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明かされる真実

 オレ達は全員で冒険者ギルド長ゾゲッタの家の前に来ていた。

 さっきまでいた宿屋はもう引き払っている。

 ヒナギク奪還が王国側に知られたであろう今。

 今後来るであろう王国からの追跡を振り切るために、一旦あそこで痕跡こんせきを消す必要がある。

  なのでゾゲッタからの聴取が終われば、その足でゴブリンの巣穴に向かう予定だ。


 眷属間での思念通話でオレは命令する。


(ゾゲッタ、開けろ)

(はい)


 カチリ。


 扉が開き、中からイカつい大男がぬうっと姿を見せた。

 結んだ白髭が特徴的な冒険者ギルドのトップ。

 数時間前にオレと死闘を繰り広げた男。

 ゾゲッタだ。


「わぁ、ほんとにゾゲッタさんですね……」


 王国トップクラスの要人が洗脳されている。

 その事実にルゥ達は半分引き気味になりながらドアをくぐった。


 オレは用心して罠やトラップがあった時のために、盗賊ギルド長から奪った【危険察知】を発動させているが、どうやらそれは杞憂きゆうで済んだようだ。


 中に入ったオレは軽く周囲を見渡す。

 素っ気のない朴訥ぼくとつとした部屋。

 目につくのはいくつかのトロフィー、あとは丁寧に手入れがされてそうな武具や防具のみ。


「早速だが話を聞きたい」


 オレはいそいそと椅子に腰を下ろしながら食い気味に詰問を始める。


 そう。

 やっと聞けるんだ。

 オレが襲われた原因を。

 そう思うと気がはやって仕方がない。


「なぜオレだったんだ?」


 やっと聞けた!

 お前なら理由わけを知ってるんだろう、ゾゲッタ!?


「それは──」


 それは?


「お前が、ラベル=ヤマギシの片割れだからだ」


 ………………。


 はい?


 ん?


 ラベル=ヤマギシの片割れ?


 なにそれ?


「片割れ?」


 つい間の抜けた声で聞き返してしまう。


「片割れだ」

「いや、だから片割れってなんだよ」

「不思議に思わんか? ラベルとアベル。互いに珍しい黒髪で背格好や年齢もほぼ同じ。まるで生き写しのようじゃないか」

「いや……お前……何言って……」


 え? こいつは何言ってるんだ?

 オレは普通に生まれた父さんと母さんの子だぞ?


「ラベル=ヤマギシは転生者だ」

「転生者って、あの?」


 リサが聞き返す。

 転生者。

 ほぼ都市伝説のようなものとして伝承の中にしか存在しない架空の存在。

 それがラベル=ヤマギシ?


「そう、あの転生者だ。これは国の上層部しか知らない極秘事項なんだが、この国では代々、秘密裏ひみつりに異世界から勇者を転生させているのだ」

「え? でも勇者が魔界に攻め入ってきたなんてもうずっと聞かないわよ。なんのために転生してるの?」


 ゾゲッタは白髭をなでると「ふむ、どこから話したらよいものか……」と目線を宙に浮かべ逡巡しゅんじゅんする。


「いや! まず! 片割れってなんだよ! それを説明しろよ!」

「まぁ、待て。よし、ちゃんと頭から順番に説明するか。それが一番わかりやすかろう」


 ゾゲッタの話を要約するとこうだ。


 まず、500年前に魔界と人間界の間に壁が作られ、お互いへの干渉はほぼなくなった。

 そうして膠着状態になると不要になったのが対魔物用の人類の切り札「勇者召喚」。

 しかし、用がなくなったからこそ勇者召喚に目をつけたのが王族、教会、そして──裏で王国とこっそりと通じていた魔界だった。

 三者は共謀きょうぼうし、召喚した勇者を自分たちの都合のいいように操ることにした。


 しかし、神の恩恵を受けた勇者には状態異常スキルがなかなか効かない。

 そこで支配者達は、勇者の「反抗心」や「残虐性」を別の肉体に移し替えてしまうことにしたらしい。

 つまり人格の一部だけを切り離し、洗脳しやすい性格のみを残すということだ。


 そうして生まれた勇者の暗黒面を宿した人間。


 それが、


 オレだ。


「え? じゃあオレ勇者なの?」

「勇者ではないな。勇者の負の感情を移された、ただの人間だ」

「異世界人でもない?」

「異世界人でもないな。この世界の住人だ」


 ん?

 なんだかよくわからないぞ?


「えっと、オレの両親は実際の両親?」

「あ~……それは……」


 言いづらそうに口ごもるゾゲッタ。


「え? 言いにくいことなの?」

「あ~、ん~……こんな形でオレの口から伝えるのもなんなんだが……」


 え、嘘でしょ?


