腐っても元聖女見習いの魔法レジスト能力ってやつは
腹を出したゴブリンたちが好き勝手に大の字になってみんなそこら辺でいびきをかいてる。
かくいうオレもその中の一人だ。
昨夜の宴会から一夜明けた朝。
大洞穴の天井から微かに降り注ぐ陽の光が、地中から突き出たクリスタルによって増幅されて鍾乳洞の中を明るく照らす。
「ん……あぁ、いつの間にか眠ってしまってたのか……」
キラキラと眩しい光に、開けたばかりの目を細める。
「真王、お目覚めですか」
声をかけてきたのはアオオニのソウサー。
「ああ、ソウサーおはよう。ずいぶん早いんだな」
「はい、早速人材の発掘に向かおうかと思いまして」
「そうかぁ、ソウサーは働き者だなぁ」
まだはっきりしない頭を持ち上げると、オレは目をこすりながら体を起こした。
「いえ、真王にいただいた使命をしくじるわけにはいきませんので。必ず期限内に帰ってまいります」
「うん、頼りにしてるぞ」
「はい、ご期待にそえるよう力を尽くします!」
ソウサーと話してると、向かいからアカオニのズィダオとゴブリン国の王が歩いてきた。
「これはフィード殿、おはようございます」
「真王、おはようございます!」
「ああ、おはよう。これからもう向かうらしいな?」
「はい! 国王に秘宝の金棒も戴きましたし、まさに百人力! 必ず人材の首根っこを捕まえて連れてきます!」
「いや穏便に頼むからな? 働いてもらわないといけないんだから」
「ほっほっほっ。それくらいの心積もりで、ということじゃろう」
アカオニとアオオニ。
こうやって2人並ぶとほんといい感じだな。
なぜかわからないけどすごくしっくり来る。
「よし、1ヶ月後の王都制圧が叶うかどうかはお前たち2人にかかっている。執政能力のある人材を必ず連れて帰ってきてくれ」
『はい!』
ぴったりと息の合った返事をした2人は、そのままドシンドシンと足音を立てて走り去っていった。
「さて、と。では我らも始めますかな……大司教襲撃、そして王都制圧の準備を」
「ああ、忙しくなるな。あ、それでさっきズィダオが言ってた秘宝の金棒ってのは?」
「なぁに、ただ以前ここに居たというオーガの遺物ですじゃ」
「へぇ、オーガいたんだ」
「昔じゃけどな」
「見たことあるの?」
「ない」
「ないんだ」
「大昔じゃからな」
「へぇ、あの金棒【鑑定】してみればよかった」
そんな他愛も無いことを話しながらオレたちは王宮へとやってきた。
まぁ王宮といっても石を削った大階段の先にあるただの洞穴だ。
一応ゴブリンらしくドクロの飾りとかが壁にかけられてたりするけど、人間のオレ的にはあまり趣味のいいものとは言えないな。
王宮に着くとすでにグローバ姫、司法書士のヤリヤ、それにオレのパーティメンバーのリサ、ルゥ、モモ、ヒナギク、ダイア、そして昨日ここを訪れたばかりの回復師ソラノが揃っていた。
要するにセレアナ以外の主要人物全員だ。
そういえばこのソラノ。
昨日話した時点ではオレのことに気づいた様子もなく、執政部隊としても惜しみなく協力すると言っていた。
う~ん、オレの知ってるソラノとかなり違うんだよなぁ。
オレの記憶の中のソラノなら、
『はぁぁ? な~んで私が魔物ごときの手伝いなんかしなくちゃいけないわけぇ? マジで身分をわきまえろって感じなんだけどぉ? ほぉんとキモい、ムリ、早く消えて。ほんと空気読めないなぁ、アベルくんはぁ。きゅるりんっ☆』
とか言ってそうな感じなんだよな。
なんというか振る舞いから言葉遣いまで完っ全に別人。
元パーティーメンバーのモモがチラチラとソラノを見てるけど、ソラノはガン無視してるし。
「よし、それじゃあ一ヶ月後のパレードでの大司教襲撃、そして王都制圧について話をしたいとおも……」
──洗脳!
あ~、ゴブリン王が会議みたいなことを始めようとしてたけど、ソラノが気になりすぎて思わず【洗脳】使っちゃった。
「!? ぐっ……!」
後ろに反り返って倒れそうになるも、ぐっと堪えるソラノ。
瞳も薄ぼんやりと紫色になりかかってはいるが、まだ完全な紫色にはなっていない。
「あれ? 耐えた?」
「フィード殿、なにを……」
「いや、こいつオレの元パーティーメンバーなんだよね。今はオレが女の姿に変身してるから気付いてないみたいだけど。で、あまりにも前とキャラ違いすぎるから誰かに洗脳されてるか、なにか企んでるんじゃないかなって思って」
ソラノはこめかみをピクピクと引きつらせながら「こ、この女装野郎のクソ……ア、ベル……」と言うと口から泡を吹いて白目を剥いた。
「あ、気づいてたんだ?」
「女装野郎ってことにっスか?」
「いや、これは王国に正体を悟られないように変身してるわけでだな……」
「でも知られてたっスよね」
「いや、まあね!」
「しかもこの人、白目剥いてるっスよね」
「これちゃんと【洗脳】入ってるのかなぁ? それとも気絶しちゃった?」
ソラノに近づいて状態を確かめようとしたその瞬間、ソラノが急に動き出した。
「死ねッッ!」
髪の中に隠していた見るからに不穏なオーラが漂いまくってる針を指の間に挟むと、それをオレに拳ごと突き立てようとしてくるソラノ。
だが。
瞬きをする間もなくリサ、ルゥ、ヒナギク、そしてグローバの4人にソラノは取り押さえられていた。
「ん~、ソラノ惜しかったなぁ~? もうちょっとでオレを殺せたのになぁ~? これさえ刺さってればなぁ~?」
オレはソラノの手から針を取り上げると、そのつま先を自分の肌に近づけていく。
「ん? これ自分で刺して欲しい? 刺してほしいかソラノ?」
もう自分に後がないことを悟ったソラノが、醜く顔を歪めてオレを罵る。
「刺せ! 刺せよばぁぁぁぁぁぁぁか! 早く刺せぇぇぇぇぇぇえ!」
ソラノの目の前でオレはゆっくりと針を自分の肌に近づけていき、そして。
──石肌。
刺した。
パキッ。
オレの石の表皮に突き立てられた針は虚しく乾いた音を立ててポッキリと折れてしまった。
「あ……あぁ……あぁぁぁぁぁあああああ……!」
うん、こういう錯乱した精神状態のときなら簡単に入るだろ。
──洗脳。
ガクンっ。
一瞬で脱力したソラノは、瞳をてらてらとした紫色に怪しく光らせる。
「では答えてもらうぞソラノ、お前の知っていることを」
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