出ますか? お給金
小さい小さい氷の精霊。
それがやってきたのは、エルフ国にヤリヤ、リサ、ヒナギク達を送り出した次の日の朝だった。
「主様! 主様!」
「ん? 誰か呼んだ?」
「いえ、呼んでないですけど」
朝の会議中に誰かに呼ばれた気がしたオレ。
しかし、それをきょとん顔のルゥが否定する。
「主様! ここです!」
急に耳がひんやりと冷たくなった。
「つめたっ! ……って、ん?」
驚いて耳を覆ったオレの手のひら。
その中に小さい精霊がいるのを見つけた。
「え、なに?」
「私です! 主様が呼び出した氷の精霊シヴァの分体です!」
「ああ、シヴァの。だから冷たかったんだ。で、どうしてその分体がオレのところへ?」
「はい、実は……」
冒険者ギルド受付嬢ミアの護衛に付けていたシヴァ。
そんな彼女の分体からミアの身に何が起こったかの報告を受ける。
「ええ~~~! 王国正規兵たちを凍らせたぁ~~~!?」
「は、はい。仕方なく……」
「いや、今の話聞く限りそこまで仕方なかった感じしないんだけど?」
「いえ、しかしミア様への兵士たちの態度があまりにも横柄だったもので……」
「え、理由それだけ? ミアはほんとに何も知らないから放っといても大丈夫だったのに……」
「いやしかしですね、あのまま城へと連れて行かれたらもう救出することは困難になってしまってましたので。それに無理やり無実の罪を着せられる可能性も……」
オレの目の前でくるくると舞いながら釈明するシヴァの分体。
「あ~、まぁその可能性もあるっちゃあるか……」
なんせヒナギクにあれだけ酷い仕打ちを行い続けたうえに魔物とズブズブな国だ。
ヒナギクを失った罰を誰かが受けなきゃいけないなら、無実の一般市民に責任を押し付けるくらいのことはするだろう。
「うん、そうだな。悪くない判断かもしれん、よくやったシヴァ。で、ミアは今どうしてるんだ?」
「はい、とりあえずは街を逃れさせて森に避難させてます。こちらへ向かわせようとも思ったんですが、鍛えていない人間の足ではそれも難しく。それで私だけが先にやってきた次第です」
言われてみれば精霊の体が薄くなっている。
「無理して飛ばしてきてくれたんだな、ありがとう」
「そのお言葉をいただけただけで私は満足です。ミア様の居場所は、主様の配下の魔狼に私の匂いを覚えさせれば追えるかと」
「ダイア」
「はい、我が主」
「この精霊の匂いを覚えてくれ」
「はい」
ダイアが精霊に鼻を近づけクンクンと匂いを吸い込むと、氷の精霊は「あとはよろしく……お願いします……」と言い残すと力尽きて消えてしまった。
「覚えたか?」
「はい」
「フェンリル」
「呼んだか」
「ダイアウルフ達を出してくれ」
闇の召喚獣フェンリルの影の中から、今エルフ国に向かってる4匹以外のダイアウルフ59匹全てが姿を現す。
「ちょっとオレと狼たちでミアのとこに行ってくる」
「はい、ここは私達に任せておいて下さい。フィードさん、ミアさんを必ず助けてあげてください」
「ああ」
ルゥの耳に届いただろうか、オレはすでにダイアを疾走らせながらこう答えた。
「もちろんだ」
◇◆◇◆
森。
冒険者ギルドで働いてたらなぜか王国兵に連行されて、なぜか真っ青な顔色の女の人が現れて、なぜか王国兵たちが氷漬けになって、なぜか顔色の悪い女の人に言われるまま郊外の森まで逃げてきた私。
「ハァ……ハァ……もう走れないんですけど~!」
そう言ってその場にへたり込む。
(さっきまでは冒険者ギルドのカウンターにしゃがみこんでたのに、今は逃亡してきた森の中でしゃがみこんでるなんてなんなの~。しかもこの顔色悪い女の人ついてきてるし……っていうかこの人浮いてるし。さっき兵隊さんたちを氷漬けにしたのもこの人でしょ~? なに? 悪の魔導士にでもに誘拐されてるの、私?)
