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ベリタ皇子、空を飛ぶ

「おい、いつまで寝てるつもりだ! 早く起きろ!」


 その声に起こされて目を開ける。

 溢れるような柔らかい光が薄目に飛び込んでくる。


 朝か。


 そう思った瞬間、鮮やかな緑の匂いが鼻を刺激した。


 そうだ……昨日はエルフの第4皇子と密約を結びに来て……。

 ああ、そのまま酒宴しゅえんに突入してたんだった……。


「いててて……」


 体を起こすと頭がガンガンと痛んだ。


「あの程度で二日酔いとは皇帝とやらも大したことないな!」

「オレ酒とかあんまり飲まないんだよ……」


 そう言ってベリタを見ると、なんだか準備万端といった感じの姿が目に入った。


「え、なにその格好? どこか行くの?」


 まだボンヤリとした頭で、そう問いかける。


「ああ! 昨日言ったじゃないか! これから聖オファリング王国に行くんだろう!? だから私もついていくぞ!」


 …………は?


「え、言ったっけ……そんなこと?」

「言った! 言ったぞ! 魔界に行く機会なんてなかなかないからな! 楽しみだ!」

「え、皇子がそんなとこに行ってもいいの……?」

「いいわけないだろう! こっそり行くんだ、こっそりとな!」

「えぇ……」


 堂々とそう言い切る皇子。

 全然こっそり感の欠片も感じられない。

 そしてオレはうながさされるままにパタパタと準備をすると、昨日変身してたエルフの姿になってベリタ皇子と一緒に家を出た。


「よう、皇子おでかけかい!?」

「ベリタ様お出かけですか!?」

「あら、ベリタおぼっちゃまお出かけ? 気をつけてね!」


 家から一歩出した瞬間に町のみんなが挨拶をしてくる。


「あのさ……これ全然こっそりじゃないよね……?」

「いや、十分にこっそりだぞ! 皆に行き先を告げてないからな! みんなは私がどこに行くかを知らない! よって、これはこっそりだ!」

「えぇ……」


 そんなベリタの超理論に戸惑いながら、オレが昨日通ってきた魔法の小道を抜けると森に出た。


「よし、じゃあどうやって行くんだ? 馬車か? 馬にも乗れるぞ?」

「ああ……オレ一人だったら透明になって飛んでいってたんだけど、どうするかな……」

「なに!? キミは透明もなれて空も飛べるのか!? なんだそれズルいぞ!」


 多少時間はかかるけど、エルフ国に来た時みたいにダイアウルフを呼び出して乗っていくかな。

 そう言おうとした時、皇子は思いもよらない事を言いだした。


「おい! 飛んでいこう! 私も空を飛びたいぞ!」

「いや、何を言って……」

「いいから話を聞け! えっとな、これをこうして……」


 結果。

 透明になったオレがスキル【剛力】を発揮して皇子を抱えて飛んでいくことになった。

 つまりはたから見ると、ベリルが一人で飛んでいるように見える──状態で飛んでいった。


「なんでこんなこと……」


 飛びながら、いまだに腑に落ちないオレが何度目かとなる同じ言葉を漏らす。


「私が飛んでたらカッコいいだろう! きっと世界中で噂になるぞ! 空飛ぶエルフ皇子! いいじゃないか!」


 ああ……子供だ……。

 なんでこんな人に見つかるようなリスクを負って魔界に向かわなきゃいけないんだ……。


 心ではそう思いながらも、実際にこれが一番早く目的地に着く移動方法であることには違いなかった。


「あ、そろそろだな。手前で降りよう」


 長城が見えてきたのでそう提案する。


「なぜだ? 集落まで飛んでいけばいいじゃないか」

「いや、目立つから……」

「目立って結構! 目立ちたいんだ! 私がもう今後こうやって空を飛ぶことなんてないかもしれないんだぞ!? だから人が多いとこで降りよう! 目立って吟遊詩人の奏でる物語になろう!」