「お前はあの2人の養子で、お前は元々は身寄りのない子供だ。しかも、一番能力の低かった子」

「ん? 能力の低かったってどういうこと?」


 放心してるオレをってリサが聞き返してる。


「仮にも勇者の一部だからな。移した器が手がつけられなくなっても面倒だろ? だから、そんなことにならないようにいつでも始末できる弱い器に閉じ込めたんだ」


 いや、人が傷心してショックを受けてる時に追い打ちみたいな事実を追加すんなよ。


「なるほど」


 リサも「なるほど」じゃねーよ。

 納得してんじゃねーよ。


「フィードさん、大丈夫ですか?」


 ルゥが気づかって声をかけてくれる。

 モモもオレの腕に手を添えて心配してくれてる。

 この2人はほんとありがたい。


 でも。


「あ~~~~~っ!」


 気がついたらオレは叫んでいた。


「なんだよ、なんだよ! ずっとオレは弱く育ってきて! それでさらわれて死ぬ目にって! それでオレの本質は『悪』だ、とか思っちゃって、それで今までこっそり地道に復讐を続けてきた理由が


『勇者のダークサイドを移されたから』


だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 辺りが静まり返る中、ハァハァとオレの荒い息遣いだけが響いている。


「そんな……! じゃあオレは……! オレの元あった人格はどうなっちゃったんだよ……!」

「で、そのフィードがあなた達に狙われるのはどうして?」


 おい、めちゃめちゃ悩んでるオレを無視して勝手に話を進めるのやめてもらえませんかリサさん。


「だから片割れだから。そして鑑定士だから。そして使い道がないと判断されたから、だな」

「? ちょっとわかるように説明してくれる?」

「ああ、だからその器は鑑定士になるんだよ、なぜか毎回。そんで鑑定士ってステータスを勝手に見れるわけだろ? そんなの、人間に成りすましてる魔物からしたら天敵以外の何物でもないわけよ」

「まぁ、そうね。で、その鑑定士をなんで今になって始末しようと思ったの?」


 一瞬間を置くと、ゾゲッタは続けた。


「いや、いつでも始末できるように弱い器に入れたとはいえ、腐っても勇者の一部が移ってるわけだからな。しかも邪悪方面の。もし成長して魔物にくみするようになったらラッキーってなものよ。なんせ神と悪魔の力を両方持った奴だからなぁ。そりゃギリギリまで見極めたいさ」

「で、フィードはそのお眼鏡にかなわなかったと」

「ま、そういうことだ。絶対に邪悪に染まるやつじゃないってことで報告は固まったんだけどなぁ……」


 そう言ってチラリをオレを顔を見たゾゲッタ。


「間違ってたみたいだなぁ……」


 いや間違ってはないけどね、実際魔物に飼われる前まではオレに邪悪要素なかったから。

 うん、自分で言うのもなんだけど根っからの小市民の小心者だったから。


「聞いてて思ったんだけど」


 モモが口を挟む。


「もしかしてマルゴットたちってあなたの手先だった?」


 ゾゲッタが力なく微笑む。


「ああ。お前らがあいつらとパーティーを組むように仕向けたのはオレだ。それからちょいちょい報告させてた。お前の追放もオレが命令した」


 モモが複雑な表情で歯を噛み締めている。

 マルゴット達の正体を見破れなかった自分を責めているのだろう。

 そして、オレはふとマルゴットの今際いまわきわの言葉を思い出した。


「じゃあ、マルゴットが言ってた『あのお方』ってのはお前のことか?」

「いや、それは違うな。『あのお方』は……」


 ドンドンドン!

 ドンドンドン!


 玄関の扉が激しく叩かれる。


「ゾゲッタさぁ~ん! ゾゲッタさんいないんですか~!? 今ギルド大変なんですよ~! 寝坊してるのなら早く来てくださいよ~!」


 オレ達は顔を見合わせる。


「ちょっと! いま踏み込んでこられたら面倒ですわよ!」

「たしかに。出来ることならオレも一般人は傷つけたくない」

「なら、そいつに返事させなさいよ!」


 セレアナの提案に乗る。


(ゾゲッタ、返事をするんだ)

(はい)