横でふわふわと浮かんでいる顔色の悪い女の人に勇気を出して話しかけてみる。
「あ、あの、こんにちわ~?」
「……」
え、無視かぁ~。
結構心折れるなぁ~、あはは。
「あの、ずいぶん顔色悪いみたいですけど大丈夫ですかぁ~?」
「!」
驚いた表情を見せる顔色の悪い人。
「顔色……顔色が悪いだと……? 私、この私のことを言っているのか……?」
ふつふつとこみ上げる怒りで体が震えてしまってる感じの顔色が悪い人。
あ、これ地雷踏んじゃったかもしれん。
私、最悪ここで死ぬかも。
「口を慎め小娘っ!」
ビキビキィ!
そんな音とともに、私と顔色が悪い人の周りをぐるりと囲むように氷柱が立った。
「あ、すみません」
シンプルに謝る私。
そりゃ生まれつき顔色悪い人とかもいるよね。
触れられたくない部分は誰にでもあるもの。
そこに軽はずみに触れちゃった私に非はあるよね。
「私、デリカシーなくてほんと申し訳ないです。以後気をつけます」
「うむ、わかればよい。今後は気をつけよ」
うん、めっちゃ上から目線だなこの人。
ただなんか気まずくなって、なんで兵隊さんを凍らせて私をここに連れてきたのか聞きづらくなっちゃった。
ん~、でも聞かないことには何も始まらないからなぁ。
殺されないように気をつけて聞いてみるかぁ……。
「あの……もしよかったら少しお聞きしたいんですが……」
その瞬間、森の外から声が聞こえてきた。
「あそこだ! あの氷柱のところに違いない! 絶対に逃すな! 殺しても構わん、必ず捕まえろ!」
さっきとは別の王国兵さん達であろう声。
あ、うん。まぁそりゃこんな高い氷柱が立ってたら「私たちはここにいます」って言ってるようなもんだよね。
氷柱の氷壁はどうやら厚くはなかったようで、王国兵さんたちは剣の柄や盾でパリパリと割って私達に迫ってくる。
チラリと横を見ると、顔色の悪い人はフゥと大きく息を吸い込むもそのままクラクラと頭を抱えてよろけてしまった。
「やっぱり体調悪いんじゃないですか!」
「分体に力を割きすぎたか……。それにここは日差しが……」
目の前に迫ってくる王国兵さん。
「すまない、主様……」
え~! なんか顔色の悪い人、体が透けていってるし!
こうなったら私がなんとかしないと!
無駄死にだけは駄目だ、無駄死にだけは。
私はまだ天国にいるお父さんとお母さんのところに行くわけにはいかない。
見ろ、見るんだ。相手を観察しろ。
今までだってちゃんと相手を見て、準備して、そうやって対応してやってこれたじゃないか。
きっとここも私なら切り抜けられるハズ。
ハズ……。
ハ……ズ…………じゃない~~~……! まったく何も思い浮かばん!
目の前の兵士さんが盾ごと私に突っ込んでこようとしてる。
あ~!
もうだめだ~、私逝った~~~!
と思った次の瞬間、兵士さんの体がなにか黒いものに組み伏せられた。
「ミア、無事か!?」
私の窮地を救ってくれたその人。
聞き覚えのあるその声。
私の王子さまだ。
なぜかそう思った。
相手は女性だっていうのに。
「フィードさん!」
気づくとそう叫んでいた。
「そこで少し待っててくれ!」
大きい狼に乗ったフィードさんはそう言うと、遅れてやってきた中くらいの大きさの狼の群れたちと共に一瞬で兵士たちを拘束した。
その後、兵士たちに魔法? をかけて帰らせたフィードさんから色々と説明を受けた。
なんか王国も冒険者ギルドも教会も魔物と組んでてヤバいらしい。
で、その欺瞞を晴らしてるうちにフィードさんたちと接点のある私が攫われそうになったらしい。
それで私に護衛につけておいた氷の精霊さんが庇ってくれたんだって。
顔色が悪いだけかと思ってたけど、どうやら精霊さんだったらしい。
「もしミアがよかったらだが、オレのところに来ないか?」
フィードさんは優しそうな笑顔で私にそう言った。
う~ん、聞かなきゃいけないことは色々あるけど……。
うん、まず絶対にこれだけはハッキリさせておかないとな。
「あの」
私は満面の笑みでこう答えた。
「お給金って出ますか?」
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