8人の執政集団
やぁやぁやぁ! 待ちに待った執政集団がやってきた。
横にデカいアカオニのズィダオ、縦に長いアオオニのソウサー。
その2人の後についてぞろぞろと色んな姿形の生き物が大空洞へと入ってくる。
そう、色んな姿形の……って、え、いやちょっと待って……?
先頭が蜂……? で次が、い、岩……?
それでゴリラに、ゴーストに、あ……なんか天使っぽいのもいる……。
あの……たしかに「無機物でもなんでも連れてこい」って言ったけど、ちょっとさすがに「なんでも」すぎない……?
ドシーン! ドシーン!
大空洞が揺れ、天井からパラパラと石片が落ちてくる。
「な、ななな、なに!?」
ビビりまくるリサにソウサーが声をかける。
「ビックフットです!」
ビビビ、ビッグフットぉ!?
ズシーン! と音がする度に地面に巨大な足跡が現れる。
オレは急いでスキル【博識】でビッグフットについて調べる。
なになに……?
──透明な巨人。彼らの存在を知ることが出来るのは、地に刻まれし巨大な足跡のみである。
え……書いてあるのこれだけなんだけど……。
いや、こんな足跡しかない透明巨人にほんとに執政能力あるのか~~~?
あの、もうちょっとさぁ……なんというか個性のおとなしい感じの奴はいないのか?
そう思って集団に目を向けると、最後尾に2人の人の姿が見えた。
うち1人はかなり珍しい服装をしている。
あれは東方に伝わる着物……っていうやつか?
艶やかな赤や銀の布地に黄金色の帯。
仕立てのよさそうな衣を纏っているのは品の良さそうな切れ長の瞳の女性。
手入れの行き届いてそうな金色の長髪が、そのオリエンタルな妖しい色香を一層に引き立てている。
さらにその背後でもそもそと動く……たくさん……の、尻尾?
あ、うん。
めっちゃ尻尾あるね、この女の人。
ふさふさの尻尾が。
えっと、この人も個性強めだからどんな人なのかはとりあえず後で考えよう。
で、もう1人は、っと……。
「ユリス!??」
そう声を上げたのは秘書のミア。
「ふぇ!? せ、先輩!? なんでこんなところに?」
個性豊かな執政集団最後の1人は、どうやらミアの知り合いのようだった。
「あー! やっぱりフィードさんだ!」
「すまん、覚えがないんだが会ったことがあったか?」
「いえいえ、私が冒険者ギルドで一方的にお見かけしてただけなんですよ~!」
「ギルドで……? ということはミアの」
「はい、後輩です」
わたわたと慌てふためきながらミアがそう答える。
「その頃から執政能力が高そうだったか?」
「いえ……どちらかというとその逆で……」
ミアの言う通り、「せんぱぁ~い!」と言いながらこっちに走ってくるユリスは執政集団の動く岩につまずいてひっくり返っていた。
「要領のあまりよくない子でした……」
「うん、見ればわかる……」
ズィダオとソウサーがオレの前に跪く。
「王、只今帰還致しました!」
「執政能力の高いと思われる8名を連れて帰りました!」
2人の後ろにいる蜂、岩、ゴリラ、ゴースト、天使、着物美人、多分いるはずのビッグフット、そしてユリスが軽く会釈をする。
「よくぞ来てくれた、オレが聖オファリング王国初代皇帝フォード・オファリングだ」
「おお……皇帝様になられたんですね……」
「いやはや流石。その器であると思っておりました」
オレが皇帝であることを素直に受け止めるズィダオとソウサー。
「ハッ、皇帝だって……?」
めちゃめちゃ渋い声でそう履いて捨てるように言ったのはゴリラ。
「おいおい、こちとらいい条件で雇ってくれるっていうから付いてきてやったんだがぁ~。ここ、ゴブリンの集落だよな? で、そこの弱そうなメスガキが皇帝? ははっ、なんの冗談だ? 子供のお遊びならオレは帰らせてもらうぜ」
おお、こいつゴリラなのにめちゃくちゃ流暢に一端の三下みたいなことを言うじゃん。
というか、演じてるんだろうな。
三下の役を。
それでオレがどう出るかを見てる、と。
要するにオレをテストしてるわけね。
自分たちがついていくに値するかどうかを。
さぁ──じゃあ、どう見せてやろうか。
舌戦? カリスマ性? 胆力? 資金力? 人望? 家柄? 血筋?
