王都制圧って出来ますか?
森の中の深い谷、絶対に人が踏み入れなさそうな狭い隙間を通り抜けた先にそこはあった。
ゴブリン達の王国、超巨大大洞穴。
「すごい……」
地下に広がる王都にまさるとも劣らない大空間。
天井にはたくさんのクリスタル鉱物が埋まっており、それが地上から微かに降り注ぐ光を増幅させ、巨大な地下空間を七色に明るく照らしている。
「綺麗……」
「こんなところがあったなんて! 世界は広いわぁ!」
地上に生きるものが生涯見ることがないであろう絶景に見惚れるオレ達の耳に聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「フィードさまーーーーーーーー!」
ゴブリンの姫、グローバだ。
遠くから走ってくるグローバが……え……? いや遠くから……え、いや、ちょ、速っ……!
「会いに来てくださったのですねーーーーーー!」
ドガーン!
凄まじい勢いで文字通り“一瞬”でオレまでたどり着いたグローバが、そのまま飛びついてくる。
え。
ヤバ。
──石肌!
ドゴーン!
パラパラと崩れ落ちる岩肌。
そしてその中にめり込んでるオレとグローバ。
えっ、ギリギリでスキル発動間に合ったからどうにか助かったけど何なんの?
今オレ、リアルに死にかけたよね?
え、なに? やだ、怖い。
咄嗟に【鑑定】でグローバのステータスを見る。
グローバ
ゴブリンプリンセス
フィードの妻
レベル 4
体力 1467
魔力 50824
スキル【恋煩い】
職業特性:夫能力影響10分の1
はい~~~!? なんなのこのふざけた能力?
全編ツッコミどころしかないんだけど?
グローバがオレに抱きついたまま笑顔で何か話してるが、オレはそれを聞き流してスキル【博識】で詳細を調べる。
《恋煩い:愛する対象に関わる事象の場合のみ、能力が10倍に跳ね上がる》
《夫能力影響10分の1:夫の能力の10分の1相当を得ることが出来る》
ん??????
え~っと、グローバはオレの10分の1の能力を持ってて……?
さらにオレに関する事象の時は能力が10倍になる……?
それってつまり……?
オレの前では常にオレと同じ能力を持っちゃってるってこと???????
今、オレの胸の中でその「オレと同じ力を持ったグローバ」がニコニコしてこちらを見つめている。
え、ヤバ。
ヤバい、この姫。
色々ヤバいんだけど何が一番ヤバイかというと結婚してないオレのことを完全に「夫」として認識してるっぽいとこが最高にヤバい。
にしてもこの能力値の高さはやっぱり見逃す訳にはいかない。
オレと同等のステータス持ってるのって大司教のブラザーデンドロだけだと思ってけど、まさかここにもう一人誕生してるとは……。
さらにこの姫。
オレに関与してない事象の時、つまりオレと離れてる普段の時ですらリサ並の能力を持ってることになっちゃってる。
「姫!」
「はい?」
笑顔で答えるグローバ。
「オレはまだあなたと結婚してないんですけど、その辺ハッキリわかってますよね!?」
「はい、もちろん! 『まだ式は上げていない』ということですよね?」
「いや、違います! オレにはやることがあるから結婚は出来ないと申し上げたはずです!」
「? そのやることが終わったから、ここに来られたのでは?」
拗ねたような表情を見せるグローバ。
「いえ、姫。私たちは訳あってしばらく身を隠すためにここを訪れたのです」
「そうですか……。まだ終わってませんでしたのね……。とはいえ私と貴方は将来を約束した仲。もはや結婚してるも同然。遠慮せずにどうぞゆっくりしていってください」
いや、その「結婚したも同然」っていう認識が姫の謎能力を発動させちゃってるんだよなぁ……。
「フィード、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
駆け寄るリサ達に答える。
その時、アカオニのズィダオの姿が目に入った。
「そういえば姫、紹介したい者が」
空気を察したズィダオが一歩前に踏み出し、その巨大な影がオレたちをぬぅっと覆う。
「キャー!」
グローパの振り向きざまの拳一閃。
「?????」
ズドーン。
無防備な状態でそれをモロにアゴに食らったアカオニのズィダオは何が起きたのかもわからぬまま背中から地面に崩れ落ちる。
「あの……姫? それが私の紹介したい者、です」
