復讐の記録6:狩人エレク
「うあ……? なんだ……これは……?」
机に突っ伏しているのはデイル。
デイルとはエルフ国の第1皇子。
今は人間界で「エレク」と名乗って冒険者をしつつ、その裏で権力者や魔物とのコネクションを広げている男だ。
その男が、オレの目の前でみっともなく酔いつぶれている。
「ふん、惨めな姿だなエレク。いや、デイルよ」
「な、おま、おまえは……」
──吸収。
オレの左目が青く燃え、エルクのスキル【素粒子分解】の簒奪に成功する。
「ハッ、こんなものか。警戒してたわりにはあっけなかったな。銭ゲバ狩人エルフ改め、エルフ国第1皇子様よ」
「おま……なぜそれを……」
「あーあ。もう呂律すら回ってない、スキルも奪われちゃった、護衛も洗脳されてる、差し向けた刺客も取り込まれた。ほんと哀れなもんだよなぁ? あ~んなに見下してたオレに、こんなにいいようにあしらわれちゃって」
「な、な、おまえ、おまえー!」
時を戻そう。
驕り高ぶっていたデイルを型に嵌めるのは赤子の手をひねるより簡単だった。
洗脳済みだったデイルの護衛2人に「とびきりの秘酒」として魔界の酒を持たせたところ、なんのひねりもなくあっさりと酔っ払って潰れてしまったのだ。
ただ、奴のスキルだけは謎が多かったので、空気と同化させたヒナギクにしっかり中の様子をチェックさせてから部屋に踏み込んだってわけ。
そして今に至る。
「だれか、だれかあ~!」
大声を上げるデイル。
「助けを呼んでるのか? 惨めなもんだな」
パチン。
オレが指を鳴らすと風の精霊シルフが姿を現した。
「エルフならわかるよな? 馴染み深い風の精霊だもんなぁ。この部屋の音は外部からすでに遮断されている」
「ぐ、あ……」
「おっと大丈夫か? 吐きそうか? それなら介抱させよう、お前の護衛にな」
バタン!
ドアが開いてデイルお抱えの護衛が2人、部屋に入ってくる。
「お前ら! 今までどこで何をしてた! 早くオレを助け……ろ?」
ガシッ。
護衛は左右からデイルの両腕を押さえつける。
「お、お前らっ! な、なにを……!」
「いやいや、だからさっき言ったろ? お前の護衛はとっくに洗脳済みだって」
「な……! そんな……いつから……」
「いつから? そうだな~、お前がソラノを送り込んできた時からかな」
「くそっ……あの馬鹿女ほんとに使えねぇ……」
「ほう、そんなに使えないか?」
「ああ、使えねーな! 全然大した力もないくせに自分のことを本気で聖女見習いだと信じ込んでる馬鹿! そのくせオレがエルフ国の皇子だと知るや、床を舐めてまで取り入ってくるようなプライドのなさ! 全てが反吐が出そうだったぜ! 本物のクズってのはあいつのことだよ! どんだけオレがボコボコに蹴り飛ばしても引き攣った薄ら笑いを浮かべて媚びてくる様は、もう滑稽通り越してホラーだったぜ、気味が悪い!」
ドンッ!
ドアが蹴り飛ばされ、ソラノが部屋に入ってくる。
「だ、そうだが?」
オレの問いかけを無視してソラノはツカツカとデイルに向かっていく。
パチンッ。
乾いた音が部屋に響く。
ソラノの平手打ちによって頬を赤く染めたデイルは、一瞬呆けた後に怒りを顕にする。
「てめえ! 今、誰に手を上げたかわかってんのかこの雌豚ァ!」
パチンッ!
「てめ……」
バチンッ! バチンッ! バチンッ! バチンッ! バチンッ!
「ハァ……ハァッ……!」
激しく息を吐きながら、ソラノは涙を流していた。
「おまっ、なに泣いて……」
「泣いてないわよっ!」
「いや、泣いてるじゃねーか」
「泣いてないっ! 私はあなたなんかの為に流す涙なんか一滴たりとも持ってない! だから私は今泣いてなんかないんだから! これは……雨! 外が土砂降りだったから濡れただけ!」
「な……なに言ってんだこいつ……」
ああ……オレも人間としての底を味わったから、なんとなくわかる気がする。
極限までプライドが傷つけられた時。
その時に、その人の本質が見える気がするんだ。
拗ねるか、怒るか、抗うか、現実逃避するか、耐えるか。
オレは……ただただ怯えてたな。
そして偶然【吸収眼】を手に入れたから、怒りの感情を手にすることが出来ただけだ。
それに比べて。
ソラノは──シンプルに怒れるんだな、こういう時に。
「くっ──!」
デイルが右手をソラノに向ける。
「──!?」
動揺している様子のデイル。
「どうした? なにを驚いている? ん? もしかして【素粒子分解】が発動しなかったからか?」
「お前、なぜオレのスキルを──!?」
「ああ、“視える”ようになったからなぁ。お前がオレを魔界に売り飛ばしてくれたおかげで。上位魔物いっぱい倒してレベルアップ出来たから。おまけに」
オレは傍にあったベッドに右手を伸ばす。
──素粒子分解。
ベッドが光の粒となって消え去っていく。
「──!」
「奪えるようにもなった。どうだ? お前が売り飛ばした雑魚底辺鑑定士にスキルを奪われた気持ちは?」
「……のか?」
「ん? なに?」
「こんなことをしてエルフ国が黙ってると思うのかぁ!!」
鬼のような形相で叫ぶデイル。
「さ~あ、どうだろうね。そっちはそっちで別の人に任せてるから」
パンパン。
オレは手を叩く。
「デイル。お前には今から二度死んでもらうぞ」
ドアを開いて第4皇子のベリタが入ってきた。
「お前──! なぜここに──!?」
ベリタは「ハァ」と小さくため息を漏らすと深く、そして鋭く呟く。
「我が兄……あなたは選択を間違えました」
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