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祈り

 仲間を殺された魔物たちが目の色を変えて一斉に襲いかかってくる。


 スキルが使えないという動揺からまず最初に立ち直ったのは、獣型の魔物たちだった。

 キマイラ、ケルピー、ケルベロス。

 3匹の魔獣が牙を剥き飛びかかってくる。


──火炎。


 オレの腕から放たれた炎の帯が魔獣達の行く手を遮る。

 水獣のケルピー、合成獣のキマイラは足が止まるが、ケルベロスは逆上して炎に突っ込んでくる。


「それはオレの……スキルじゃねぇか!」


 ケルベロスが吠える。

 きたきた、予想通り。


──変身。


 オレはケルベロスの姿に変身する。

 スキルを奪った後に最も気をつけなければならないもの。

 それは──質量。


 いくら強力なスキルを持っていても、体重数百キロの魔獣に突撃されればひとたまりもない。

 となれば、質量には質量。

 同じ体で受け止めてやる。


 ガギィィィン!


 ケルベロスの3つの頭と3つの頭、合計6つの頭がぶつかり合う。


「てめぇ……! スキルだけじゃなく姿まで……!」


──六連邪眼!


 ケルベロスの3つの頭から放たれる6本の邪眼光線。

 それはケルベロスを射ち、ケルピーを射ち、キマイラを射ち、奥にいたデュラハンを射ち、ローパーを射ち、さらに宙から襲いかかってこようとしていたガーゴイルを射った。


 複数の状態異常効果を持った【邪眼】を食らった連中は、これでもう【死の予告】の時間が切れるまでは動けない。


 ケンタウロスが弓をつがえてこちらを狙っている。


──投触手。


 突然宙に現れた触手がケンタウロス目掛けて一本飛んでいく。


(ケンタウロスは【軌道予測】を失ってるからこれで十分!)


 その予想通り、ケンタウロスの放った矢は明後日の方向に飛んでいった。


 ズズズッ……。


 足元に大量のツタが這い寄ってくる。

 アルラウネの体から伸びたツタだ。


──火炎ッ!


 そのツタを燃やす火炎を突っ切ってくる巨体が1人。

 それは【吸収眼】のストック上限の関係でスキルを奪えなかったオーク。


──変身。


 オレはオークの姿になる。

 そして本物のオークとつかみ合っての力比べが始まった。


 オレがオーガの【剛力】の下位互換だと思って候補から外したオークの【怪力】。

 どっちが強いか同じ体で勝負してみようじゃないか!


──剛力ィ!


「うぐっ……!」


 意外にも一瞬でオークが膝をついた。

 なんだこんなもんか。

 これならオレの姿でもいけるんじゃないか?

 そう思って変身を解く。

 うん、いけるな。


「ぐぁ、そん、な……ぐっあああああああ……!」


 そのままオークを一気に押しつぶす。


 バキッ……バキバキ……ッ。


「さて、と」


 さすがにもうそろそろだろ。

 そう思った時。


「ぐがぁぁぁぁあぁぁぁああああ……ッッ!」


 オレに向かってきている魔物たちが一斉に血を吹き出して倒れた。

 目の前まで迫ってきていたホブゴブリンも力尽き、オレの胸に顔を埋めている。

 それをポンと払い除けるとオレは小さく呟いた。


「もうすっかり真紅の礼服だ」


 戦いの中で赤く染まりかけていた礼服も完全に真っ赤に染まり切る。


 もう今この場で息があるのはオレ



 と



 ゴーゴン、そしてセイレーンの3人だけ。


「あ……わだじ……わだじの声……世界で一番美じい声があぁ……」


 セイレーンがご自慢のスキル【美声】を失い怨嗟えんさの声を上げている。


「なんだ、スキルを失っても人間にはならなかったな。セイレーンのままだ」

「あなだ……どうじで……!」


 目にいっぱい涙を浮かべてセイレーンはオレに恨みを訴えかける。


「オレはオレを売った奴らとお前らに復讐する。お前も復讐したければオレを追ってこい。これで平等だ。あと、一応お前には服を作ってもらったからな。ああ、この服も気に入ってる、ありがとう」


