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4人の名付け、5人の重鎮

 魔界の大宴会が明けた翌朝。

 カンカンとした刺々(とげとげ)しい朝日が、閉じたまぶた越しに突き刺さってくる。


「うぅ……ん」


 どうやら酒宴の途中で外で寝てしまっていたらしい。

 例によって二日酔いで痛む頭を抱えながら体を起こす。


「こんなに連日深酒するんだったらルゥも連れてくるべきだった……」


 ルゥならエクストラヒールでオレの二日酔いも消してくれるのに。

 そんなことを考えてると、なにか柔らかいものがオレの体に絡みついてくるのを感じた。


「あ、このパターンは……」


 人は経験によって学ぶ。

 その既視感のある感触。

 痛む頭を素早く左右に振ると、目に入ってきたのはオレに抱きついてる稲荷のムキとハーピーの姿だった。


「はぁ……またこういう感じか」


 幸いムキは服を着たままなので何か起きたということはなさそうだ。

 まぁ、ハーピーは服とか着ないからあれなんだけど、まぁ下半身鳥だしきっとなにもなかっただろう、うん……多分。


「しかし、オレがこれまで寝起きを共にした女の子ってルゥ、リサ、セレアナ、ムキ、ハーピーだけだぞ。一体どれだけ魔物に縁があるって

んだよ……」


 そんなことを思ってると、これまた2日連続でベリタ皇子からのハイテンション朝の挨拶を食らう。


「やぁ、おはよう皇帝! 魔界の朝食は美味いぞ! 朝から肉だ!」

「あぁ、おはよぅ……相変わらず酒に強いな、お前は。エルフってやつはみんなそうなのか……?」

「いや、私だけだな!」

「お前だけ?」

「ああ、私だけだ! エルフはみんな酒弱いぞ! 酒自体はみんな大好きなんだがな!」

「へぇ……そうなんだ……」


 まぁベリタなら規格外でもしょうがないだろう。

 こんなぶっ飛んだエルフにについて、いちいち詮索しててもキリがないしする気も起きない。

 って……えっ? あれ?

 エルフは酒好きなのにお酒に弱い……?


「今の話本当か?」

「ああ、本当にオレは酒が強いぞ!」

「いや、お前じゃなくてエルフはみんな酒好きなのに酒に弱いってのは本当なのか?」

「本当だ!」

「第1皇子のデイルもか?」

「当たり前だ! デイル兄なんか無類の酒好きなうえに一口で酔っ払う下戸げこだぞ!」


 なるほど……これはいいことを聞いた。

 第1皇子の居場所は、護衛のエルフを【洗脳】した時にとっくにわかってる。

 あとはデイルのスキルがヤバそうだから警戒してたんだけど、酒を使えば……。


「あ、起きてたんスか! フィード様、魔界最高っスよ! マジこんなにモテたの生まれて初めてっスよ! 異世界サイコー! 魔物サイコーっス! マジで! いやマジで!」


 顔面ツヤツヤで現れたのはドミー・ボウガン。


 うん、ウザい。

 しかもそんな話聞きたくない。


「おい、フィードの召使い! お前がモテたのはあくまでフィードのお供だからだぞ? お前の魅力でモテたわけではないことだけはわきまえておけよ!」

「わ~かってるっスよ! それでもこんなにモテたことないんで嬉しいんス! それに! オレは召使いでもお供でもないし、ドミーっていう立派な名前があるんスからね! ってベリタ様いなくなってる~!? 人の浮かれ気分に水差すだけ差してどこ行ったんスか!」


 ベリタはドミーの長々した返事など聞かず、さっさとその場から立ち去っていた。

 本当にマイペースな奴だ。

 

 さて、と。

 今日は聖オファリング王国の運営体勢を整えて、それでみんなの待つゴブリン国に戻りますかね。


 と、その時、二匹のゴブリンがオレの前に姿を見せた。


「皇帝陛下!」

何卒なにとぞ少しだけお時間をいただけないでしょうか!」


 おや、普通のゴブリンにしては言葉が達者だな。

 あ、そういえば前にもいたっけ。

 オレがソウサーと名付けてアオオニに進化したゴブリン。

 そういやあれってたしか種族名が【フィードゴブリン2世】とかいう意味不明な名称だったんだよな……。

 もしかしてこいつらも……。


「お前たち、もしかしてフィードゴブリン2世か?」


 顔を見合わせる二匹。


「フィードゴブリン2世……かどうかはわかりかねますが、我らはフィード様を崇拝する両親から生まれた兄弟でございます!」


 あ、そうか。

 この種族名って【鑑定眼】を持ってるオレにしか見えないんだった。


「いや、以前お前たちみたいなゴブリンに会ったんだ。自分で聖オファリング王国からの使者を名乗ってたんだけど、そいつがお前達みたいに流暢りゅうちょうに喋ってたんだよね、人間語を」


 再び顔を見合わるゴブリン達。


「なんと……まさか会えていたとは……」

「いや、あいつはやる奴だと思ってたよ、オレは」


 感慨深そうな二匹に問いかける。


「もしかして知り合いだったりするのか?」

「はい、その者は私達三兄弟の末っ子なのです」

「王を探しに行くと言って飛び出していったんですが、まさか本当に実現していたとは……」


 おお、ソウサーの兄弟なのか!

