聖オファリング王国ってなんですか?
ゴブリン国の王宮に通された2人の訪問者。
1人はオレの元パーティーメンバーの回復師ソラノ。
そしてもう1人──というより1匹はゴブリン……なのだろうが、なんだか顔つきがシュッとしていてゴブリン特有の愚鈍さがあまり感じられない。
「客人達よ、我がゴブリン国へよくぞいらした。して、何用でわざわざこんなところまで来られた?」
ゴブリン王の言葉にソラノが一歩前へと進み出る。
「まずは王にお目通りさせていただいた事に感謝を。私は聖女見習いのソラノと申します。この度は聖女であらせられるルゥ様の身の回りのお世話をするために参じさせていただきました」
──嘘だ。
あの思い上がった高慢ちきなソラノが他人の世話なんかするわけがない。
そもそもルゥが正式に聖女に認定された時点でこいつは聖女見習いでもなんでもなくなったはず。
一体なんの目的でここに来た?
というかどうやってこんな閉ざされた場所に来ることが出来た?
「なるほど、ではソラノ殿は教会からの使いということですかな?」
ちょっとマズいかもしれないな……。
今まではオレ達しかツテがなかったゴブリン王だけど、もしかしたらソラノをきっかけに教会の魔物側に取り入ろうとするかもしれない。
なにしろ出会い頭にいきなり腕利きゴブリンの集団をぶつけてきたような王だからな。
利用はできるが信用はできない。
「いえ」
一瞬の逡巡の後、ソラノはそう答えた。
「教会とは関係ございません」
「では個人的にここに来られたと?」
「はい」
「しかしこんな人間が訪れられないような森の奥の奥、よくか弱そうな女性お一人で来られましたなぁ」
「ええ、きっと神のお導きでしょう」
ゴブリン王の疑念の問いかけをケロっとした笑顔で交わすソラノ。
いくらなんでも胡散臭すぎる。
でもまぁソラノ程度なら後から【洗脳】していくらでも問いただせる。
とりあえず今は置いておいてもいいだろ、オレの正体もわかってなさそうだし。
「ふむ。フィード殿、ルゥ殿。私に人間たちの詳しい事柄はわかりかねるゆえ、2人に判断を任せたいと思うのだが」
「ええ、構いません」
「私は……。えっとフィードさん、どう……ですかね?」
「そうだな、とりあえず彼女とはゆっくり話がしてみたいかな。後で合流しましょう」
「ふむ、ではそのように」
「はい、ありがとうございます」
ソラノはそう言うと一歩後ろに下がった。
「で、そちらの者。『聖オファリング王国』とやらからの使者ということじゃが?」
これこれこれ! これだよ! 聖オファリング王国!
なんかソラノが「聖オファリング王国」という言葉を聞いて目を見開いて驚いてるけど、そんな反応を気にしてるほどオレに余裕はない。
で!
さあさあさあ!
一体なんなんだよ、聖 オ フ ァ リ ン グ 王 国 って?
先程のソラノに倣って一歩前へと踏み出したシュッとしたゴブリン。
彼がオレやソラノの方をチラチラと見て気にしている。
「ふむ、他の者が気になるか。ではソラノ殿は一旦ご退席を」
「は、はい」
不満顔のソラノが王護衛のゴブリンに連れられ外に出る。
まだオレ達が残ってるじゃないか、というような目でこちらを見るシュッとしたゴブリンに王は「その者達は構わぬ」と告げた。
「なにしろ、その者こそがこの国の次期王であり、そちに関係があるであろう『フィード・オファリング』であるのだからな」
その言葉を聞いたシュッとしたゴブリンはその場に跳ね上がると、オレに向かって深く土下座し、頭を地面に擦り付けてこう言った。
「王! 我らが王! フィード・オファリング国王! 我らはあなたのご帰還をずっとお待ちしております! 何卒あなたの国にお戻りいただいて私達をお導き下さい!」
あまりの事情のわからなさに顔を見合わせるオレ達。
「え、と……あの……誰かと間違ってない?」
「いいえ、間違っておりません! 1000のスキル、100の姿を持ち、セイレーン、ゴーゴン、バンパイアを隷属させし魔物たちの真の解放者! 魔王を倒し、人間界を滅ぼす我らが救世主! フィード・オファリング真王に間違いございません!」
え、う~ん……?
再びみんなと顔を見合わせる。
確かにセイレーン、元ゴーゴン、元バンパイアとは一緒にいるけど隷属なんかさせてない。
スキルもたくさん持ってるし変身も出来るけど、別に1000個もスキル持ってない。
というか別に魔物の解放とやらもしないし魔王も倒さないし人間界も滅ぼさない。
おそらくオレのことを言ってはいるんだろうけど……これはあまりにも誇張されすぎている。
「えっと、あのさぁ……その聖オファリング王国ってどこにあるのかな……?」
本当に身に覚えがない。
多分誰かが勝手にオレの名前を使ってるだけなんじゃないか?
そもそも使者がゴブリンって一体どんな国なんだよ……。
「はい、ここより西、魔界と人間界を区切る長城を超えた魔物側の領域になります」
あっ。
オレたちは口を開けて三度顔を見合わせる。
言われて初めて思い出した。
すっかり忘れてたけどもしかして。
「もしかして、オレ達が城門を通って来たところ……?」
「はい、その通りです真王!! 今やそこは聖都となり、様々な工業や文化が生まれております!」
いやいやいや……。
え?
だってあそこ通ってきてからまだたった数日だよ?
それでそんなに繁栄とかありえる?
「あ、でも聖都って言ってもあそこって集落くらいの大きさだよね? 国なんて言うのは大げさなんじゃないかなぁ? アハハ……」
「いえ、その聖都からフィード様の素晴らしさが魔物たちに伝わっていき、今や領土は城門に沿った魔界の全領域です!」
ん?
………………はい?
「え、ごめんもう一回言って?」
「はい、人間界と魔界を遮る数千キロに及ぶ長城全てが聖オファリング王国です! 要するに、長城は完全に我らが押さえました! いつでも人間界になだれ込むことが出来ますよ、真王!」
うん、オレは今頭を抱えているよね。
突然の意味の分からない展開に脳がついていかない。
周りの仲間もみんな眉にシワが寄ってる。
「グギャギャギャ! これは愉快! さすがは次期王! 自身が気付かぬうちに大国の王になられてたとは! ならば我がゴブリン国も聖オファリング王国の一角にすぎませんな! なにしろ我らが次期王は、すでに魔界の現王であらせられたのですから!」
嗚呼……。
なんだかオレの関係ないところで勝手に大きな流れに巻き込まれていってる気がする……。
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