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リサとアオオニ

 オレたちの帰還のお祝いと、新たな来訪者2人の歓迎を兼ねてうたげもよおされることとなった。


「ゴブリンってことあるごとに宴だな」

「群れを作る魔物は大体こんな感じよね。逆に少数で生活する魔物は宴会なんて無駄なことはしないかな」


 喧騒けんそうを抜け出し、大空洞だいくうどうの崖の上に腰を下ろしたオレとリサ。

 眼下がんかでは、ダイアウルフがゴブリンを背中に乗せたり、召喚精霊が一芸を披露したりと、楽しそうに現住ゴブリンとの交流を深めている。


「しかしあの時の【魅了】がこんな大事おおごとになってるとはなぁ」

「私も必死だったから完全に忘れてたわ。まさか知らないうちに王様になってるなんてね」


 お酒が入ってるせいかリサのいつものツンツンした様子は影を潜めており、代わりに赤く上気した頬を揺らして楽しそうにころころと笑っている。


「どうしたの?」


 おっと。

 ついジッと見つめてしまっていたらしい。


「いやぁ、綺麗だなと思って」

「へ?」

「あ、いや変な意味じゃなく……」


 ボンッ!


 という音が聞こえたかのような気がした。

 顔を真赤にしたリサが背を向ける。


「あ~~、違うんだ、聞いてくれ。思ってたことが素直に口から出ちゃっただけで別に変な意味は無いんだ」

「すすす、素直に出たってそれあなた……」

「いやバンパイアのままだったらお酒飲んで頬を染めることもなかったのかなって……だからリサは不本意だろうけど、人間になってる今のリサも悪いもんじゃないっていうか……あ~、何言ってんだろオレ! なんか言葉の選択を間違えまくってる気がする!」


 お酒のせいか思考が上手くまとまらないし、ちゃんと理論立てて喋れない。

 ヤバい、これは喋れば喋るほどドツボにハマっていくやつだ。


「もういい!」と言うと、リサは竜騎士らしく壁面を器用にぴょんぴょんと飛び降りていった。


「はぁ……やっちまった……」


 これは明日朝イチで謝りにいかないとだなぁ……。

 そんなことを考えてると、今降りたはずのリサがまたぴょんぴょんと崖を登ってきた。

 オレより1段低いところで立ち止まったリサ。

 そして何故か目線をオレと合わせようとしない。


「に、人間もたしかにそこまでまぁ悪くはない部分もあるかもね……す、少し……少しだけだけどね! そう、ほんの少しだけよ!」


 人差し指を突き指しながらそう一方的にまくし立てると、リサはそのまま凄いスピードで壁面を降りていった。


「一体何がしたいんだ、あいつは……」


 まぁリサのことは明日またお酒が抜けた時に考えるとして。

 聖オファリング王国からの使者だというシュッとしたゴブリンにでも会いに行ってみるか。


──高速飛行。


 宙に浮かんでからオレはふと思い出した。

 そういえばゴブリンってこういうのが好きなんだっけ?


──変身。


 オレはワイバーンの姿に変身すると、大洞穴の中をゆっくりと旋回せんかいしはじめた。


「グギャ~! グギャギャギャ~!」


 酒に酔ったゴブリン達が興奮して叫んでる。

 オレはメスのゴブリン達に言い寄られてるシュッとしたゴブリンを見つけると、そこに降り立ち変身を解いた。


「真王!」


 周りに群がってたメスゴブリン達を振り払い、地面に頭をつけるシュッとしたゴブリン。


「あ~、いいから頭を上げてくれ。それから今後もそんなに平伏しなくていい。急に『王』って言われてもいまだになんの実感も湧かないよ。今でもなんかの間違いなんじゃないかって思ってるし」

「ハッ! しかし真王は紛うなき我らの導き手、偉大なる王で間違いありません!」

「いやそんなこと言われてもな……。あ、そうだ。ちょっとお前の能力を“視せて”もらうぞ?」

「ハッ、いかようにも!」


 直立不動の姿勢で立つシュッとしたゴブリンを【鑑定】する。


 (名前なし)

 フィードゴブリン2世

 家出息子

 レベル 21

 体力 102

 魔力 22

 スキル【探索】

 職業スキル:無鉄砲


 は? フィードゴブリン……2世……ってなんだ?