 ええ~……。

 でもまぁ、リスク回避でコソコソしすぎるオレの習性も時間が掛かるし、ここは時短ついでに生粋きっすいの王族の振る舞い方を勉強してもいいかもしれないな。


 そう思ったオレは「はいはい、わかったよ」と返事をすると、集落の広場にベリタを下ろした。


「おお! みんな見てみろよ! エルフが空を飛んできたぞ!」


 以前オレが来た時に【鑑定】してあげただけでちょっとした騒ぎになったほどの娯楽の少ない集落だ。

 それがエルフが空を飛んできた日には、そりゃもう大騒ぎだよな。


 実際にたくさんの兵士や住民が集まっては来てたけど、普段関わりのないエルフにみんなビビりまくってて誰も声をかけない。


「ふむ……」


 ベリタはそう呟くと、オレに「姿を現していいぞ。危害を加える気はなさそうだ」と小声で告げる。

 オレは透明化を解除すると、アベルの姿を現す。


「ん……? あれって……」

「おい、あれ数日前に来てた鑑定士じゃないか?」

「ああ、あの格安で鑑定してくれた」

「おお、ほんとだ! 鑑定士様じゃねえか! また鑑定しに来てくれたのか!?」


 ああ、そういえば前にここで路銀稼ぎに鑑定をしたことがあったな。

 たしかに見覚えのある顔がいくつかある。


「で、鑑定士様がこんなところにまたなんの用なんだ? 今度はあのキレイなねーちゃん達じゃなくてエルフがお供かよ?」


 あ~……こいつ覚えてるぞ。

 たしかルゥに絡んできてたスケベなあらくれ者でオレの最初の鑑定の客……たしか名前は……そうだ。


「ドミー・ボウガン、久しぶりだな」

「いやぁ~、旦那! 覚えててくれたのか!」

「あれからどうだ? 調子は」

「おう、旦那がオレのスキルを教えてくれたからな! あれからはそこを重点的に磨いてもうバキバキよ!」

「そうか、それはよかった」

「で、今日はなんの用でこんなとこに?」

「あ~、お前たちに聞きたいことがあってきたんだが……最近、壁の向こうの魔物の様子はどうだ?」


 オレの質問に、騒ぎ立っていた広場が一瞬静まり返る。


「どうもこうもねえよ!あいつら昼夜問わず叫びまくりやがってよ、気が触れたのかと思ったぜ!」

「そうそう、とうとう戦争が始まるのか!? と思ったけど結局なんもないしよー」

「黒騎士様まで来られてたからな、そりゃなんかあると思うよ!」


 1人が話し出すと、堰を切ったかのようにいっぺんにみんなが話しだした。


「で、今はどんな様子なんだ?」

「あ~、それがうるさいことはうるいさいんだが前ほどではなくなったかな。ただ……」

「ただ?」

「あ~……これ以上はさすがの鑑定士様にも言えねぇな。軍事機密だ」


 オレはベリタと目配せをする。


「ちなみに、壁の向こう側はどううるさかったんだ?」


 ベリタの自信満々で凛とした王族の問いかけに、集落の者たちは思わず気圧けおされする。


「え……なにって……フィード、フィード……フィード・オファリング様ってそればっか言ってんだよ……」

「ほう。ではお前たち、この者の名前を知ってるのか?」

「え、いや、鑑定士様としか……」


 それを聞いたベリタが「フン」と鼻で息をする。


「何を隠そう、この御方が聖オファリング王国国王にして初代皇帝、フィード・オファリング様にあらせられるぞ!」


 ババーン!


 そんな擬音が付きそうなほど大仰おおぎょうに紹介されるオレ。

 ベリタが「ね? 上手くいったでしょ?」みたいな得意げな顔で見てくる。


 あぁ……なんというか……は、恥ずかしいんだけど……。

少しでも「ベリタ皇子との2人旅面白い」「ルゥちゃんがセクハラされた鑑定集落懐かしい」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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