いや、ここはシンプルに──。
力。
だな。
──変身。
ワイバーンに変身したオレはゆっくりと飛び上がると大空洞上空を旋回する。
さらにスキル【咆哮】を発動して辺りの空気をビリビリと震えさせ一同を威圧する。
そしてオレは【狡猾】スキルを発動させると、より効果的な口調でゴリラを詰める。
「ひとつ。人が名乗っているのに自分は名乗りもしない非礼。ふたつ。人を見た目で判断する浅慮さ。みっつ。初対面の相手を試すような礼を欠いた振る舞い。よってお前は……」
急下降して暴れるゴリラを爪でつかむ。
オレの中にあるという勇者ラベルの《邪悪な心》の黒いシミが心の中に広がっていくのを感じる。
そして再上昇したオレは無慈悲に言い放つ。
「死刑だ」
オレが手を離すと、ゴリラは宙をかきながらまっすぐに落下していった。
「あ、あぶっあぶぶぶ……あ、すみませ……すみませんでしたー!!!!!」
そう叫びながら落ちていくゴリラ。
彼から漏れる涙や鼻水が上空に取り残されている。
人間の姿に戻ったオレは、ゴリラの背後に【高速飛行】で回り込むと地面に激突する寸前で受け止めた。
「あわ……あわわ……」
「あ、泡吹いちゃった。ごめんね、やりすぎたかも」
「だ、大丈夫ですか!?」
ルゥがゴリラに駆け寄って回復魔法をかける。
「おお……あれはもしは【エクストラヒール】……?」
「え、あの聖女しか使えないっていう……?」
「ってことはあの人……」
ルゥの高レベルスキルにどよめく執政集団を傍目に、オレは目を覚ましたゴリラへ朗らかに話しかける。
「どうだ? オレを試してたんだろ? 合格か? それともまだ見たいか?」
「あ、いえ、もうじゅうぶ……」
「そうか、まだ見たいか。よ~し、ビッグフット。オレを踏んでいいぞ~」
ドシーン! ドシドシ……。
っと足音で「いやちょっと……」みたいなことを伝えてくるビッグフット。
いや、悪いけど一回広がっちゃったこの勇者から分け与えられた《邪悪な心》のシミはそう簡単に満足しないみたいなんだよね。
「いや大丈夫、だいじょ~ぶだから。思いっきり踏んでみて。ね、ここね。はい、どうぞ」
オレはトントンと頭を指す。
ドッシン。
とビッグフットは「わかった」とでも言うようにゆっくりと足跡を鳴らした。
その直後、オレは頭上に猛烈な風圧を感じた。
──剛力&石肌。
ガッシーン……!
頭上に組んだ両腕でビッグフットの足裏を受け止める。
おお……これは結構な……。
石と化したオレの腕の表面が少しパラリと落ちた。
「ふぃ~、結構衝撃きたな~」
オレはそのままビッグフットの親指のあたりを掴んで「よいしょ」っと横に下ろす。
「よし、じゃあ次はお前だ、岩。お前って喋れるのか?」
オレに指名された岩がススス……と前に出てくる。
「我、喋る、可。岩、だけど、特異点、だから」
「おお、喋れるみたいだな。じゃあオレにぶつかってみて。お前の特技【体当たり】だろ?」
「──! 何故、それを。しかし、我、実行する、可。スキル、発動、【体当たり】」
溜めなしでいきなりトップスピードに乗った直径1メートルほどの巨大な岩がオレに向かってすっ飛んでくる。
──擬態。
つるーん。
オレ達が魔界で手こずらされた慣性ゼロの『つるつる岩山』。
オレがそれに擬態すると、飛んできた岩がオレの表面をつるーんと滑ってそのまま宙へと舞い上がっていった。
「我、間もなく、落下。すなわち、破壊、粉砕。悲哀」
オレは布団に擬態すると、落下してくる岩を宙でふんわりと包む。
「温かい、我、助かった。でも、視界、真っ暗」
そのまま優しく地面に着地したオレは、岩を布団から出して地面にコロコロと転がしてあげる。
再び人の姿に戻ったオレは全員の顔を見渡しながら言う。
