どれ選ぶ? 3人のエルフ皇子
聖都制圧、大司教襲撃に向けてゴブリン達は穴を掘り、道具を作り、予行練習を繰り返していた。
名付けゴブリンのセイメイの働きのお陰で今ではもうほぼ全てのゴブリン達が名前を持っており、また全員が個別のスキルを所持していた。
そのスキルによって適材適所──例えば【穴掘り】を持ってるゴブリンなら王都下水道へと続く穴を掘り、【器用さ+】を持ってるゴブリンなら襲撃用の網や火薬玉を作る──など、それぞれに役割を割り振られていた。
また、秘書のミアやゴブリン王の段取りの妙もあって、襲撃の下準備は全て順調に進んでいた。
こうなるとあと気にしなければならないのは王都を制圧した後の執政集団と、横槍を入れてこようとしてるエルフの第一皇子エレクの2点だ。
そして、最初に事態が進展したのはエレクに関してだった。
エルフ国へ使者として出していたヤリヤ達が帰ってきたんだ。
「フィード様、今帰りました!」
「フィード、帰ったわよ」
「フィードさん、ただいまっス」
ヤリヤ、リサ、ヒナギクが出迎えるオレに元気に声をかける。
「うん、みんな元気そうで安心した。長旅で疲れただろ? あっちで食事をしながら話そう」
いつものように宮殿にみんなで集まると、床に座って果物や肉を手に再会を喜びあう。
「久しぶりねルゥ、元気だった?」
「はい! ゴブリンさん達もみんな名前がついて喋れるようになったんで優しくしてもらってます!」
「アオン! アオーン!」
ダイアウルフ達もリサ達との再会を喜んで飛びかかっていく。
「ちょ、ちょっと! みんないっぺんに飛びかかってきたら……あぶっ!」
飛びかかってきた59匹のダイアウルフに埋もれてしまうリサ。
リサの上にピラミッド状に積み重なったダイアウルフ達は「ハッ! ハッ!」と鼻息を荒くしながら尻尾をブンブンと振っている。
ちなみに同じようにヒナギクも飛びかかられたけど忍者らしくぴょいと器用に避けて事なきを得たみたいだ。
「ダイア」
「はい、我が主!」
ダイアが一言「オンッ」と静かに吠えると、リサに積もっていたダイアウルフ達はサッと散っていった。
「大丈夫か、リサ?」
「だ、だ、大丈夫に決まってるでしょ……高貴なる元バンパイアで品格高い竜騎士の私が、こ、こんなことくらいで……」
「うん、強がれるようなら大丈夫そうだな」
「そ、そうよ、ちょ、ちょっとびっくりしただけっ……!」
「その割にはめっちゃ動揺してるっスね」
「どどど、動揺なんてしてないわよ!」
「まぁまぁ、そのへんで。きっとエルフ国でもお前たちはそんな感じだったんだろうな」
2人を諫めると、オレはヤリヤの方に体を向ける。
「で、どうだったんだ? エルフ国は」
「ハッ、我が王フィード・オファリング殿下に報告いたします」
ヤリヤの話はこうだった。
・エルフ国は人間界自体に興味がない。
・エルフ王は王位争奪に興味がなく、跡継ぎは誰でもいいと思っている。
・策略家の第ニ皇子は与し易いが、こちらを裏切る可能性も高く信用できない。
・武人の第三皇子は実直で義に厚いが、王位への興味は薄い。
・軽んじられてる第四皇子は聡いが幼いゆえに臣下もおらず王位継承の可能性はほぼない。
「なるほど、それでオレたちは誰と協力関係を持つべきだと思う?」
「ハッ、私は第三皇子がいいかと。エルフ国の軍事も司っており、義に厚いゆえ第一皇子の不義を伝えれば必ず決起すると思われます」
「しかし王位に興味がないのはどうする? 持ち上げても王になる動機がなかったらエレクに本心から立ち向かわないんじゃないか?」
「たしかに王を目指していないのであれば、第三皇子にとってのメリットがない……ですな」
ゴブリン王がオレの意見に同調する。
「そうだ、結局のところメリットがなければわざわざ第一皇子と対立するとは思えない。それに軍事を司る王位に興味のない男なんてエレクが真っ先に押さえてそうじゃないか?」
「私なら絶対に弱みを握っといて危険を排除するかな☆」
そう言うのは回復師のソラノ。
こいつはエレクに命じられてルゥを殺しにきたんだが、執政能力が高いらしいので【洗脳】したまま臣下として使っている。
執政能力を持つ者が少ない今のところは……だが。
「エレクをよく知ってるソラノがそう言うならその可能性は高いと思う。よって第三皇子はなしだな。リサはどう思った?」
「私は第ニ皇子ね。もう王になりたくてなりたくて仕方がないって顔してたわよ。周りにいた臣下も年がら年中悪巧みしてますって感じの顔。利用するなら一番簡単ね。人間界での潜伏先を教えれば今すぐにでもエレクを潰しに行くと思うわ」
「ふぅん……即効性はあるけど信用はできない、か。どちらにしても強力な毒だな……飲んだらこっちまで蝕まれそうだ」
執政能力の高いゴブリン王とソラノに視線を向けて意見を促す。
「ワシも概ねフィード殿と同じ意見じゃの。利用するのはいいが、その“後”が面倒くさそうじゃ」
「どれだけ策略家かは知らないけど、エレクくんの性格の悪さとしつこさとセコさはナメないほうがいいよ? マジでドブ以下のドぐされヘドロって感じだから~☆」
うん、使えることは使えるけど不安要素もあり。
しかも第一皇子のエレクと同種の性格っぽいから、エレクを廃しても第二皇子がそのままオレたちにとっての第二のエレクになる可能性もあるな。
「ヒナギクはどう思った?」
「自分は色んなとこに忍び込んで市民の声を聞いてきたんスけど、圧倒的に第四皇子を支持する声が多かったっすね」
「へぇ、その理由は?」
「優しいんスよ。物腰も柔らかくて争いを好まない性格っス。普段から気さくに市民とも接してるみたいで人気はダントツに高いッスね。あと……」
「あと?」
「めちゃめちゃイケメンっス」
「……え? そこ大事?」
「大事っスね。特に美醜にこだわりの強いエルフ族では」
「へぇ~、リサは会ってみてどう思った?」
こういうのは女性に聞いてみるに限る。
「そう、ね……。まぁたしかに造形はよかったかも。とは言ってもほんとに子供だから年配の女性に可愛がられる感じ……かしら。見た目も性格もアイドル性は高いわね。うん、今考えると……そうね、不自然なくらいに」
「ヤリヤはどう思った?」
「はぁ、私自身が見た目が優れてるわけではないので美醜に関してハッキリとはわかりませんが、代わりにゴブリンとしての感覚で“邪悪さ”というものを本能で嗅ぎ分けることが出来ます。その邪悪さでいうと第二皇子は紛うことなき邪悪。第三皇子は善人。そして第四皇子は……」
顔を伏せながら喋っていたヤリヤはオレの顔をチラリと見上げ、こう続けた。
「とてつもない邪悪、でございます」
ほう……?
見た目も麗しく性格もよい幼子の──悪人。
いいぞ、とても気になる。
まるで蛇の道の蛇だ。
見た目も名前も偽って復讐を続けてるオレとそっくりじゃないか。
面倒だとしか思ってなかったエルフ国攻略……少し楽しくなってきたぞ。
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