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ルゥとアカオニ

 王都から離れた森の中でダイアウルフ達を呼び出すと、オレたちはその背に乗って数刻でゴブリンの巣穴へとたどり着いた。


「あれ……? 誰もいなさそうね……」


 たしかに以前来た時よりも随分と閑散かんさんとしている。

 というか人の気配がしない。


「自分、中の様子見てくるっス」


 そう言うとヒナギクは空気と同化して洞窟の中へと入っていった。


「私は上を見てくるわ」

「私のウルフちゃん達ぃ、周囲の魔物に聞き込みしにいくわよぉ」

「アォン!」


 リサは崖の上へと飛び上がり、セレアナは盗賊スキルなのかなんなのかよくわからない謎のカリスマ性でダイアウルフ達を引き連れ情報収集に向かう。

 しかしもうみんなすっかり自分の判断で動けるようになっていて非常に優秀だ。

 もはや安心感すらある。

 でもこれもオレが【スキル付与】を覚えてスキルを返すまでの付き合いなんだよな~。

 そう思うと一抹の寂しさが胸をよぎる。


 ゴブリンの巣穴だった洞窟の前に残されたのはオレとルゥとモモとダイア。

 するとモモが急に「ねぇねぇダイアちゃん、あっちの方を見に行ってみない?」と言い出した。

 こちらを確認するダイアにオレが頷いてみせると、ダイアは背中にモモを乗せて散策に向かう。

 これでここにはオレとルゥの2人だけになってしまった。


 あれ? いつぶりだ?

 こんなにルゥと2人っきりになるの。

 いつも周りに誰かしらいたからな。

 逆になんか変に緊張しちゃう。


「あ、そ、そういえばルゥこれから先どうするか決めたか……?」


 なんだか間が持たなくてボヤッとした質問をしてみちゃう。


「はい。教会がちゃんとしたところだったらそのまま教会に行ってたんでしょうが……」

「問題ありすぎっぽいもんな~」

「はい。なにしろ魔物が大司教ですからね……」

「おまけにスキルが【洗脳】で、異界の勇者まで洗脳してるんだからな~」

「そしてその勇者の一部がここに」


 ルゥはオレの胸を指でツンとつつくと、ころころと楽しそうに笑った。


 ああ、なんか久々に見るルゥの心からの笑顔だな。

 このルゥの笑顔がなかったら、オレは魔界でクラスの魔物全員を殺してしまってたんだ。

 そうしてたらオレは今頃一人ぼっちで復讐に明け暮れてたのかな。

 そう考えると、つくづくルゥはオレの転機となった存在だ。


 オレがギリギリ人のがわでいられるか、それとも完全に人間性を捨て去った悪魔となるか。

 その境目で、オレが悪魔側に行きすぎないようにいつもブレーキをかけてくれる存在。

 それがルゥなんだよな。

 もし、そんなルゥになにか起きてしまったらオレは──。


「フィードさん? フィードさん、大丈夫ですか?」

「ハッ──ああ、すまない考え事をしてた」

「そうですか。なんだか険しい顔をしてたんで心配しました」


 くぅ~、ルゥはこうやっていつもオレを気遣ってくれるよな。

 まさにオレにとっての聖女、いや聖母だな。

 育ての親とモモ以外でここまで親切にしてくれた人いなかったぞ今まで。


「この先のことなんですけど、私フィードさんと一緒にいてはダメですか?」

「別のいいけどいつまで一緒にいるつもりなんだ? さすがにずっとってわけには……」

「ずっとじゃダメですか?」

「えっ? い、いや別にダメってわけじゃないけど……」

「私……」


 一度(うつむ)き口をつぐむも、決意を決めた表情でオレを見つめる。


「私……この先もずっとフィードさんと……」

「ただいま~っス」


 洞窟の探索から帰ってきたヒナギクが同化のスキルを解いて姿を現す。


「とっとととぉ~~~……!」


 なぜかものすごい気まずさに包まれたオレたちは、よくわからない言葉を発しながら取りつくろう。


「あれ? どしたんスか? なんかお邪魔しちゃいました?」

「いや、邪魔じゃない! 邪魔じゃないよな、ルゥ!?」 

「は、はい! 全然邪魔じゃありません! むしろ大歓迎? です?」


 顔を真っ赤にしてよくわからないことを言うルゥ。

 さらにそのタイミングでリサ、セレアナ、モモ達も帰ってくる。


「上には別の方向に向かった足跡があったわ。結構遠くまで続いてそう」

「ウルフちゃんたちと近くの魔物に聞いたわぁ。ゴブリンはみんな昨日まとめて出発したんですって」

「フィードくん、こっちはなにもなかったよ!」

主様あるじさま! さっきは、あと一歩というところで残念で……むぐぐ!」


 モモに口を塞がれるダイア。


 こいつら隠れて見てたな……。


「で、ヒナギクはどうだった?」

「うス。中に一人留守番がいたんで来てもらったっス」


 言い終わると同時に中から一匹のゴブリンが出てきた。


「ぐが、ぐがが……」


 なにか言ってるけどわからない。


「誰か言葉わかる人いる?」


 全員が肩をすぼめている。


「う~ん、オレがゴブリンに変身すれば言葉通じるか? いや、待てよ。オレがダイアに名付けした時に種族が進化して喋れるようになったよな。このゴブリンにも同じこと出来ないかな?」

