追放
「お前には今日限りでこのパーティーから抜けてもらう」
何度頭から押しやろうとしても思い出してしまう光景。
監禁されていた30日間、幾度となく思い出した人生最悪の日。
そう、オレがパーティーから追い出された日だ。
探検帰り。
街へ入る前に告げられた言葉。
「鑑定しか使えないお前を養ってやれるほどもう余裕ないんだわ、うちのパーティー」
リーダーの筋肉ムキムキ戦士マルゴットが唾を飛ばしながらオレに告げた。
「最初はアイテムや魔物の鑑定に役立ったんやけど、もう一通りわかりましたからなぁ。キヒヒヒ」
口をくちゃくちゃ鳴らしながら粘着質な話し方をするのは侍のミフネ。
「アベルちゃん、間抜けだからすぐ怪我しちゃうじゃなぁい? それ回復する魔力がぶっちゃけ無・駄・なんだよねぇ~」
そう告げるのは王国一番の美少女と評判高く、王国で一番性格が腐りきってると悪評も高い聖女見習いの回復師、ソラノ。
「ばぁ~か、ばぁ~か、あ~ほ、ばぁ~か、足手まとい」
術符マニアの魔術師ジュニオールの頭の上に乗っかった召喚精霊がオレをなじる。
「そもそもこの雑魚はなんで冒険者なんかになったんだ? 消えてくれたらオレの取り分も増えて助かるんだが」
守銭奴エルフのエレク。狩人のくせにとにかくセコくていつもイライラしてる奴。
そして……。
「え、ちょっと待って!? みんな急に何言ってるの!?」
子供の頃からイジメられていたオレをかばってくれていた幼なじみの女の子、モモ。
──アベルは私がずっと守るね。
そう言ってくれてた彼女とは当たり前のように一緒に冒険者になって当たり前のように一緒のパーティーに入った。
でも元々才能のあったモモとオレの差はどんどん開いていって……。
「た、確かにオレは要領悪いけど……それなりに一生懸命頑張ってきて……!」
「が~んばって! ブヒャヒャヒャヒャ! おいおい頑張ってたら周りにいくら迷惑かけてもいいらしいぞ!」
マルゴットの馬鹿笑いにオレの言葉は掻き消される。
「で、でも魔物の魔力とかアイテムの効果とか……」
「キヒヒヒ! 魔物の【種族】と【魔力】とアイテムの【効果】しかわからない欠陥スキルが最後に役に立ったのはいつやったかなぁ!?」
オレの存在を全否定するミフネ。
「そんな……今まで一緒に冒険してきたのに……」
「あれぇ? その一緒の間みんながずぅ~っとウザがってたの……もしかして気づいてなかったのぉ? うわぁ、弱っちーうえに空気も読めないんだぁ~? ねぇ、アベルくん何のために存在してるの? ねぇねぇ、どんだけ私達に迷惑かけたら気が済むの? ねぇねぇねぇ、アベルくん──なんで生きてるのぉ?」
性悪回復師ソラノの言葉にオレはもう黙るしかなかった。
「最初はみんな同じ程度の駆け出し冒険者だったけど、まっさか1人だけここまで成長しないとはな~。マジでお前がいなかったらこれまでにどんだけ装備を整えられたと思ってんだよカス」
守銭奴狩人エレクの言葉にさらに心が削られる。
ほんとに……なんでオレだけこんなに成長しなかったんだろうな……。
「空気も読めないお前がいつ自分から脱退するって言い出すかみんな待ってたんだよカ~スカ~ス!」
ジュニオール、召喚精霊に言わせてるけどそれがお前の言いたいことなんだよな……。
「で、でもアベルくんは魔力すっごい高いんだよ! きっとこれから強力なスキルを覚えて……」
「いつかっていつよ!?」
オレをかばうモモの言葉をマルゴットが遮る。
「あ? いつかって5年後!? 10年後!? それとも100年後か!? あぁ!?」
「そ、それは……」
もういい……。
もういいよ、やめてくれモモ……。
それ以上オレに恥をかかせないでくれ……。
「そもそもぉ~、アベルくんってモモちゃんがいなかったらとっくにお払い箱だったんだよね~! モモちゃんが超レアな【聖闘気】使えるから一緒にいさせてあげただけなのにぃ~、まっさかこんなに居座られるとは思わなかったなぁ~。空気を読めなさすぎるにもほどがあるよぉ~、きゃははははっ!」
ソラノの言葉がオレにとどめを刺す。
オレは震えながら声を絞り出した。
「もういい……もういいよ、わかった……」
光を失った目で卑屈な顔をしながらオレは告げる。
「パーティーを、抜ける……。今まで迷惑かけてすまなかった……」
「そんな……アベル……!」
モモの腕をつかんでマルゴットが引きずっていく。
「よ~し、じゃあお前しばらくそこに立っとけ! 一緒に町なんか入りたくね~からな! もう二度とオレたちに近づくなよ!」
「キヒ、キヒヒ……! これでやっと我らがパーティーも完全体に……!」
「おう、さっさと消えろカス」
「カ~ス、カ~ス」
「じゃあね~バイバ~イ、二度と私達の前に姿を見せないでね~。あ、私達のパーティーに居たことも言っちゃダメだよぉ。だって私達のパーティーにアベルくんが居たこと自体が黒歴史なんだからぁ。じゃあ早く消えてね、この世から! きゃははははっ!」
好き放題言って去っていく「元」パーティーメンバー達。
はは……町にも一緒に入りたくないらしいよ……。
そんなに嫌われてたんだなオレ……。
言われなくても立ち上がる気力すら湧かねー……。
ガックシとうなだれて街道に座り込むオレ。
「……ッ!?」
直後、視界が真っ暗になった。
「ぶふっ……ぐっ……!」
頭に袋を被せられてる……!?
「恨むなら王国を恨むんだな」
袋越しに声が聞こえてくる。
なんで王国の名前がこの場で出てくるんだよ……。
「お前は売られたんだよ」
売ら……れた……?
──睡眠。
突如襲ってくる猛烈な眠気。
急速に薄れていく意識の中でオレはやっと悟った。
(オレを、売り……やがっ……たの、か……あいつら……)
そして目を覚ましたらオレはあの教室にいた。
そこで30日を過ごしてオレは誓ったんだ、生まれ変わると──。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
両脇に女の子を抱えて空を飛びながら、オレはそんなことを思い出していた。
「フィードー! 一回どこかに降りない!?」
オレの右脇に抱えてる金髪の元吸血鬼リサがそう提案する。
「そうですね、ここまで来たら追っ手もすぐには来ないでしょうし」
左脇に抱えてる緑髪の元ゴーゴンが同意する。
「わかった」
そっけなく返事をする。
貧弱だった昔の自分。
両手に美少女を抱えて空を飛んでる今の自分。
あの日から30日。
たった30日であまりにも色々と変わりすぎた。
パーティーリーダーのマルゴット。
それに侍ミフネ、狩人エレク、魔術師ジュニオール、回復師ソラノ。
それからその裏にいるらしい王国。
そいつらに復讐することだけが今のオレの生き甲斐だ。
そのために。
絶対にこの魔界から脱出してやる。
だがその時、オレたちはまだ知らなかった。
魔界から抜け出すのがどれだけ大変なことなのかということを。
次話【アルラウネ】
7月21日(明日)18:30頃更新予定
『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!
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