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さるかに合戦かよ

 ゴブリン国の大空洞だいくうどう

 たった二晩しか離れていなかったのに、もはや懐かしさすら覚えるそこに、オレはベリタ皇子とドミー・ボウガンという2人の男を連れて帰ってきた。


「おー! ここがゴブリン達の巣か! ゴブリンのくせにいいところに住んでるじゃないか! いや、ここの鉱物はすごいぞ! ドワーフ共を連れてきたら凄い武具を作りそうだ!」


 微妙にゴブリンとドワーフへの蔑視べっしのこもった独り言を大声で叫ぶベリタ。


「はぁ~、こんなとこがあるんスねぇ~……」


 キラキラと光が鉱物に反射する美しさに心を奪われているのはドミー。


「それにしても……ほんとにここまでついてきてよかったのかお前たちは?」

「いいに決まってるだろ! 悪臭漂うゴブリンの王国! そこに果敢に降り立つエルフの皇子! こんな絵になる状況はないぞ! 後の世に伝える英雄譚に必須の場面じゃないか!」

「はぁ。でも、ここが今のフィード皇国の中枢なんスよね? こないと出世出来ないじゃないっスか……」


 ぶっ飛んだオレ様皇子と、出世に燃える一般人転生者。

 それぞれがそれぞれな返事をする中、オレを目掛けて大きな塊が飛びかかってきた。


「我があるじ! 無事だったのですね!!」


 ハッハッ! と息を荒くしながらそう言うのは魔狼ワーグのダイア。


「ダイア、2日ぶりだな~! ちょっと、やめろってば、おい!」


 押し倒されてスンスンと匂いを嗅がれながら、オレの体に突っ込んでくるダイアの頭をモフモフとさする。


「して、主。そちらのお二方は?」

「ああ、エルフの第4皇子ベリタと、異世界からラベルと一緒に召喚されたドミーだ」

「え……? ……はぁぁぁぁぁぁぁぁあいい!? あ、いえ、失礼! 取り乱しました! すぐに歓迎の準備をさせますゆえっ!」


 そう言うとダイアは混乱した感じで足をもつれさせながら、大急ぎで来た方向へと戻っていった。


 いやぁ~、まぁオレはずっと一緒にいたからもう慣れちゃってたけど、そうだよな。

 エルフってだけでもレアなのに、そこの第4皇子だもんな。

 異界の勇者ってだけで都市伝説なのに、それに巻き込まれてついてきた一般人だもんな。

 そりゃそういう反応にもなるよな。

 しかもこの2人。

 これから対峙しなきゃいけない白銀騎士ラベルとエルフ国第一皇子エレク(デイル)への秘密兵器なんだよな。

 とはいえ、別に頼んで来てもらったんじゃなくて、どっちも勝手について来たみたいな感じなんだけど……。


「おお、巨大な犬がいたぞ! ゴブリン国のくせにやるな! かわいいぞ!」

「うお~、これがフェンリルってやつっスか? さすが異世界って感じっス!」


 ただただテンションの高い2人に、周りの一般ゴブリン達もちょっと引き気味だ。


「だれがフェンリルだと?」


 興奮するドミーを背後から巨大な影が覆った。


「あ、ドミー。フェンリルはこっちな」


 せっかく名前が出たんで闇の精霊フェンリルを召喚してあげる。

 ゆっくりと振り向いたドミーの顔がひきつる。


「二度と我の名を間違うなよ、小僧」

「は、はいぃ……」


 ドミー……やる気はあっても能力は一般人レベルだから、フェンリルに凄まれたらちびっちゃうよね……ごめんね……さすがにこれはオレが意地悪だったわ……。


 オレが自分のいたずら心を胸の中でドミーにびていると、ルゥやリサ、ヤリヤ達が出迎えにやってきた。


「フィード様、その方がいらっしゃるということは……」

「ああ」


 オレは問いかけてきたヤリヤに親指を立てる。


「上手くいった」


 仲間たち、特に執政集団から割れんばかりの喜びの声が響いた。


 ◆◇