 しかも家出中なのかこいつ。

 それからここにたどり着けたのはおそらくこの【探索】スキルのおかげ、と。


「あ~、質問していいか?」

「ハッ!」

「お前、使者ではないな?」

「──!」


 シュッとしたゴブリンの顔が急に強張こわばり、「すみません!」と土下座をしながら何度も地面に頭をち付ける。


「すみません! すみませんでした!! 真王に嘘をついたことお詫び申し上げます! 此度こたびは私の命を持って償いますゆえ、なにとぞ怒りをお収め下さい!」


 オレは膝をついてシュッとしたゴブリンの肩をつかむ。


「いや待て待て待て。誰も怒ってない。怒ってないからやめるんだ、こんなことは」

「怒っていないとしても、真王様をいつわってしまった自分が許せないのです! どうかこのまま罰をお与え下さい!」


 そう言ってまた頭を地面に打ち付けようとする。


 その時、オレはふいに悟ってしまった。

 もしオレがこのまま優しくなだめ続けてもこのゴブリンは止められない。

 これほどまでに盲信している者を動かすには、オレがそれにふさわしい態度、言動をしなくてはいけないということに。


 つまりは、オレが王として振る舞えばこのゴブリンを止めることが出来る。

 逆に言えば、このゴブリンはオレに王として振る舞うことを暗に求めてきている。


 それに気づくとなんだか苛立ちの気持ちが沸き上がってきた。

 自分は卑屈な態度を取りながらも、消極的に人を操ろうというその浅ましさ、ズルさ。


 あー、これから先もずっとこういう感じが続くのは正直しんどいな。

 うん、そうだな……。

 よし。

 そっちがそうくるなら乗ってやろうじゃないか。

 そのお前の提案に。


 気がつくとオレはゴブリンにこう言い放っていた。


「──やめよ」


 ゴブリンの動きが止まる。


「お前はこのゴブリン国に入る際に使者だと偽った。それは私を騙すためではない。そして、使者をかたって訪れた先にたまたま私がいた。そうだな?」

「ハ……ハッ! その通りにございます」

「ならば、お前は私を騙したことにはならない。そしてお前は、その清廉せいれんさを持って今『私の誤解を解いた』。あるのはこの事実だけだ。相違ないか?」

「ハッ! 相違ございません!」

「よし、おもてを上げよ」


 顔を上げたゴブリンは、まるで憧れの英雄でも見るかのようなうっとりとした陶酔とうすいの表情を浮かべていた。


(はぁ……ちょっと王っぽく振る舞うだけでここまでコロッと言うこと聞くものなのか……。なんか恐ろしいな……)


「これから先、事あるごとにお前にいちいちそうやって平伏されても面倒だ。なので、お前に名と役職を与えようかと思うがどうだろうか?」

「こ、光栄でございます! つつしんでお受けいたします!」

「うむ。では今後お前は【ソウサー】と名乗るがよい。遠い異国の国で『探索』を意味する言葉だ」


 シュッとしたゴブリンの姿が光に包まれる。

 その光の渦の中から現れたのは青い肌をした巨漢の生物。

 頭に伸びる2本の角に口から覗く鋭い牙はアカオニのズィダオと瓜二うりふたつだ。

 ただ違うのは、肌の色。


 ソウサー

 アオオニ

 探索者

 レベル 44

 体力 6009

 魔力 866

 スキル【万物踏破】

 職業特性:絶対方向感覚


 以前よりも遥かに屈強になったソウサーの姿に、周りにいたメスゴブリン達は興奮して嬌声きょうせいを上げている。


「これが……オレ……?」


 自らの変異に戸惑っている様子のソウサー。


「お前の種族はアオオニだ。異国の希少変異種」

「希少種……オレが……」


 メスゴブリン達の声を聞きつけてゴブリン達が集まってくる。


「フィード様、また名付けをなされたので?」


 声をかけてきたのはアカオニのズィダオ。


「ああ、ちょうどよかった。ズィダオ、こっちへ」


 オレはズィダオをソウサーの横に並ばせる。

 ズィダオの方が少し恰幅かっぷくがよく、ソウサーの方が少し背が高い。


「探索者のソウサー、そして案内係のズィダオ。お前たち2人はこれからこの国を繁栄させていくいしづえとなる。この先、お前たちの能力で国のえきとなる場所、モノ、生物を探して国力を拡大していくのだ」


 ズィダオの職業特性『方角確定棒倒し術』。

 ソウサーのスキル、どんな場所や空間にも適応して踏み入れることが出来る【万物踏破】。


 この2つが補い合えば、それもきっと可能だろう。

 そして目下もっかオレ達が最も必要としているのは。


──野に埋もれた執政能力のある人材。


「人でも魔物でも精霊でも悪魔でも無機物でもなんでも構わん。期限は一ヶ月だ。1人でも多く連れてこい、執政能力のある者を」

「ハッ!」


 あれ……?

 なんかノリで喋っちゃったけど、もしかしてなんとかなっちゃいそう……?


 一ヶ月後のパレードに合わせた


 王 都 制 圧


 が。

もし少しでも「なんか一気に人材増えそうな予感……」「リサ、ツンデレでかわいい」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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