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ブラフ

今回少しボリューム多いですが、パレード関連の戦闘全部一気に終わります。

 入り乱れていた戦況も落ち着き、自然とオレたちはそれぞれ目の前にいる敵と各自相対あいたいしていた。


 宙に浮かび大司教を睨みつけているオレ。

 担ぐ者が誰もいなくなってしまった神輿の上で無表情に周りを見渡す大司教ブラザーデンドロ。


 強張こわばった表情で固まっているルゥ。

 どうやらルゥの姉であるらしいメデューサのディアナ。


 敵の舌に巻き付かれているモモ。

 モモを舌で巻き付けている蛙悪魔マルフォ。


 尻尾を逆立て、背を丸めて敵を威嚇しているフェンリル&ダイア。

 モモに食らった打撃からようやく立ち上がった山羊悪魔バフォメット。


「ふむ、始末したと思っていた勇者の片割れ……。魔物を引き連れて逆恨みの凶行きょうこうに出るか」


 そう呟いた大司教は、体中に這っている触手を気味悪くうごめかかせる。


「ハッ。この状況でまだ上から目線で見下すとは随分と余裕なことで。ちなみに、こっちは勇者の片割れの自覚なんて全然ないうえに……逆恨みなんかじゃなく──」


 オレは【剛力】【擬態】のスキルを発動して『槍』へと姿を変える。


「順恨みだぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 スキル【高速飛行】を発動。

 軌道を読ませないようにジグザクに飛行する。


 デーモンロード。

 最上位種悪魔。

 オレとほぼ互角のステータス。

 そのうえお互いに状態異常は効きにくい。

 となれば。

 オレが事前に用意してたいくつかの策の中でも最もシンプルな作戦。

 原初の交渉術。


 肉弾戦でいく。


「ふん、小賢しい」


 槍の姿となって飛び回るオレにカウンターを食らわせるべく腕を振るデーモンロード。


 ──軌道予測っ!


 ブゥンっ──。


 たくさんの触手の絡まった気持ち悪い腕の軌道を予測。

 どうにかスレスレでそれをかいくぐる。


「……!」


 かわされたデーモンロードは、クロスカウンターがくることを察して咄嗟にガードを固めようとする。


「ここだっ!」


 そこでオレが選んだ行動は。

 スキル【透明】の発動。


「……!?」


 オレはそのまま一気に上空に離脱すると、デーモンロードの完全な意識の外──つまりは死角の位置をしっかりと確保する。


(よし、あのまま攻撃しても軽症しか与えられなかっただろうからな……。ここから一撃必殺、デーモンロードに突き刺さって内部から【素粒子分解】で破壊する。そうすればいくら最上位悪魔でも復活は難しいはずだ)


 オレがこれまでに殺してきた人間達、魔物たち。

 その殺生せっしょうの経験からわかる。

 これは完全に勝ちパターンに入った。

 さっさとデンドロを殺して、他のみんなを助けに行こう。


 ヒュッ──。


 オレは感情もなく淡々とデンドロを目掛けて空高くから落下する。

 このまま、ただタスクをこなすだけだ。

 いつものように始末するだけ。

 そう、いつもの復讐。

 いつもの、作業。


 ぐんぐんとデンドロとの距離が縮まっていく。


「今だ!」


 オレが叫ぶと、ゴブリンたちが火薬玉を一斉にデンドロに向かって投げつける。


「カァ──ッ!」


 デンドロのひと薙ぎ。


 ドカカカカカカカカーン!


 その衝撃によって炸裂した火薬玉は、次々と連鎖して爆発を引き起こしていく。

 デンドロの周囲は煙に包まれてオレを完全に見失っている。


(これはもうキマったな)


 全身の力を槍の先端に集中!

 スピードとパワーをかけ合わせ、デンドロ目がけ渾身の一撃を。

 ──穿うがつ!!!