「さ、『力』に関してはこんなとこかな。あとは人の心も操れるぞ。あ、敵にしかしないけどな。味方には使わないぞ。それと他人の能力も見れるし、スキルも奪える。そんでそれを複製したり改変したりも出来るな。あと名付けも出来る。おい、お前ら!」
オレが呼びかけると陰からコソコソと様子をうかがってたゴブリン達が立ち上がる。
その数、およそ数百。
「こいつらはみんな名前持ちでユニークスキル持ちだ。それに……」
──精霊召喚。
「ヒャッハー! 久しぶりの顕現だぜぇ~!」
精霊のサラマンダー、シルフ、ウンディーネ、シヴァ、ゴーレム、ラムウ、カーバンクル、フェンリル、さらにはフェンリルの影の中からダイアウルフ総勢63匹、そして魔狼ワーグのダイアが出てくる。
「ここらへんが今パッと出せるオレ達の戦力だ」
「わ、わかりました。どうかもうお収め下さい……」
「あ、あと聖女とかもいるぞ」
「せ、せ、聖女様が……!? 一体なぜこんなところに!???」
「それと聖闘気の使い手もいるな」
「ぎゃー成仏させられるー! こわいー!」
「大丈夫、モモもアンデッドだ」
「ええ~~!? アンデッドなのに聖闘気を!?」
ゴリラとゴーストがビビりまくる。
「ちなみにオレには異界の勇者の心的なものが半分入ってるらしい」
「ちょっと待って下さい、もう十分です。頭が追いつきません」
「あ、あと魔界の長城。あれをオレの仲間が押さえてる。長城全域を、だ」
「は、はぁぁぁ? それが本当ならとんでもないことだぞ!?」
「あ、わかってくれた?」
「はい、もうわかりすぎるほどにわかりました」
「じゃあさ、オレ達に何が足りないかもわかった?」
オレの問いに、すっかりしおらしくなったゴリラが片膝を付いて答える。
「はい、おそらくは……『法律』と『外交』、それに『資金』ではないかと」
おお!
ほぼ正解なのでは?
やるじゃん、執政集団。
「うん、まぁそんなとこだね。オレたちは戦闘力はかなり高いんだ。でも内政と外交があんまりなんだよ。だから、そこを君たちに補ってもらえると助かる。どうだろう、手を貸してはくれないだろうか?」
うん、いい感じでキマった。
オレがそんな事を思ってると、執政集団の中から白い手がスッと上がった。
「なんだ?」
「もし手を貸した場合、報酬はどのようなものをいただけるので?」
あの着物を着た金髪の女性──【鑑定眼】で“視”ると「九尾狐」という種族であることがわかった──が質問をする。
「基本は金銭や物資、あとは土地か? だが、なにかある場合は個別に対応させてもらう。例えば、そこにいるヤリヤの場合だと『エルフ国につれていくこと』が対価だったな」
「ふむ……なるほど。わかりました」
どこか気品を感じさせる口調でそう答える九尾狐。
「はいはーい、じゃあ僕もしつもーん!」
それまで沈黙を守っていた天使っぽい人──【鑑定】の結果、本物の天使だと判明した──が明るく手を挙げる。
「僕たちは、一体何を最終的に目指して政治をするのかな?」
「そうだな、オレ達が目指すのは──世界征服だ」
世界征服。
うわー、こうして初対面の人たち相手に言うのめっちゃ恥ずかしい。
でも言っちゃったからにはもう後には引けないから続けちゃう。
「そのためにまずエルフ国と外交を結ぼうと思ってる。そして次に人間達の王都を落とす。君たちには、その王都制圧後の政治を頼みたい」
う~ん、さすがの執政集団もオレの言葉に動揺を隠せないようだった。
「いや、世界征服って……」
「え、そもそも世界ってどれくらい広いの……?」
ドシーン! ドシーン!
ビッグフットが喜んでるのか抗議してるのかわからない足音を立てる。
「う~ん、世界征服ですかぁ。それなら僕は──協力出来ませんねぇ」
天使はニタリと笑ってそう言うと、爬虫類のような目でオレを舐るように見つめてきた。
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