「ああ、クラスで一緒だったホブゴブリンだったら普通に喋ってたものねぇ」とセレアナが懐かしそうに言う。

「だよね。名付けの効果も詳しく知っておきたいから、ちょっと試してみようかな。キミ、いいかな?」


 問いかけてみてもゴブリンは「ぐが?」と首をかしげている。


「う~ん、まぁいいや。試してみて怒られたらどうにかしよう」

「基本的に上位の種族になって怒る魔物はいないと思うわよ」


 リサのその言葉も後押しになってオレは目の前のゴブリンに名付けをすることに決める。


「よし、じゃあキミの名前は──そうだな、昔聞いたどこかの国で『案内』を意味する言葉、【ズィダオ】だ」


 ゴブリンの体が光に包まれ、その姿を変えていく。

 そして光の中から現れたのは。


「え? なにこれ?」


 見たことのない赤い体。

 進化前のヒョロヒョロな体格とは似ても似つかない立派な巨体。

 頭に生えた2本の角に、大きな口からは鋭い牙が覗いている。


「ちょちょちょっと、フィード……!? こんな魔物見たことも聞いたこともないわよ……? なんなのこれ……?」

「ちょ、ちょっと待って。今、鑑定する……」


 リサにかされてスキルを発動する。


──鑑定。


 ズィダオ

 アカオニ

 案内係

 レベル 55

 体力 8091

 魔力 38

 スキル【爆殺棍棒術】

 職業特性:方角確定棒倒し術


「アカオニ、って種族らしい……」

「アカオニ? 聞いたことないわね。【博識】で詳しくわからないの?」

「あ、うん。ちょっと待って」


 再びリサに急かされる。

 絶対将来結婚相手を尻に敷くタイプだな、この子……。

 そしてオレは間違いなく敷かれるタイプだ。


──博識。


《アカオニ。世界の端の端、極東に住むオーガの超希少変異種。伝説的概念的存在。詳細不明》


「だって」

「え、なんでそんな変なの出てきちゃったの。せいぜいホブゴブリンくらいだと思ってたのに」

「あ~、多分名前のせい、かな……。オレが聞いた言葉ってのもそっち系だった気がするし……」

「あ~、そういう……。なるほどね」

「しかし名前で進化の仕方が変わるのか……」


 オレはダイアの方をチラリと見る。


「ダイアウルフだからダイアって名付けちゃったの安直すぎたかも……。ごめんなダイア」

「何をおっしゃいます我があるじ! こんな素晴らしい名前を付けていただき深く感謝しております! 他の名前など考えられません!」


 全身を使ってそう伝えてくれるダイアの必死っぷりがなんか可笑おかしくて思わずほおが緩んでしまう。

 

「ありがとう、ダイア。オレもお前と出会えてよかったよ」

「な、なんというありがたきお言葉!!!」


 ダイアは興奮しすぎて飛び跳ねてしまってる。


 さて。


「ズィダオ、喋れるか?」


 ズィダオ──アカオニは片膝をついてオレへの敬意を示す。


「偉大なる御方おんかた。この度はワタクシなぞに名前をつけていただき、心より感謝申し上げます」

「うん、勝手に名前つけて怒ってない?」

「怒るなどとんでもない。偉大なる御方のため、このワタクシの体、心、時間、骨、そして血の一滴まで全てを捧げさせていただく所存しょぞんでございます」


 え、いや、なんか誓いが重い……。


「え、と……そこまではしなくて大丈夫だ。オレ達が知りたいのはここにいたゴブリン達がどこに行ったかだ」

「はい、それでしたら私が案内をするようにここに残されていましたので、ご案内します」

「そうか、助かる」

「では、こちらにございます」


 オレ達を先導しようとするアカオニに、なにげに聞いてみたかったことを聞いてみる。


「なぁ、お前の職業特性の【方角確定棒倒し術】ってなんなんだ?」

「はい、『金棒を倒せば捜し物の方向に必ず倒れる』というちんけな術でございます」


 え、ちょっと待って。それすごくない?

もし少しでも「アカオニの棒倒し便利そう」「ルゥちゃんのフラグ(!?)きた~!」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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