 三兄弟だったんだな、あいつ!

 あ、でも勝手に名前つけて姿変えちゃったんだけどいいんだろうか……。


「あ、あのさぁ……実はそのゴブリンに名前つけちゃってさ、今はアオオニって種族に進化してるんだけど……」


 恐る恐る報告するオレ。

 親が出てきて怒られたりしたらイヤだなぁ。


「なんとっ!」


 突然の大声にビクッとするオレ。


「い、いえ申し訳ありません大声など出して……。いやしかし、皇帝陛下に名付けまでしてもらえるとはなんたる光栄。我が一族末代までの栄誉でございます!」


 深々と頭を下げる二匹。


 ホッ。

 どうやら怒られはしなかったようだ。

 せっかくだから、この2匹にも名付けしてあげようかな?

 レア進化ってなかなかしないんだけど、ソウサーの兄弟なら期待できる。

 こっち側の国の管理人員も欲しいとこだし、上手くいけばこの2人に任せてもいいしな。


「よかったらお前たちにも名前を付けたいと思うんだが、どうだろうか? 三兄弟で1人だけ名前持ちってのもなんだからな」


 オレの言葉に2人は飛び上がって喜ぶ。


「ありがたき幸せ!」

「我ら三兄弟、皇帝陛下のために命をかけて忠義を尽くします!」


 お、喜んでもらえたぞ。

 しかし三兄弟の名前かぁ……。

 1人がソウサーだから、なんとなく兄弟ってわかる感じの名前がいいよなぁ。


「よし、じゃあお前がカイザーで、お前がタイラーだ」


 オレがそう名付けると、2人は光に包まれて新たな姿となって生まれ変わった。


「おお……これがオレ……。力が溢れてくる……」

「ぐーぐー」


 あれ。

 なんか1人寝ちゃってる、大丈夫かな?


 心配になったオレは【鑑定眼】で“視て”みる。


 名前:カイザー

 種族:キオニ

 職業:チャンプ

 レベル:50

 体力:10012

 魔力:2

 スキル:グーパン

 職業特性:タイマン


 え、なんか強そう。

 体力1万超えてるしレベルも高い。

 多分一対一の肉弾戦だったら魔界でも有数の強さじゃないか?

 さてさて、寝てる方は……っと。


 名前:タイラー

 種族:ミドリオニ

 職業:航海士

 レベル:22

 体力:104

 魔力:2056

 スキル:睡眠中行動

 職業特性:航路図読解


 こここ、航海士?

 航海士って船とか乗る、あの?

 う~ん、ほとんどの人は海なんて一度も見ずに人生を終えるこの巨大大陸で航海士か~。

 あとスキルの【睡眠中行動】ってのも気になる。

 寝てても行動出来るとかなんだろうか。


「タイラー、起きてる?」

「寝てます!」


 手を上げて元気に返事するミドリオニのタイラー。


「あ、寝てるけど普通に行動できる的な感じなのかな?」

「はい、そうです!」


 あ、うん。

 スキル【博識】で調べてみたけど、実際そういう能力みたい。

 なんだろう、夜警とかに役立つんだろうか。

 色々気にはなるけど、まぁ今はいいや。

 海に出る予定もないしね。


「カイザー、お前の種族はキオニだ。タイラー、お前はミドリオニ。ちなみにお前達の兄弟のソウサーはアオオニで、他にもズィダオっていうアカオニもこっちにはいる。そのうち会わせてやるよ」


 なんか次々増えていくオニシリーズ。

 これからも特別なゴブリンに名付けできたらもっと増えていくんだろうか。


「ハッ!」

「ありがたき幸せ!」


 ひざまづいてオレに忠誠を誓う2人。

 ってことでこの2人を国家の運営に組み込むためにオレは色々と準備を整えていった。


 まず、『聖オファリング王国』って名前を変えた。

 だってなんか長いし。

 しかも「聖」と「王国」って合ってないうえにオレが「皇帝」なんて名乗っちゃっててもう完全に支離滅裂で気持ち悪かったからね。

 で、ニュー国名は『フィード皇国』。

 うん、皇帝って名乗ってるし短くてスッキリしてていい。


 で、そのフィード皇国の管理運営スタッフを決めることにした。

 とはいっても、王都を制圧したら執政集団テンペストを半分くらいこっちに連れてくると思うから、それまでの代理のスタッフだね。


 ってことで、まずはハーピーに名付けをした。

 こいつがオレの魅了を広めまくった元凶らしいし、昨日も重要人物っぽい働きをしてたからな。

 フィード皇国の中枢に据えても問題ないだろう。

 よし、こいつにはこの国を広めていく広報になってもらうかな。

 う~ん、このハーピーは喋りに特徴があるから名前は……。


 名前:スピーク 

 種族:グレートハーピー

 職業:皇国広報

 レベル:48

 体力:202

 魔力:12

 スキル:王の代弁者

 職業特性:説得力+


 スピーク。

 名前はスピークにした。

 喋りが上手そうな名前だろ?