 真紅の礼服を指して丁寧に礼を伝える。

 そしてオレはゆっくりと、一言ずつ、はっきりとセイレーンに伝えた。


「お前は、オレの復讐が、フェアであることの、証として、生かした」


 わなわなと肩を震わせながら話を聞いていたセイレーンは


「ごろじでやる……! 絶対にごろじでやるぅぅううう!」


 と叫びながら教室から走り去っていった。


「……なんで……私は殺さなかったの?」


 他の魔物たちが襲いかかってくる間もずっと祈りのポーズを捧げていたゴーゴン。

 その姿が気になって何故か【死の予告】の対象から外してしまった。


「なぜ今も祈ってる?」

「あなたが言ったから。『奇跡を願ってる。あとは神に祈りを捧げるだけだ』って」


 その意外な返答にオレは呆気にとられる。


 は?

 オレのために祈ってただって?

 自分を殺そうとしてる相手のために祈ってたぁ?


「え? お前は今つまりこう言ったか? オレのために祈って……た?」

「そう」


 なんだこいつ?

 なんだなんだなんだなんだ?

 こんな奴が存在するのか魔物にも?


 こんな自己犠牲。

 こんな献身性。

 これじゃまるで……


 まるで聖女じゃないか。


 オレは気がつくとゴーゴンの目を覆っているベールをめくっていた。


「あっ……」


 ゴーゴンは恥ずかしそうに目をそらす。


「きれいだ……」


 思わず声が漏れた。


「そんな……私……あの、顔見られるの初めてだから……」

「ゴーゴン、だったからか。その目で見ると相手が石になってしまうから」


 ゴーゴンは小さく頷く。

 【鑑定眼】で見ると、スキル【石化】を失った彼女の種族はすでに【人間】になっていた。

 うねうねと蛇がうねっていた髪の毛も、ただの緑色のボブカットになっている。


「君はもう人間だ。オレのスキル【鑑定眼】が証明している」

「人の……顔を見てもいい……の?」

「ああ」

「人に……顔を見られてもいいの?」

「ああ」


 ゴーゴンは顔を両手で覆うと大声を上げて泣き始めた。


「私、ずっと人間になりたかったの! 誰の顔でも自由に見ることが出来て、誰にでも見られることの出来る人間に! その夢がっ! 夢が叶うなんて……! 奇跡が舞い降りたのは私の……私の方だった……!」

「もうゴーゴンには戻りたくないのか?」

「……うん」

「これからどうするんだ? 魔界じゃ人間が生きていくのは難しいだろ」


 ゴーゴンの目を覆う前髪からチラリと覗く上目遣い。

 そのあまりの儚さに思わずたじろいだ。


「あなたはどうするの?」

「オ、オレは人間界に帰る。魔界からから脱出だ。あ~、よかったら……一緒にくるか?」

「いいの?」

「いいもなにもお前を人間にした責任がある」

「じゃあ行く、一緒に」


 廊下から元バンパイアのリサが入ってきた。


「またナンパ?」

「お、結局来たのか」

「しょうがないでしょ! 人間のままこんなとこに置いてかれても死ぬだけよ! それにしても……」


 リサは教室を見回す。


「派手にやったものね……」

「ああ、お陰でスキルがモリモリ手に入った」

「その中には私のスキルもあるんでしょう。ぜったい返してもらうけど!」

「その中には私のスキルもあるんですよね。あっ、絶対返さなくていいですけど!」


 プリプリと怒るリサに、ニコニコと笑うゴーゴン。

 ずいぶんと対象的な2人だ。


「そういえば、そろそろ他の魔物たちが駆けつけてくるわよ」

「そうか」

「えっ~と、逃げる……感じでしょうか……?」

「そうだな」


──剛力、高速飛行。


 オレは【剛力】のスキルで2人を両脇に抱えると【高速飛行】で窓の外に飛び出した。


 人間に裏切られ「餌」と名付けられたオレ。

 魔物に戻るために仕方なくついてきてる元バンパイア。

 魔物であることを捨てて人間として生きることを決めた元ゴーゴン。


 3人の人間による冒険の旅が、今始まった。

もし少しでも「やっと冒険始まったー」「ツンデレリサかわよ」「ゴーゴンちゃん萌え」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると嬉しいです。

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