一方に決めつけることなく、その両方を受け入れることの出来た彼は、久しぶりの完全な「素」でモモの満面の笑顔を見つめる。
「ルゥは? お姉さんは大丈夫だったのか?」
「はい、ゴブリン国のみなさんがいらっしゃったので、姉をお願いしてから来ました」
「そうか、じゃあ全てが終わったら聞かせてもらってもらおうかな。お前とお姉さんの話を」
「はい!」
フィード・オファリング。
リサ。
ルゥ。
モモ。
ダイア。
久しぶりの少数精鋭初期メンバー感。
そんな事を感じていたフィードは、そこで思い出した。
「あれ、そういえばヒナギクは……」
「ここにいるっス!」
「わっ!」
ダイアの毛と【同化】してたヒナギクが突如姿を現した。
「いや、あの逃げたモグラを追ってゴブリン国まで行ってたから、戻ってくるのに時間かかったんスよ!」
「急に現れるなよ、びっくりするだろ。で、無事に戻ってきたってことは大丈夫だったんだな?」
「はい、モグラはグローバ姫のペットになったっス」
「あ、そうなんだ……。いや、まぁ、うん……あの姫ならやりかねんな……」
なにはともあれセレアナ以外の主要メンバーが一同に会したフィード達。
その元に、ボロボロになったアオオニのソウサーが現れた。
「ルゥ、回復を!」
「はい!」
ルゥの最上位回復魔法【エクストラヒール】の暖かい光に包まれてソウサーの傷が治まっていく。
「ソウサー、なにがあった!?」
「み、見つけました……魔王……」
「どこだ!? どこにいた!?」
「ち、地下……監獄、に……」
「監獄!?」
「はい……囚人のフリして……鎖に繋がれてました……」
囚人のフリまでして姿を隠そうとしている魔王。
一筋縄じゃいかなそうな予感を胸に、フィードたち一味は地下を目指して駆け下りる。
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