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全員が反対なら食べません

 皆殺し日和の朝だった。


 魔界特有のどんよりした曇り空。

 ここで今から連中を虐殺できると思うと胸が踊るぜ。

 

(はやくこいこい朝礼)


 オレは檻の中でそわそわしていると、朝一番に教室にやってきたのはゴーゴンだった。


「あ、あの……おはよう……」

「ああ、おはよう」

「あの……最後、だね……今日」

「ああ、そうだね。でも、どうにか最後にならないように奇跡を願ってるよ」

「奇、跡……」

「そう、オレに出来ることなんかもうな~んもないからね。あとは神に祈りを捧げるだけ……ってここは魔界だから神はいないか」

「そんな、こと……」


 ガラガラと教室の扉が開けられる。


「おっはようございますわぁ~! あら~、もういらっしゃってましたのゴンゴルさん」

「あ、おはようございます……セレアナさん、キュアランさん……」

「セレアナ様が挨拶してくださってるのに相変わらず声がちっせーなー、お前は!」

「ぁ、すみません……」


 セイレーンは朝っぱらからテンションが高い。

 こいつ、ご自慢のスキル【美声】を取られたらどうなるんだろ。

 こいつも人間になったりするのかな?

 いや、別に【美声】は種族の根源的なスキルってわけではないから声が綺麗じゃなくなるだけなんだろうか。


「今日はあなたのためにとっておきの服を用意させましたのぉ~!」


 差し出されたのは、白の礼服。


「東方では人生最後の日に白装束というものを着ると聞きました! あなたもどこか東方の雰囲気がありますので、お似合いになるかと思って用意いたしましたわぁ!」


 くくく……これはいい。

 オレの新しい旅立ちの日にぴったりじゃないか。


「流石だね。いつも素敵な服を選んでくれてありがとう。嬉しかったよ」


 心にもないことを言ってみる。


「そ、そんなっ! 私は持てるものとして当然のことをしたまでですわ! そんな、そんな……!」


 こらえきれずに泣き崩れるセイレーン。

 腰巾着のスキュラがハンカチで溢れる涙を拭いてあげてる。

 この2人の間抜けなやり取りも見られるのは今日が最後か。

 そう考えるとちょっと名残惜しく……

 ないな。

 ない。

 うん、全くない。


 驚くほど心が傷まない。

 だってこいつらオレをさらってきて監禁したうえにイジメて、そんでそれに飽きたからって優しくしていい奴ぶって気持ちよくなりやがって。

 人の命をなんだと思ってやがるんだこいつら。

 刻一刻と近づいてくる復讐の時に向けてオレは着々とテンションを高めていく。


 ギャゴゴーン! ギャゴゴーン!


 そうこうするうちにワイバーンと吸血鬼以外の生徒が登校し、いまだに聞き慣れないチャイムと共に朝のホームルームが始まった。


「はい、皆さんおはようございます」


 大悪魔。【博識】のスキルを持った最も警戒しなければいけない人物。

 そいつが教壇の上から皆に告げる。


「皆さん、後ろをご覧ください」


 皆が一斉にオレを見る。


「このフィード・オファリングくんを我々が飼い始めて30日が過ぎました。昨日はみんな作文で彼に対する気持ちを伝えてくれましたね。先生は大変感激いたしました」


 教室がシンと静まり返る。


「そこで先生は昨日みなさんの家にアンケートを届けました。フィード・オファリングを今から殺して食べるかどうか。全員が反対なら食べません。その代わり一票でも賛成に入っていた場合、彼はこの場で殺されて我々の食料となります」


 生徒たちの間に張り詰めた空気が走る。


「ラ・リサリサさんからはもう昨日のうちに一票預かっています。他の人は渡したアンケート用紙をこの箱の中に入れていってください」


 皆は重たい腰を上げて、投票箱の中に用紙を入れていく。


「はい、全員入れましたね。それでは開票していきます」


 ゴクリ。


 誰のものともわからぬ生唾を飲む音が教室に響く。


「まず一票目、反対」


 たくさんの安堵のため息が漏れる。


「次、反対。次、反対。次……は、これも反対ですね」


 開票が進むにつれて教室の空気が明るくなっていく。

 そして、そのまま開票は27票目まで行われた。


「……反対。これで反対が27票になりました。これであと投票してない残り1人……」


 バッサ、バッサ!


 轟音を響かせながらワイバーンが窓の外でホバリングしてる。


「オレは【反対】だ! そんなちっこいの食っても腹の足しにもならんからな!」


 教室が「わあああああああああああああああああ!」という歓びの声で包まれる。


 どうやらオレは殺されないことになったらしい。

 信用はしてないがな。


 大悪魔がオークを呼ぶ。


「では、オクくん。彼を前へ」

「はァい」


 30日前と同じように、オークが檻を掴んで乱暴に前へと放り投げる。


(くっ……【軌道予測】ッ!)


 とっさに昨日ケンタウロスから奪ったスキルを使い、着地の軌道を予測してダメージを軽減する。


 どシーン。


「ぐっ……!」


 痛いのは痛いが、これでも30日前と比べたらかなりマシだ。


 カチャカチャ。


 大悪魔が檻の鍵を開ける。


「では、フィード・オファリング。前へ」


 オレはみんなの前に立たされる。


「では皆さん。この30日で皆からの愛を獲得し、死すべき運命を跳ね返したフィード・オファリングに拍手を!」


 パチパチパチパチ!


 温かい、そして激しい拍手で教室が包まれる。


「そして皆さんが人間という弱い生き物に対し、甲斐甲斐しく世話をし、愛着と思いやりを持ったということに先生はたいっっっへん感動しています! 皆の成長がほんとうに誇らしい。私の自慢の生徒たちです」


 褒められたこと、自分たちの力で結果を勝ち取ったこと、安っぽい偽善による満足感。

 そういうものがごちゃまぜになった顔でこいつらはニタニタ笑ってやがる。

 お前らが自己満に浸って笑うのは別にいい。

 だがな、オレは誓ったんだ。


 自分の道は自分で決める。

 もう二度と誰かに委ねたりしないってな。


「しかぁ~し、残念……」


 ほんわかムードだった空気が一瞬で緊張に変わる。



「すでに先生が【賛成】に入れていたのでしたぁ~~~~!!!」



 見るもおぞましく醜悪に歪んだ大悪魔の笑み。


 な? これが魔物たちの本性だよ。

次話【復讐、開始】

7月19日(今日)18:30頃更新予定


『30日後にマモノに食べられるオレ(略』は毎日更新中!

もし少しでも「先生クソすぎ……」「やっと復讐くるうううう!」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると嬉しいです。

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