「ふむふむ、ということは聖オファリング王国……あ~、ではなくてフィード皇国……ですな。フィード皇国はいつでも王都に向かえる、ということで?」


 例によって宮殿の大広間で歓迎会を兼ねた会議を開くオレ達。

 そこでこれまでの経緯いきさつを聞いていたゴブリン王が、そう端的にまとめる。


「そうだな、向かえると思う。でもそんなに大勢の魔物って必要かな?」

「備えあれば憂いなしですからなぁ。あって損ということはないかと」


 ヤリヤがゴブリン王に続ける。


「いくつものパターンを考えると、戦力は多ければ多いほどいいと思うます」


 ドシーン。


 ビッグフットが足音で同意を知らせる。

 蜂も空を飛んで「うん」という軌道の文字を宙に描く。


 帰ってきて改めて思うけど……この執政集団テンペストの個性強すぎるだろ……。

 魔界の魔物たちの方がまだ統一感あったぞ……。


「我、同意。数、すなわち、力」


 独特な喋り方で岩が言う。


 うん、岩って。

 改めて思うけど岩っておかしいよね?

 なんで岩が喋ってるの?

 っていうか口はどこ?

 どうやって喋ってるの?


「しかし魔物は統率が取れるのか?」


 そう渋い声で言うのはゴリラ。

 本名ゴリラで種族名もゴリラ。

 つまりゴリラだ。


「ああ、オレが向こうに通信役の眷属を作ってきたからリアルタイムで意思伝達はできる。そして広報役も作ってきたから、みんな従ってくれるはずだ」


 そう説明するオレの横で、転生者ドミー・ボウガンが「なんだよこれ……さるかに合戦かよ……」と意味のわからないことを呟いてる。


「ヒ、ヒィ……フィード様……その、もうちょっと離れてから回復魔法を行ってもらっても……」


 二日酔いのオレを癒やすべく、膝枕して回復魔法をかけてたルゥの魔法に怯えながら執政集団の1人、ゴーストがそう告げる。


 うん……マジで個性的だよな、うちの軍団……。


 しみじみそう思いながら、オレはすっきりした頭をゆっくりと持ち上げた。


「私達の方ではここまで準備が進んでおります」


 執政集団テンペストを取り仕切るヤリヤによると、大司教襲撃の準備と段取りはほぼ済んでいるとのことだった。

 あとは大司教を倒した後の洗脳が解けたはずの白銀騎士ラベル、薔薇騎士カミルにどう対処するか。

 それから、国王をどう確保して行政機関をどう押さえるか。

 最後に、邪魔をしてきそうなエルフの第一皇子エレク──本名がデイルだそうなので、今後は呼び方を『デイル』で統一することにした──をどうするか。


 大司教のデーモンロード。

 白銀騎士の洗脳勇者。

 薔薇騎士の洗脳権天使。

 正体が謎の国王と行政機関。

 そして、デイル第1皇子。


 大きく分けて、この5つのタスクがオレたちの取り組むべき課題だ。


「しかし、こうして見てみると普通の人間がほとんどいないな。悪魔、異世界人、天使、エルフ……。黒騎士も悪魔だったし」

「それだけ王国の腐敗が進んでいたのでしょう。これまで誰にも気づかれなかったってところが恐ろしくもありますが……」

「気づかれなかったというよりは、気づいた人間たちを始末してきたんだろうな」

「恐ろしいことです……」


 ヤリヤと話していると、ベリタ皇子が会話に割り込んできた。


「うむ、人間の国王はなかなかのやり手のようだな! そして、私の兄も順調に人間たちに迷惑をかけているようだ! 申し訳ない!」


 謎に自信満々で謝罪するベリタに、彼のキャラクターをまだ理解できてない仲間たちはみんなそこはかとなく引いている。


「あ、そういえばヤリヤの父親がエルフらしいんだけど、ベリタ何か知ってるか? 彼は父親を探してるんだ」

「うむ、知ってる!」

「え、知ってるのか?」

「ああ……名前はカイン。ゴブリンと子をなしたことはエルフにとって……あぁ……ヤリヤといったか、キミにはこころよく聞こえないと思うが、エルフにとっては不名誉なことなんだ。それで噂になっていたな」