 と。

 その瞬間とき


聖言せいごん……。“止まれ”」


 デンドロの職業特性【聖言】が発動した。


「……!!」


 もうデンドロに突き刺さる直前というところでオレの落下は止まる。


 ──聖言。

 信心のある者に対して一時的な強制力を発揮する大司教の言葉。


 オレは一瞬の硬直の後、再び動けるようになったことを確認すると、素早くその場を離れる。


「う~ん……オレには信仰心なんてないと思ってたから、この【聖言】は気に止めてなかったんだが……どうやらほんの少しだけあったみたいだな、信仰心」


 オレは槍からアベルの姿へと戻ると、次の仕掛けへ向けて準備を進める。

 そんなオレに触手うねうねのデカ角どくろなデーモンロードが声をかけてくる。


「お前……というよりも、それはラベルの信仰心だな。果たしてお前はアベルなのか? それともラベルなのか? はたまたフィードなのか? 本当のお前は、どれだ?」


 はいはい、舌戦ぜっせんね。

 そういう「相手のアイデンティティーを揺さぶってやろう」なんてのは、オレにはノーダメージなんだわ。

 なぜなら、ルゥやリサ、モモやセレアナにヒナギク、ミア達が常にオレを肯定しまくってくれてるから。


「悪いな、お前とダラダラと話すつもりはない。なぜならこの後一発でキメさせてもらうから。うん、この距離で十分。【素粒子分解】。っていうかさぁ、なんでオレをわざわざ魔物に食わせようとしたの? 普通に殺しとけばよかったんじゃない?」


 しれっと会話の中に必殺のスキルを紛れ込ませる。


 ──素粒子分解。

 物体を細かく細かく砕いていくスキル。

 消滅しているわけではないので、高位の回復魔法であれば治癒は可能。


 その【素粒子分解】の不意打ちをモロに食らったデンドロ。

 

