落とし穴作戦
パレードの襲撃ポイントは予め決まっていた。
一番の盛り上がりとなる城門前の大通り。
そこを通過した時に、真下まで掘り進めた穴に落とす。
題して「落とし穴作戦」だ。
巻き込まれてしまった一般人は救出してルゥが回復させ、その間に大司教はオレが殺す。
半ば行き当たりばったり的な作戦ではあるが、ダイナミックで意表をついた、オレたちにしかなし得られない一手。
この一見バカバカしいながらも、誰も予想だにしないであろう作戦を考えたのは、我が国の執政集団テンペスト。
岩や蜂やゴリラといった個性の強すぎる者たちが考えた個性の強すぎる作戦。
そして、その馬鹿げた作戦を実行可能としたのは大量のユニークスキル持ちのゴブリン達。
全ての破天荒な要素がかみ合って、この嘘のような「落とし穴作戦」は見事に後はデンドロを落とすのみというところまで漕ぎつけていた。
「いいか? 周りの護衛や信徒達が敵なのか、それとも一般人なのか。全部オレが【鑑定眼】で“視て”から指示を出すからな。それまでは誰にも手を出すなよ」
「はい、皇帝陛下!」
オレの最後の確認に穴掘りゴブリン達は鼻息荒く答える。
辺りは楽隊の演奏するラッパや銅鑼の音に包まれ、多少の大声などすでにかき消されてしまうような高揚感が漂っていた。
その雰囲気に当てられてか、ゴブリンたちも軽い興奮状態に陥ってるようだった。
(フィードくん、デンドロそっちに向かってるよ。今、最後の曲がり角を曲って大通りに入るところ)
(わかった。では今から地表をぶち抜く。なにか異常があったら教えてくれ)
(わかったよ! あ、フィードくん……)
(なんだ?)
(無事で、ね?)
(ああ、モモのこともアンデッドから戻してやらなきゃいけないからな。こんなとこでは死ねないよ)
(……うん、そうだね……。それじゃ……また、後でね!)
(ああ、また後で)
モモとの通信を終えたオレは、高鳴る鼓動を抑えながら静かに長く、息を吐いた。
「よし」
暗闇の中に、たしかにみんなの存在を感じる。
「それじゃあ、みんな……」
楽隊の演奏が近づいてくる。
「ぶち破れぇーーーーーーーーーーーーっ!」
『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』
ゴブリン達は今まで地中にじっと潜んできた鬱憤を晴らすかのような怒声のような雄叫びを上げると、一気呵成に頭上の土を掘りまくる。
「よっしゃ! いけいけいけ! 掘って掘って掘りまくれ!」
ザクザクザクザクザクザクザクザクザク。
【穴掘り】【突貫工事】【ツルハシ○】【肉体労働】【ぶち破り】【団体行動】【工事】【力持ち】【採掘】。
様々な固有スキルを持ったゴブリンが一斉に地上目指して穴を掘り続ける。
土が、石ころが、顔にかかり、口に入るが、誰もそんなことは気に留めず、ただひたすら一心不乱に掘り進む。
まるで地獄から抜け出そうと足掻く餓鬼みたいなだな、オレ達。
そんなことを思った瞬間、異変は起こった。
「あ……がっ……大、司教……デンドロ……様……バン、ザイ……」
地中を掘り進むゴブリン達の動きが止まる。
「フィードさん、これって……!」
「ああ、デンドロの【精神汚染】だ。まさか地中にまで効果があるとは……」
「でも、こんなに強力なのって……」
「ああ、もしかしたらこの楽隊の演奏自体が洗脳効果を高めてるのかもしれん。もしくは、そういう増幅効果スキル持ちがいるとか。オレやルゥは抵抗力が高いからか効き目が薄いみたいだけどな」
「そんな……」
「なぁに、ルゥ。お前がさっき言っただろ?」
「え?」
オレはルゥに向かってニカリと笑いかける。
「大丈夫──だって」
ルゥがくれた勇気を力に変えて、オレは結んだ拳を突き上げる。
「そっちが【精神汚染】なら、オレは【魅了】だぁぁぁぁ!」
──範囲魅了!
魔界でフィード皇国が出来るキッカケとなったオレの改変スキル【範囲魅了】。
その事を知って以来、封印していたそれをオレはここで解き放つ。
「お、おお……デ、デンドロ……さ……? いや、フィード……フィード様! 我らが皇帝! 皇帝陛下! フィード皇帝! フィード皇帝の為にこの身を捧げるのだぁぁぁぁぁぁァ!」
オレの【魅了】で【精神汚染】を上書きしたゴブリン達が、熱狂的にオレの名前を叫びながら地上に向かって猛烈に穴を掘り始める。
「よっしゃ、みんないけいけいけ~! この国の悪を倒すにはお前たちの力が必要なんだ! 掘れ掘れ掘れ掘れーーーーぇ!」
「うおおおおおお! フィード皇帝陛下! フィード皇帝陛下!!!」
けたたましい楽隊の音楽が地表を通り過ぎていく。
(モモ! デンドロは今どのあたりだ!?)
(うん、今襲撃予定ポイントを通り過ぎるところ)
(そうか、わかった!)
デンドロの【精神汚染】によって時間をロスしてしまった。
オレはルゥの手を握る。
「ルゥ! オレを使って掘ってくれ!」
そう言うと、オレは自身にスキル【剛力】をかけて、【擬態】でシャベルへと変化する。
「え、は……はいっ!」
レベルの高いオレが擬態した剛力付きシャベル。
それをレベルの高いルゥが使う。
予想通り、オレとルゥはケーキでも掬うかのようにサクサクと土を削り取っていく。
「うおおおおおおお!」
「フィード様! フィード様!」
オレの叫びと、唱和と化したゴブリン達の大声が地中にこだまする。
「あ、フィードさん! 光が見えました! 地上です!」
闇に包まれていた地中に一筋の光が差し込んできた。
「よし、ルゥ! オレを投げろ!」
「はい!」
ルゥはそう返事をすると、シャベルことオレを思いっきり上に向かって投擲した。
ドッガァーン!
地面を突き破って上空に現れたシャベルに人々の視線が集まる。
オレは咄嗟に周囲を確認する。
大司教のパレード隊は落とし穴部分を通り過ぎたばかりだ。
今空いた穴に落ちた人間は誰もいない。
そして。
──連続使用、鑑定眼んんんんッ!
パレードの参加者を空中から一気に鑑定する。
こ、これは……!
「フェンリル!」
オレは闇の精霊フェンリルを召喚すると、続けざまに叫ぶ。
「ダイア! ダイアウルフ! 出てこい!」
宙に召喚されたフェンリルの影から、魔狼ワーグのダイアと63匹のダイアウルフ達が出てくる。
「我が主!」
オレは元のアベルの姿に戻ると、忠実な狼たちに命令する。
「パレードの参加者は全員魔物だ! ひっ捕らえろ!!」
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