意外な転職希望者
「何を隠そう、この御方が聖オファリング王国国王にして初代皇帝、フィード・オファリング様にあらせられるぞ!」
そのベリタの言葉に、どうリアクションを取っていいのかわらない集落民たちは「?」という表情で互いの顔を伺い合う。
そのもそのはず。
当の言われた本人──つまりオレはモジモジしてるうえに、格好も立ち振る舞いにも全く威厳がないときてる。
「あの……鑑定士様は実は偉い方なので?」
「そうだ!」
堂々と言い切るベリタ。
「えっと……で、壁の向こうの魔界で言ってる聖オファリング王国ってのと関係があるんで?」
「そうだ! フィードのカリスマ性がすごすぎて魔物たちが勝手に崇め奉ってしまってるのだ!」
「はぁ……ってことは鑑定士様は魔物なので?」
「人だ!」
「ってことは人なのに魔物に祭り上げられてると?」
「そのとーり! 人なのに魔物たちに勝手に祭り上げられてるのだ! どうだ、すごいだろ!」
あまりにふわっとした宣言にざわつく集落民たち。
「あの、皇帝ってことはいくつかの国を治めてたりするわけで?」
「ん? お前皇帝について知ってるのか?」
「はぁ……なんとなくですが……」
ベリタと話してるのは、あのルゥにセクハラしてた荒くれ者のドミー・ボウガン。
「皇帝に関する言い伝えなどはエルフの里にもほとんど残ってないのに、どうしてお前がそんなことを知ってる?」
「へぇ……前いた世界の書物によく出てきてたんで……」
……ん?
「ちょっと待って、今なんて言った?」
「へぇ。だから、前にオレがいた世界の書物に……」
「そこ! 『前にオレがいた世界』って言った!?」
「へぇ、言いましたけど、それがなにか?」
「前にいた世界って何?」
「ああ。オレ、勇者召喚に巻き込まれてこの世界にやってきたんスよ。で、なんの能力もなかったから、国に雇ってもらってこうやって公務員やってるっス」
え、ちょっと待って。
聖オファリング王国に行く前にたまたま立ち寄っただけの集落で、なんかめっちゃ重要人物っぽいのに会ってしまったんだけど。
「ってことはラベル=ヤマギシの知り合いなの?」
「いや、知り合いっていうか同じクラスでたまにお小遣いとか貰ってたんスよ」
「ラベルに?」
「ええ。それでなんかヤマギシのヤローはオレにビビっちゃってて、こっちの世界に来てもオレが近くにいたら力を発揮できないってんで、オレはこうやって僻地で働いてるってわけっス」
要するにラベルにタカってた時に一緒に召喚に巻き込まれてこの世界にやってきたって感じかな。
しかし、どおりでこいつを初めて見たときから、な~んかイケ好かない気がしてたわけだ。
きっと、こいつとの嫌な記憶をオレの中のラベルの邪悪な性格が思い出してたんだろう。
「で、皇帝っていうからにはたくさんの国や領地を持ってたりするんスか!?」
キラキラと目を輝かせて質問してくるドミー・ボウガン。
「え……もしかしてだけど……お前、転職しようとしてる……?」
「あ、バレましたか? やっぱ公務員って安定してるけど、成り上がったりするのが難しいじゃないっスか。その点、帝国だったら貴族システムでなんか上手いこと一代で成り上がったり出来るじゃないスか。ほら、オレ異世界の知識もあるし。こんなとこで壁の上から魔物見てるだけじゃ惜しいと思うんスよね、このオレの眠れる才能は」
う~ん、なんか嫌な感じの押しの強さ。
人の話を聞く気がないっていうか、思い込みで突っ走るタイプっていうか。
なんか苦手かも……。
「あ~、えっと。そこら辺はほら、壁のあっち側に行ってみて状況確かめてみてからじゃないとなんとも言い難いかな~って……」
「あ、そうっスね! 全然気づきませんでした! それじゃ、こっち来てください!」
さっきまで軍事機密とか言ってたくせに、あっさり壁の上に上げてくれた。
そこでオレが目にしたのは、一面の。
「い、市場……?」
そう、市場だ。
とにかく見渡す限り露店が続いていて、すごい数の魔物達がひっきりなしに訪れている。
「おおっ! これはすごいぞ! 魔物の経済活動、侮るべからずだな!」
「え、なんでこんなことになってるの……?」
「ああ、それはっスね!」
ドミーの説明によると、まず城門前にはすごい数の魔物が集まってきてたらしい。
そして数が多くなると必要となるのはそれに見合った数の物資だ。
大量の物資を運ぶとなると、次に道が必要になる。
ってことでここ数日のうちに道、店、そして物資が揃ってこのような賑わいになってるとのことだった。
「うわ、生き急いでるな~、魔物」
「そういやゴブリンなんかは生命のサイクルが早いから、すげー密度濃い人生送ってますよ。こうやって上から見てると惚れ惚れするくらい生き急いでるッスね」
あ。
聖オファリング王国のゴブリンといえば。
「そういえば前にゴブリンが壁超えてこなかった?」
オレが名付けをしてアオオニへと進化したソウサー。
たしか彼はここを超えてきたはずだ。
「さぁ、どうですかね? 魔物なんてしょっちゅう壁超えてこっち側入ってきてますよ。誰も責任取りたくないから報告なんかしないっスけど。こないだも馬の魔物が突破して来てヤバかったっスよ」
ああ。
その馬、オレなんだよね。
その節はお騒がせ致しました。
さて、それはさておき。
この延々と壁沿いに続いてる市場国家。
一体どうしましょうかね……。
そんなことを考えてると、オレの耳に信じられない言葉が飛び込んできた。
「おお~~~い、魔物たち~~~! ここにお前らの王、フィード・オファリングがいるぞ~~~~!」
え、え、ちょっと?
残念皇子?
お前ちょっと?
え? 何やってくれちゃってんのよマジで……。
少しでも「モブ荒くれ者、まさかの転生者だった」「ベリタ皇子いると話の進み具合が早い」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。
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