「あ、おお……これは……?」


 ゆっくりと光と化して崩れ落ちていく指先を見つめながら、デンドロは落ち着き払った様子でこう返してくる。


「聖言。“止まれ”。お前を魔物に食わせる理由、それはお前を食べればレベルが大幅に上がるからだ」


 聖言による一瞬の硬直を食らい、スキル【素粒子分解】が中断される。


「へぇ、そうなんだ。【素粒子分解】。だからわざわざオレを魔界へ?」


 再び会話の中にスキルを折り込んで話す。

 徐々に消え去っていくデンドロの指先。


「聖言。“止まれ”。そうだ。勇者の肉体は昔から魔界のエリートの子どもたちが食べるものと相場が決まってる」


 聖言による一瞬の硬直を食らい、スキル【素粒子分解】が中断される。


「そんな相場が、【素粒子分解】、あるんだ?」


 三度みたび会話の中にスキルを折り込んで話す。

 さらに消え去っていくデンドロの指先。


「聖言。“止まれ”。ああ、そして勇者を食ってレベルの上がった魔物たちは国家の中枢につく。次の勇者が現れるまでな」


 聖言による一瞬の硬直を食らい、スキル【素粒子分解】が中断される。


「ってことは勇者ってのは、【素粒子分解】、代々魔界のエリートさんたちの餌なのか」


 四度よたび会話の中にスキルを折り込んで話す。

 かなり消え去っていくデンドロの指先。


「聖言。“止まれ”。その通りだっ……がっ! オイ!!! たかだか餌のくせしてオレの指をちまちまちまちま消しやがって! このコバエ風情が!!!!」 


 聖言による一瞬の硬直を食らい、スキル【素粒子分解】が中断される。


「おいおい、コバエとは言ってくれ……」

「あ~、もうやかましい! 黙れ黙れ黙れ! 聖言ッ!!! “今すぐ自分の心臓を消し去って死ね!!!!!”」


 オレを苛つかせるために仕掛けてきた舌戦で、逆に激高げっこうさせられたデンドロが叫ぶ。


「あー、はいはい。そういう使い方ね。うん、わりといいんじゃない?」


 オレの意思とは関係なく、右腕が勝手に心臓に向かって伸びていく。


「でも……使うのがちょっと遅かったみたいだけど」


 次の瞬間。


「ぐ……は……!」


 倒れ込んだのはオレではなくデーモンロードの方だった。


「な……ぜ……」


 信じられない、といった様子で大司教ブラザーデンドロは大量の吐血と共に低級悪魔たちと同様地面に伏している。


「フィード様! やった! やったぜ、俺たちのフィード様!」


 オレの【魅了】に当てられた低級悪魔が、デンドロの横でオレに声援を送る。


「だ、まれ……!」


 ぐしゃっ。


 運悪くデンドロの手の届く範囲にいた低級悪魔は、頭を粉々に握りつぶされてしまう。


「言っただろう? 『一発でキメさせてもらう』って」

「き、きさま……何をした……?」

「ん~、スキル【死の予告】。これはやっぱ誰にでも効くな~。そっちが時間稼ぎのおしゃべりを仕掛けてくれたおかげで楽に終わった」


 オレが槍から姿を戻した時にかけておいた【死の予告】。

 あとはデンドロとダラダラお話して、カウントダウンが終わるのを待つのみだった。

 このクラスの相手に効くかどうか不安だったんだが、どうやら無事効いてくれたようだ。


「そ、そんな、もの……で私……が……」


 地面に這いつくばったまま悔しそうに嘆くデンドロ。


「あとこれも効いてたな、オレの初めて奪ったスキル【狡猾】。このおかげで駆け引きや時間稼ぎも上手くいった」

「お前がダラダラ話す気がないと言ったのは……」

「嘘に決まってんじゃん。ウソウソ。こっちが急いでる感じ出せば、そっちは引き伸ばしにくるでしょ? まんまと引っかかっちゃったね、大・司・教・さんっ」

「…………!」


 言葉にならないといった様子で憤怒の表情を見せるデンドロ。


「ま、最強クラスの悪魔よりも、小狡こずるく芸達者な鑑定士のオレの方が強かったってことで。じゃあもうそろそろ限界かな? さすが最上位の悪魔。普通ならもうとっくに死んでるだろうに粘ったね~」

「くっ…………」


 最後に何も言い残せず大司教ブラザーデンドロは絶命した。

 オレは、相手が「最上位悪魔」ってことでなんかの拍子に復活されてもイヤなので、しっかりと【素粒子分解】と【火炎】で跡形もなく消し去りながら他の仲間の様子をうかがう。


 一番派手にやりあっている──いや、一方的に削り取っているのは山羊悪魔バフォメットと相対あいたいするフェンリル&ダイア。

 闇の精霊フェンリルが山羊悪魔の影を削れば、すかさず魔狼まろうのダイアがバフォメットの生身を削り取っていく。


「ぬぅぅぅぅ! 何故だ! 何故中級精霊やワーグごときに私がこうもやられる!? 私は最上位悪魔デーモンロード様の使徒だぞ!」


 強靭な肉体をしているバフォメットだが、影を削り取ってダメージを与えるフェンリルや、疾風騎乗狼の職業特性【縮地】やスキル【疾風迅雷】を使いこなすダイアの前に、為す術もなく力尽きようとしていた。


「ハッ、最上位悪魔だと?」


 バフォメットの言葉をフェンリルが鼻で笑う。


「我を召喚したのは」


 フェンリルに重ねるようにダイアも続ける。


「我に名を付けてくださったのは」


 2匹が声を揃える。


『最上位生物フィード様だっ!』


 え……。

 最上位生物だったの、オレって……?


 フェンリルとダイアが同時に駆ける。


 ──影魂破魂爪シークバイパー

 ──疾風迅雷しっぷうじんらい


 2匹の狼の必殺の一撃が山羊悪魔バフォメットを切り裂き、その体は跡形もなく消え去っていく。


「そん……な……最上位……生物、だと……? そんな……そんなものが……」


 うん、オレも全く同じ感想だよ、山羊悪魔。

 最上位生物ってなにそれって感じ。

 まぁ、納得はいかないだろうけど成仏してくれ。

 多分めっちゃ強かったであろうはずのお前のスキルはオレが貰っておくから。


 ちゃっかりとオレはバフォメットの【スキル効果増幅】を【吸収】させてもらう。


「ハッ! ハッ! ハッ!」


 ふと横を見ると、こっちを向いて尻尾をぶんぶん振っている2匹の狼がドヤ顔で「オンッ!」と鳴いた。

 オレは2人の元へ飛んでいって「よしよし、よくやった」とゴシゴシ撫でてあげると、2匹は嬉しそうに「クンクゥーン」と言いながら頭を擦り付けてきた。


 えっと……フェンリルくん……?

 キミ、もっと誇り高そうな感じだったよね、たしか……?


 なんだろう……戦いが彼を変えたのだろうか……。

 それとも興奮して犬的本能が出てしまってるのだろうか……。

 そんなことを思いながら、他の戦況を確認すべくあたりを見回す。


(たしかモモは苦戦してそうだったが……)


 そう思って蛙悪魔のいた辺りを見ると、案の定モモは苦戦して……。


 なかった。


 苦戦して、ない。


 逆に、なんかボコボコに蛙悪魔を殴り倒してる。

 

 え、なんで……?

 あの蛙悪魔って【打撃無効】じゃなかったっけ?


 と思ってよく見ると、モモの拳に光の精霊カーバンクルが巻き付けられてる。


 あ……いや、たしかにモモの護衛にカーバンクルを付けてたけど……。

 え? ああいう使い方……?