 ギュッと唇を噛みしめるヤリヤ。

 ベリタもさすがに空気を読んだ言い方で伝える。


「それでカインはエルフ国に戻ってきてはいたんだが……噂に耐えられなくなったのか、そのうち何も言わずに出ていってしまった。そうか、キミがカインの……」

「いえ、いいんです。オレにちゃんと父親がいたことがわかっただけで十分です……」


 震えながらも気丈にそう告げるヤリヤ。


 そうだな……。

 王都制圧が終わったら、探しもの名人のズィダオと一緒にヤリヤのお父さんでも探しに行ってあげてもいいかもしれない。

 ああ、そういえばオレの本当の両親やヒナギクの両親もわからないんだよな。

 一段落ついたら、みんなで親探しの旅か。

 それもいいかもしれないな。


 そんなことを考えてると、今度は絶妙に空気を読まない男ドミーが間の抜けた声でこう言った。 


「いや~、まさか山岸の奴がこんなに迷惑かけてるとは思ってもなかったっス。なんか申し訳ないっスね……」


 それに性別さえも奪われた男の娘忍者のヒナギクが答える。


「気にすることないっス。自分も洗脳されてたんスけど、あれは1人で抜け出すの不可能っス」

「はぁ、そうっスか。なんにしろ目を覚まさせてやりたいっスね……。そしてまたオレの子分にでもしてやりたいっス」

「勇者を子分っスか。まぁ悪魔に洗脳されてるよりはいいかもしれないッスね」


 その2人の会話にリサが突っ込む。


「っスっスうるさいわね、あんたら! 語尾が被ってるんだからややこしいのよ!」


 突っ込んでくれてありがとう、という皆の目がリサに向けられる。


「権天使……カミルはボクがやる──!」


 そう決意を口にするのはボクっ子天使のザリエルくん。


「しかし権天使は戦いに秀でた天使だろ? ザリエル、ただの天使のキミに何が出来る?」


 あ~、なんかザリエルくんにはこういうちょっと意地悪な言い方したくなっちゃうんだよな~。

 これはザリエルくんのせいなのか、それともオレの中のラベルの邪悪な心のせいなのか……。


「ご、権天使といえども洗脳が弱まってさえいれば……ボクの言葉が届くはず! きっと……多分……」


 う~ん、弱っちいのにビビりながらも正義に燃えるザリエルくん、かわいいぞ~。


「そうか、では権天使はお前に任せるとしよう。失敗は許されんぞ?」


 ちゃんと保険はつけておくけどね。


「わ、わかったよ! ま、任せてもらって結構! 大船に乗ったつもりで待っててくれ!」


 そう言いながらも足が震えているザリエルくん。

 かわいい。

 ちゃんと陰からサポートしてあげるから頑張ってな。


「さて、それからデイル第1皇子なんだが」

「なにか策でも?」


 問いかけるゴブリン王にオレはこう答える。


「今夜潰してくる。一緒に向かうメンバーはベリタ、ヒナギク、ソラノ、ルゥの4人だ」

「おっ、私が今朝話したヒントに食いついたな! 即断即決、さすがは皇帝!」

「はいはい、了解っス」

「え、私も行っていいのぉ~?☆」

「わ、私もですかぁ?」


 ああ、 久々の復讐だ。


 オレの中の邪悪なラベルの心がくらく、昏く渦巻いていく。

少しでも「キャラクター増えすぎてカオス」「久々の復讐くるー」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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