「あ~、すまん。昨日酒飲みすぎてな~。準備して向かうから先に行っといてくれ~」

「ギルド長、酒はほどほどにしてくださいよ! 自分たちここで待ってますんで! 早く支度して下さい!」


 マズいな。

 ずっとそこにいるつもりなのか。


「フィード様」


 ヒナギクが小声で話しかけてくる。


「ここは一度冒険者ギルドに行かせたほうがいいっス。そんで、その後だったらたとえ洗脳されてることがバレたとしても時間が稼げるっス」


 たしかに。

 さすが密偵女忍者、いや、性別なし忍者の言うことは的確だ。


「ゾゲッタ、聞いてたな。その通りにしろ」

「はい」


 ゾゲッタを表から出勤させてる間、オレたちはこっそりと裏口から抜け出した。

 ゾゲッタ邸からだいぶ離れたとこまで来ると、オレは思ってたことを口に出す。


「なんか一気に色々聞かされちゃって混乱してるんだが……」

「たしかに情報量多かったわね」

「っていうかオレ、自分の性格がわからなくなっちゃったよ。邪悪で冷酷なのがオレ──というかフィード・オファリングだと思ってたのに」


 オレにとっては根幹を揺らがすレベルの重大な事実。

 なのだが。

 みんなにとっては意外とそうではなかったみたいだ。


「え? でもフィード結構マヌケなとこあるわよ?」

「え?」


 リサの意外なツッコミに戸惑うオレ。


「それは言いすぎですけど、完全に冷徹ってわけじゃないですよ。私のことも人間にしてくれましたし」

「え、ああ、まぁ……」


 う~ん、ルゥはずっとあの状況でもオレのことかばってくれてたしなぁ。


「そもそも覚えてもないくらいの昔のことなら、もう別に一体化してるのではなくてぇ? それに二面性は歌を歌うなら理解必須! な感情ですのよぉ!」

「あ、うん……。オレは別に歌手とかはならなくていいから……」


 セレアナ、相変わらずズレてるけど元気づけようとしてれてる……のかな?


「昨日のこと以外何も覚えてない自分よりマシっスよ!」

「いや、こういっちゃ申し訳ないんだけど、たしかに」


 考えてみたらこうして明るく振る舞ってるヒナギクのほうが相当悲惨だ。


「フィードくんって『魔界に行ってからオレは変った』みたいなことよく言うけど、昔からわりと陰湿なところあったよ?」

「え、うそ!?」

「う~ん、陰湿っていうか『虐めてきたやつのことは絶対に見返してやるんだ』ってずっと言ってたよ。私の陰に隠れて」

「言ってたっけ?」

「うん、いつも泣きながら言ってたから無意識に言ったんじゃないかな」

「あ、そうなんだ……」


 さっきまで張り詰めてた肩の力が抜けていくのを感じる。


「女の子の陰に隠れて陰口はたしかに陰湿ね! これは勇者関係なく陰湿だわ!」

「リサさん、言い過ぎですよ!」

「陰湿! 陰湿いいじゃなぁい! しっとりした女心を憎く歌い上げてほしいわぁ!」

「自分、昔の性格すら知らないんで陰湿ってことがわかってて羨ましいっス!」


 みんな好き放題言ってくる。


「おい、お前ら! 陰湿陰湿言いすぎだろさっきから!」


 わかってる。

 みんながオレのことを元気づけようとしてくれてるのは。

 フフッ。

 なんか。

 悩む必要あったのかなって思えてきた。

 そうだな。

 まぁあと気になるのもオレの本当の両親と『あの御方』くらいのもんだし。


 あれ? あ、そういえばなんでオレの処分が「魔物のエサ」なんだったんだろう?

 効率悪くない?

 まぁいいや。

 ゾゲッタもまだ生きてるわけだし。

 また今度会った時にでも聞いてみよう。


 それにしても。

 さっきのゾゲッタ、洗脳状態とは思えないくらい自然に喋ってたな。

 まさか洗脳解けてたりとか……。

 いや、でも思念通話は通じたもんな。

 あ、そうだ。

 思念通話で今聞いてみればいいのか。


(お~い、ゾゲッタ。今ギルドに向かってるのか?)


 返事がない。


(ゾゲッタ?)


 それから


 ゾゲッタに思念通話が繋がることは


 二度となかった。 


◆◇◆◇◆◇


 地に横たわる歴戦の冒険者、ゾゲッタ。

 その喉には深々と矢が突き刺さっている。


「チッ、人のことバラそうとしやがって」


 そう呟くのはアベル(フィード)の元パーティーメンバー、エルフの狩人エレク。


「おまけに最後の最後でこのオレ様に歯向かってくるとはな。なぁ~にが『これで少しでも彼への罪滅ぼしに……』だよ、アホかよ。全然歯が立ってね~じゃねーか」


 ペッ。


 ゾゲッタの死体に唾を吐きかける。


「しかもアンデッドなんかにされてやがる。こんなのがトップとはとんだ恥晒しもいいとこだな、この国の冒険者ギルドは」


 そう言い捨てて振り向くとダルそうにパチンと指を鳴らす。

 すると、ゾゲッタの死体も突き刺さった矢も光となって消え去ってしまった。


「はぁ……。またソラノでも虐めて憂さ晴らしするか。おっとその前にギルド長様の家の中の金目のものは貰っとうこうかなっと」


 守銭奴狩人のエレク。

 エルフ王国の第一皇子。

 王国と魔界に強いパイプを持ち、ずば抜けた美貌と知性、力と非道さを兼ね備えた彼は、今日も今日とて人間界で小銭を漁る。

もし少しでも「ゾゲッター!」「エレクー!」と思った方は↓の★★★★★をスワイプorクリックしていただけると作者がめちゃくちゃ喜びます。

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