「オイオイオイ~! お嬢ちゃん、人使いっていうか精霊使い荒すぎるぜぇ~!」


 元パーティーメンバー魔術師ジュニオールの代弁役をいつも務めていた光の精霊カーバンクル。

 かなり口の悪かった彼が、今ではモモのメリケンサック代わりとなって蛙悪魔をしばき倒している。


「カーちゃんごめんね~! でもこれだと魔力に直接ダメージ与えられるっぽいから、ちょっと我慢してて!」

「我慢って! これオレにもダメージ入ってるって! いて! いててて!」


 あ……あのカーバンクルってモモに『カーちゃん』って呼ばれてるんだ……。


 そんな場にそぐわないほんわかとした感想を抱いていると、モモのカーバンクルナックルが蛙悪魔の皮膚を貫いて突き刺さった。


「あ、これだとイケるかも!」


 陽気にそう言ったモモは、そのまま体内の氣を練って【聖闘気】を拳に集中させる。

 だが、【聖闘気】は聖なる力だ。

 事情があって今はアンデッドの肉体で存在してるモモの体は、その聖なる力の影響を受けてボロボロと崩れ去っていく。


「モモ!」


 オレが叫んだその時。


「ハァ──ッ!」

「う、うわあああああああああ!」


 モモの拳が激しい光に包まれ、蛙悪魔の体が消え去っていく。


「モモ!!」


 アンデッドのモモがあんなに激しい【聖闘気】を浴びてしまったら──。


 オレは全速力でモモの元に駆けつける。


 ハシっ。


 力が尽きて倒れ込むモモを抱きしめる。


「モモ! 大丈夫か!」

「あ……アベル……じゃなくてフィードくん、か……」

「アベルでいい!」

「え、えへへ……アベル、くん……。私、ちょっと……頑張りすぎちゃったかも……」

「喋るな! 今すぐ人間に戻るんだ! ほら、オレの血を吸え!」


 オレの眷属となったアンデッドは、逆にオレの血を吸うことによって元の命ある生物に戻ることが出来る。


「うん……吸いたいけど、もうその元気もないみたい……。ごめんね、心配かけちゃって……私、アベルくんのこと……ずっと……す……」


 ジュバッ!


 オレは自分の腕を斬ると、モモの口に血を注ぎ込む。


「んっ……」


 ボロボロと崩れていたモモの肌が、次第に血色のよい人間のものへと変わっていく。


「すぅ……」


 モモはそのまま意識を失うと、俺の腕の中で静かに胸を上下させている。


(ホッ……。どうにか一命はとりとめたようだな……)


 唯一の幼なじみのひとまずの無事にオレは胸を撫で下ろす。

 それから眠っているモモをダイアに任せると、オレはこの場での最後の戦い──ルゥとメデューサの確認に向かった。

 もうっすっかり瓦礫がれきと化してしまった神輿を飛び越えると、オレの目に入ってきたのはメデューサと抱き合って涙を流すルゥの姿だった。


「フィードさん……お願いです。彼女の……姉のスキルを奪ってあげてください」


 この2人の間には──今はオレが下手に入り込むべきではないな……。


「わかった」


 一言そう言うと、オレはメデューサーのスキル【邪眼】を【吸収】した。

 すると、メデューサはゴーゴンだったルゥがそうだったように人間の姿へと変わっていく。

 ルゥと似た緑髪の女性。

 2人の姉妹がお互いの存在を確認し合うかのように少しずつ、慈愛を込めた様子で抱きしめ合う。


 オレはフェンリル、ダイア、ダイアウルフ、ゴブリン、そしてオレの魅了に当てられた低級悪魔達に、この場の始末を頼むと、大司教が倒れたことによって白銀騎士と薔薇騎士の洗脳効果がはたして消えたのかを確かめるべく、王城へと向かった。


 そういえば──ゴブリン国へと向かったモグラ悪魔のことも気がかりだ。

 遊撃部隊のヒナギクもどうしてるだろうか……。


 ◆◇◆◇


 その頃、ゴブリン国へと続く地下道。

 そこを突っ走っていくモグラ悪魔のグララ。


「ひぇ~~~! めっちゃめめめっちゃちゃ揺れるっスよぉぉぉ~~~!」


 モグラ悪魔の体毛に同化したヒナギクは、グララと一緒に地下道の中をぐらんぐらん揺れながら突き進んでいた。

「ヒナギクとモグラとゴブリン国の話気になる」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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