「あ、あら……?」
その後、ゴブリン国の王宮に招待されたオレたちはゴブリン王にズィダオを紹介し、グローバ姫の特殊すぎる能力について説明した。
さらに、王国との対立が深まりそうなので、ここに身を隠させて欲しい旨を伝えた。
「どうぞ心ゆくまでいてくれ。5年でも50年でも。なんなら今すぐ王になってくれてもいいぞ。というかならんか? それで1日10匹に名付けしてもらえればズィダオ級のツワモノが1年後には3560匹に……。これは世界征服も可能じゃのう……」
めちゃめちゃ妄想が膨らんでるゴブリン王に「そんなに長くいる予定はない」とキッパリ伝える。
ボカして伝えると色々曲解されそうだからね。
「そうか……。それは残念じゃのう……。よし、それじゃあお主の復讐をさっさと終わらせよう! で、誰を殺すんじゃ?」
しかしこのゴブリン王、ずいぶん切り替えが早いし現金だな。
きっと人間だったらそこそこの商人として名を馳せてただろう。
でもまぁ、ゴブリンとはいえ腐っても王だ。
せっかくだし相談してみるのもいいだろう。
「実は教会の大司教ブラザーデンドロっていうデーモンロードを倒したいんです」
「デデデデデデデ……デーモ……ケホっケホっ!」
「大丈夫ですか?」
咳き込むゴブリン王の背中を撫でてあげる。
「ああ、大丈夫じゃ。すまぬ。ではもう一回いくぞ」
「は、はぁ」
「デデデデデデデデ……デーモ……ケホっケホっ……」
「え、あの、そこからやり直す必要ありました? それでまた咽てるし」
一通りの事情をザッと説明したオレ達。
すると、ゴブリン王は意外な提案をしてきた。
「感謝祭の日じゃ!」
「感謝祭?」
「ああ、感謝祭の日にはパレードがあってな。そこには大司教も姿を現すはずじゃ。殺るにはうってつけじゃろうて」
「よくそんなこと知ってましたね?」
「パレード中には留守になってる家が多いからな。ワシらにも稼ぎどきなんじゃ」
ああ、そういう……。
あんまり突っ込まないでおこ。
「で、その感謝祭はいつなんです?」
ニンマリと笑うゴブリン王。
「なんと。ちょうど一ヶ月後じゃ」
「一ヶ月か……準備するのにちょうどいいな……」
「じゃろ? ワシの方からも色々仕込んでおくわい。王都をめちゃくちゃにしてやろうぞ」
「大司教を殺した後、王都をそのまま制圧することは出来ますか?」
ご機嫌だったゴブリン王の表情に陰がよぎる。
「制圧ぅ?」
「はい、多分国王や薔薇騎士も悪に染まってると思うので、大司教を倒して勇者ラベルの洗脳が解けたタイミングで一気に制圧出来ないかなと思って。ここでまた時間をかけると色々面倒そうなので」
「いや制圧かぁ……。ワシらに出来るのは略奪、簒奪、強奪くらいのもんじゃからなぁ。しかも数が足らん」
普段はひょうきんなお調子者じいさんだけど腐っても王だな。
ちゃんと現実が見えてる。
「どれくらい足りませんか?」
「そもそも『制圧』ってのは一部の力ある少数が行っても無理なんじゃよ。その後の国家の運営が出来ないから制圧する前より悪くなっちまう。それじゃただの『破壊』じゃ。やる意味がない。やるなら『執政能力のある軍団』で押さえちまわないとダメなのよ。それでワシらには……」
「その能力はない、と」
静かにうなずくゴブリン王。
「その通りじゃ。例えワシらの数が今の10倍いても無理じゃろう。この王国はワシの強大な魔力ありきで成り立っておるからのう……。残念じゃがワシ以外のゴブリンに執政能力はないんじゃ」
ふむ……。
大司教を討ち取ってそのまま一気に復讐を全部終わらせられないかと思ったけど、そう簡単じゃなさそうだな。
そんなんことを考えてると、一匹のゴブリンが王に謁見にやってきた。
「ギャギャ! ギャギャギャ!」
「なに?」
ゴブリン王が驚いた声を上げる。
「フィード次期王よ。この知らせはお主にとって僥倖となるかもしれんぞ」
「はい?」
「客人が2人来たそうじゃ。1人は回復師を名乗るソラノという女。そしてもう1人は、『聖オファリング王国』からの使者を名乗っておる」
はい?
聖 オ フ ァ リ ン グ 王 国 ?
なにそれ?
その謎の国名のインパクトが強すぎて「なぜソラノがここにいるのか」など、その時は全く考える余裕もなかった。
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