 種族も上位種っぽくなって順当進化だ。

 スキル【王の代弁者】はオレの意見を代弁する際に、言葉に威厳を持たせるそうだ。

 職業特性の「説得力+」との相乗効果で有能なスポークスマンになってくれそうだな。

 ちなみに進化したことによってセレアナみたいに人間の姿にも変身出来るようになったので、今後は人間界でも活躍が見込めそうだ。


 そして皇帝代理を稲荷のムキに任せて、軍事をキオニのカイザーに、国土の正確な把握をミドリオニのタイラーにそれぞれ任せた。

 こうなってくると、あとは離れていても連絡が取れる通信係なんだが……。


「この中で、アンデッドになってもいいっていう者はいるか?」


 オレの唐突な問いかけに、さすがの魔物たちもドン引きする。


「いや、オレの眷属になってもらって思念通話で連絡が取れたらと思ったんだが……」


 オレがちゃんと丁寧に説明すると、病弱で死にかけている子供ゴブリンを紹介された。

 子供の母親に「アンデッドでもいいから起き上がれる体にしてやって欲しい」と涙ながらに懇願されたオレは、スキル【吸血】でその子を眷属とした後、名前も付けてあげた。

 そうして誕生した我が国初の通信係の【鑑定】結果がこれだ。


 名前:イギア

 種族:アンデッドゴブリン

 職業:通信大臣

 レベル:1

 体力:1

 魔力:1

 スキル:踏ん張り

 職業特性:地獄耳


 イギアはどこかでの国の言葉で「健康」って意味だった気がする。

 アンデッドなのに健康ってのも皮肉な話だが、これからはアンデッドなりに幸せな生活を送ってくれることを期待しよう。

 ちなみにスキル【踏ん張り】のおかげで、どうにか体力1の状態でずっと踏みとどまっていたらしい。


「今までずっと辛かっただろうに、頑張ったね。全てが一段落したら、元に戻ってルゥに回復魔法をかけてもらおうね」


 そう言葉をかけると、母親とイギアはたくさんの涙と共にオレに感謝を伝えた。


 さて。

 皇帝代理のムキ、広報のスピーク、通信のイギア、軍事のカイザー、国土管理のタイラー。

 この5人をフィード皇国の運営代理の中枢に据えて、オレは皇国を後にした。

 あ、稲荷のムキに九尾狐のクナシの事を言おうかとも思ったが、代理を務めてもらうのに差し障りがありそうな気がして、なんとなく黙っておいた。

 結果、その選択は正解だったことが後で判明する。


「ふぃ~! 1日ぶりの人間界っスよ~!」


 帰りは長城の城門から堂々と人間界に戻った。

 昨日まで警備兵仲間だったドミー・ボウガンがこっちにいることもあって、人間界側から門を開けてくれたのだ。

 その警備兵達にオレは淡々と言う。


「あ、多分数日後に魔物たちが城門ぶち破ると思うから、みんな門の鍵外して避難しといてね。そっちのほうが被害ないから」


 何言ってんだこいつ……とばかりの警備兵達の表情。


「王都に報告してもいいけど、その時に死ぬ気で対応させられるのは君たちだからさ。黙って魔物に通過させた方がいいと思うんだよね」

「え……いや、ちょっと……鑑定士様……? それは本当なんですか……?」

「うん、本当本当。国のために死ぬか。それともキミたち自身の身の安全を優先するか。二つに一つだ。あ、ちなみに聖オファリング王国改めフィード皇国は人間の移住も大歓迎だぞ」


 表情を曇らせたままの警備兵達。


 そりゃそうだよね、これじゃただの脅しだもん。

 でも、ここまで聞いたらどう思うかな?


「ん? なになに? 魔物となんて手を組めるか? わかる、わかるよ~。でもね、王国も魔物と手を組んでるからね。しかも権力者だけが得するように。っていうか権力者の結構な数が魔物の成りすましだからね? いや~、マジマジ、これマジ」


 オレはスピークを呼ぶと、警備兵達の目の前で人間の姿に変身させた。

 一般的に忌み嫌われている不潔なハーピーが、見るも美しい人間の女性に変身するのを見て警備兵達からどよめきの声が上がる。


「こんな感じで上位の魔物は人間に姿を変えられるのも多いんだよ。ってことで、みんなはそれぞれ自分が一番いいと思った行動を取ってほしい。疑問等あったら、そこのスピークに聞いてくれ。なんにしろ悪いようにはしないさ」


 ドミー・ボウガンもそうだったが、戦いを生業なりわいとしている荒くれ者のものの考え方はシンプルだ。

 美しい女性が自分たちの話を聞いてくれる。

 その状況を作った時点で、もうフィード皇国の人間界への大侵攻はなかば成功したも同然だった。

少しでも「ネームド魔物めっちゃ増えて活躍が楽しみ」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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